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ゴールデンジムでの攻防(?)


「おぉーここが有名な【ゴールデンジム】ね!」

 

 6月7日、日曜日。都内某所にて。

 金色に輝く上腕二頭筋のオブジェが眩しいジムの前で、清蘭きよらがそう叫ぶ。

 今までテレビCMでしか見たことのなかったオブジェ(それ)を実際に目にして、謎の感動が押し寄せていた。


「わぁ……凄く輝いてますね」


「ぴっかぴかだね~1年生だね~」


「む……あれは金箔か。純金ではないな」


「どうして純金を使わないんだろうね?」


 叫び声を上げるのみならず、元々の美貌で人々の注目を集める清蘭。加えて隣には音唯瑠ねいる白千代しろちよ、エデンにエルミカ、と清蘭と同等の美少女が揃いも揃ったことで、もう人々の目は釘付けになるしかなかった。

 

「よーしっ! 皆頑張ろーね!」


「は、はいっ!」


「ボク、ムキムキを目指すね~」


「基礎体力を上げつつ、無駄な筋肉をつけずに必要な筋力をつけないとな」


「どんなマシンがあるのか、楽しみデス!」


 清蘭の音頭で881(ヤバイ)プロ一行はやる気を燃やしつつ、【ゴールデンジム】の中へと進んで行く。

 今回清蘭達が【ゴールデンジム】に来たのは、偏に基礎体力アップを目的としたものであった。言うまでもないが、アイドルとは歌って踊って人々を魅了する存在である。

 しかし、そもそも"歌って踊る"という行為には、多大な体力を要する。ただカラオケで全力で歌うだけでも疲れるのだから、そこに踊るという行為も加わると尋常ではない体力が求められる。さらに言えば、清蘭達が目指すのは"日本一のアイドル"だ。生半可なパフォーマンスでは到底、その高みに至ることはあり得ない。

 その為、雄和太おわたによって勧められたのが【ゴールデンジム】でのトレーニングであった。数あるジムの中でも屈指の人気を誇り、名だたる一流アスリートやアイドルも利用していると名実共に揃ったなここで、881《ヤバイ》プロの面々は肉体改造に挑もうとしていたのだった。

 

 "入会受付中ッ!!"と暑苦しい勢いで書かれたのぼりばたに挟まれつつ、清蘭を先頭に皆は進んで行く。外から見える1階部分はタイルの床にレジ付きのカウンター、飲み物やプロテインなどの自動販売機、などジムらしい内装に目を見張りつつ、5人の目が最も吸いこまれたのは……。


「ひっ……!?」


「うわぁ〜……」


「な、何だ……!?」


「ぴゃー!!」


「何あの化け物……!?」


 驚きや恐怖。様々な感情を皆が見せる中、皆 気持ちを代弁した清蘭がポロッと零した言葉は、その存在を分かりやすく表していた。

 明らかにサイズの合っていない、ピッチピチの白Tシャツを着込んで、血管が明らかに浮き出るほど隆起した腕や足の筋肉、そしてシャツからはみ出した鋼のような6パック。そして、褐色肌。そんな人の形をした何かが受付カウンターに立っていたのだ。

 初めてその存在を見た5人は絶句して思わず立ち止まった。普段目にするCMでも、あんな化け物は1秒たりとも映っていない。

 もしかしたらここはジムとは名ばかりの魔窟なのかと、あの清蘭や白千代しろちよですらも言葉を失うほどだ。

 有無を言わさぬ威圧感に、5人は押し黙ってしまうてんが。


「……行くよ、皆。ここで怖気てたら、何も出来ないから!」


 立ち止まっていた皆の足を、清蘭がその言葉と共に動かす。

 雄和太おわたの紹介ということは、まずそれが生易しい試練であるはずがない。

 清蘭と皆は瞳に闘志の炎を燃やすと、店に入って行った。

 

「いらっしゃいませッッッ!!」


「──っ!?」


 しかし、それはもう予想外と言わざるを得なかった。

 入店するや否や、ゴリラが掛けてきたのは歓迎の言葉。客を迎え入れる何気ないありふれた言葉。

 それがまさに……''砲弾''となって襲いかかって来たのだ。マイクを通さずとも爆音と言える声量に迫力、これが筋肉の力なのだと実感しつつ、清蘭は何とか対応する。


「会員証はお持ちでしょうかッッッ!!!?」


「あ、あの……! 持ってない……」


「ではッッッ、新規のお客様でしょうかッッッ!!!?」


「そ、そうよ……! 5人……登録したいの……!」


「かしこまりましたッッッ!! こちらの用紙にご記入の上ッ、再度こちらで受け付けさせて頂きますッッッ!!!」


「う、うん。ありがと……!」


 近場で接すると、最早ただのゴリラであった。威圧感も増し増しで清蘭は顔を逸らしそうになるも堪えて、カウンターにセットされていた紙を5枚取るとそそくさと皆の元に帰って行った。


「こ、怖かったぁーーーっ!! 何あの生物!? 言語を話せるゴリラなんていないでしょーーーっ!!」


「き、清蘭さんありがとうございます。私だったら声の勢いに気絶してるところでした……」


「ボクも行ってたらフリーズする所だったよぉ〜……ありがとね清蘭ちゃん」


「未知の存在過ぎますねあれは……。わたくしでも厳しかったかなと思われます……」


「清蘭先輩本当にありがとうございますデス……ワタシ、もうトラウマになりそうデス……」


 既に序盤の攻防から精神を削られる皆。既に疲労の色が見える中で申し込み用紙に記入をし、その時も「ありがとうございますッッッ!!!」の挨拶から始まるジムの説明を喰らい……清蘭の顔から血の気は引いていた。


「お、オッケー……皆……行こう……」


「き、清蘭さんしっかり!」


「おいたわしや〜清蘭ちゃん……」


「くっ、清蘭先輩はもうダメです! 今度はわたくしが先頭に立ちます!」


「そんな!? お姉ちゃあぁぁあん!!」


 ボロボロになった清蘭を音唯瑠と白千代が肩を貸して支え、決意を見せるエデンを死地に送り出すかのような悲鳴を上げるエルミカ。

 既にピンチに陥っている5人は、ゆっくりと重い足を動かして次なる魔窟にして本場──2階のトレーニングフロアへと向かったのだった。


 

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