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5人揃って初めての


「よーし! バリバリ練習するぞーっ!!」


 都内某所のダンススタジオ【テレプシコーラ】に着いた清蘭きよら達。最早、お馴染みと言う感じで顔パスに近い感じで受付を済ませてスタジオに入ると、清蘭は溢れんばかりのやる気を漲らせていた。

 

「清蘭さん凄くやる気ですね」


「あったり前よ! これまでの遅れを取り戻さなくちゃ! それに、今日が初めてでしょ? 5人揃ってレッスンって! あたし、それが凄く嬉しいんだ!」


 清蘭は笑って皆に言う。

 ここにいる誰もが、その笑顔が嘘偽りなど微塵もないものだと知っていて。清蘭につられて、全員が笑みを零していた。


「ふふっ、そうですね。それじゃあ、今日はもっと頑張りましょうか!」


「そうだね~。ボクもいつもの1.26倍くらい頑張るよ~」


「ではわたくしは200%頑張りますね」


「だったらワタシは260%デス!」


「ふっふーん! だったらあたしは5000兆倍頑張るんだから! よーし、じゃあ早速ダンスから──」


「待って下さい清蘭先輩。レッスンの前にちゃんとストレッチしないと駄目ですよ。怪我したら元も子もないですし」


「ストレッチなんてやってたら、せっかく出て来たやる気が──……」


 と、そこまで言いかけて清蘭の言葉が止まる。

 誰かの言葉を聞く素直さを持つこと。まずそこから自分の性格を改善していこうと思ったのもあるが、それ以上に頭に浮かんだのは、大怪我をしてしまった倫人のことで。


「そーね。まぁしっかりと練習する為にも、ストレッチはしといた方が良いよね」


「そうデスそうデス! それじゃ、早速やりましょうデス!」


 あっさりと引き下がった清蘭、そして開始の音頭を取ったエルミカによって一同はスムーズにストレッチを開始する。あれほど騒がしかった清蘭もしっかりと集中し、スタジオを静寂が満たす……が。


「よし、ストレッチ終わりっと!」


「「えぇ!?」」

 

 ほんの3分ほどやった所で、清蘭はもうあっけらかんとした顔でストレッチを切り上げていて。これには思わずエデンとエルミカが同時に驚きの声をあげていた。


「ちょ、ちょっと清蘭先輩!」


「え? 何~?」


「何って、ストレッチの時間短すぎると思うんですが……」


「あ~清蘭ちゃんって大体いつもこれぐらいなんだ~カップ麺みたいだよね~」


 白千代しろちよのフォローが入るも、独特な表現に困惑せざるを得ないエデン達。

 だがとにもかくにも、清蘭がまだストレッチ不足なのは否めない。「とにかく、ストレッチに戻って下さい」と清蘭の手を引いた……その瞬間。


「~~~っっっ!!?」


 まるで、電撃に打たれたような衝撃がエデンの全身に走る。


(ば、馬鹿な……こんなことって……!?)


「えっ? なっ、何よエデン!?」


 驚愕したままエデンは清蘭の全身を触り始め、それに清蘭はびっくりしていた。


「わっ、わひゃっ、あはははははははっ! ちょっ、やめてエデンっ! くすぐっ、くすぐったいじゃんぎゃはははははははっ!! うぇへへへへへへっ!!」


(な、なんてことだ……凄すぎるっ……!)


 清蘭が下品に爆笑する中で、エデンは驚愕を深めていく。清蘭の全身を触れば触るほど、驚きは増すばかりで。


(たった3分間のストレッチ……それだけで、清蘭先輩の身体は"整う"のか……!)


 ゴクッ、とエデンは生唾を飲み込んでいた。

 倫人直伝のストレッチでも30分ほど入念にやり続けて、ようやく身体を仕上げることが出来るエデン。出来上がったかどうかは全身を触り、筋肉のほぐれ具合などを見ることで判断出来るのだが、感覚に間違いがなければ清蘭の身体は既に完璧な状態であった。


「お姉ちゃん、どうしたの?」


「エルミカ、清蘭先輩は……やはり凄いぞ。触ってみろ」


「……わーっ!? ホントだ! 凄い凄い凄いっ……!」

  

「ほぐひっ!! あぶひゅひゅひゅひゅひゅ!! あんはっはああははははははははっ! ひぃーひぃーひぃーはははははははははははっ!!」


 エデン、さらにはエルミカにも容赦無く全身を触られ、ますます清蘭から狂った笑い声が漏れ出る。音唯瑠ねいると白千代はその光景をストレッチしたまま唖然と見つめるだけで。


「受付終わったよ皆ー。よし、じゃあ今日もレッスンを頑張ってうわああぁああああぁあああぁああああ!!?」


 そして、遅れてスタジオにやって来た雄和太おわたがその光景に絶叫して。その叫び声と清蘭の笑い声がスタジオ中に響き渡っていたのだった。







「えーっと、それじゃ皆良いかな?」

 

 30分後。

 ようやく全員がストレッチを終えて、すっかりと身体の準備が出来た頃。皆が円となる形で座り、レッスン前の雄和太の話に耳を傾けていた。


「改めて、今日は5人揃って初めてするレッスンの日だね」


「そーそー! だからプロデューサー早くやっちゃおうよ! あたしってばやる気MAXパワーなんだから!」


「まぁまぁ落ち着いて清蘭ちゃん。やる気があるのは良いことだけどね。でもレッスンの前に、皆に伝えておきたいことがあるんだ。これは、皆に関わる重要なことなんだ」


 雄和太の雰囲気が変わる。清蘭を叱った時と同じようなものに。流石にそれを感じ取ると、押せ押せだった清蘭も流石に弁えていた。


「皆はこれから、正式にデビューすることになる。じゃあ、ここで1つ問題だ。デビューするにあたって、必要なものは何かな?」


「デビューに、必要なもの?」


 そう口にしたのは清蘭だったが、皆は同じように雄和太の問いにきょとんとしていた。


「それはやはり、覚悟だと思います。これから自身がアイドルとして人前に立ち全力のパフォーマンスを行う、どんなに辛いことがあってもめげない、そういう覚悟が必要だと思います」


 先陣を切って答えたのは、真面目でしっかり者のエデンであった。対し、「良い答えだね。でも、今回の答えとは違うかな」と穏やかに雄和太は返していた。


「それじゃ~お金かな~?」


 端的に、且つゆったりとした口調はやはり白千代の答え。「うっ! た、確かにそれは差し迫っての問題だけれども……それも今回の答えじゃないかな……」と苦笑いを浮かべて雄和太は返答していた。


「それでは、宣伝とかでしょうか? デビューしようにも。知って貰わないと駄目でしょうし……」


 半ば疑問に思いつつも、控えめに答えたのは音唯瑠だった。「それも大事だね。まず知られないといくら皆が魅力的でも応援して貰えないからね。でも、それも今回の答えじゃないよ」と補足しつつ、答えた雄和太。


「じゃあじゃあっ、所謂キャラってやつデスか!」


 学校の先生に向かってするように、手を挙げて元気良くエルミカが言う。「エルミカちゃん良い線いってるね! でも、惜しいけどそれも違うんだ」と少しニヤケ気味になりながら雄和太。

 どの答えも違っていた、となれば何が正解なのか……ますます不思議な表情となる面々。その最中、


「あーっ! 分かった!」


 満を持して、ドヤ顔となった清蘭は立ち上がり。

 そして、自信満々に雄和太に答えをぶつける。


「友情、努力、そして勝利よっ!! つまり、グループで団結して運命共同体になってデビューするのが大事ってことね!!」


「はい、違います」


「即答!?」


「まぁ、清蘭ちゃんの言ってることも正しいんだけどね。皆が言ってることはそれぞれ正しいし、もちろん必要だよ。でも、今回の正解には少し遠かったかな」


「ぶーぶー! じゃあ何なのよー! 早く教えなさいよプロデューサー!」


「ぶーぶー!」


 清蘭とエルミカのブーイングに苦笑いしつつ、雄和太は後ろにあったホワイトボードに"答え"を書いていく。清蘭達は目を細めながら、赤色で書かれたそれの正体を注視していく。

 しかし、もうその必要もなくなっていた。文字を書き終えた雄和太がその場から退いて、全体が見えるようになったことで。 


「デビューに必要なもの……それは、これさ!」


 笑顔で言い放つと共に、ホワイトボードを手で叩く雄和太。


 そこに書かれていたのは……──"グループ名"という、5文字の言葉であった。


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