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ワタシの気持ち、ワタシの決意。


 ワタシはエルミカ・エクスカリス。

 イギリスで代々続く名家"エクスカリス"家の"次女"で、今年で15歳。

 最近になって、ワタシはようやく自分がエクスカリス家の"次女"で良いんだと、思えるようになった。全ては秀麗樹しゅうれいじゅ学園にお兄ちゃん……いや、お姉ちゃんと一緒に入学して。そして、あの人に……"師匠"出会えたおかげで。

 ワタシはお姉ちゃんやエクスカリス家の皆とは血の繋がりはない。捨て子だったから。お母さんがワタシを見つけてくれた日にお父さんを説得してくれてなかったら、ワタシはこの文を書くこともなかったのだろう。

 お母さん、お姉ちゃん、お兄ちゃん、そしてお父さん。天涯孤独の身となるはずだったワタシは、エクスカリス家の皆のおかげで色んなものを貰った。温かくて、優しくて、蝋燭の火のような、そんな思い出をいっぱい。まぁ、名家だからこそ覚えなきゃいけない礼儀作法とかもいっぱいあって大変だったけど……でも、それも含めて良い思い出だ。

 

 その火が消えかけたのは、お兄ちゃん達が死んじゃった時からだった。

 

 将来エクスカリス家の跡継ぎになるはずだったお兄ちゃん達が、2人とも乗馬中の事故で死んじゃった。

 誰もが泣いていた。ワタシだけは現実を理解出来ず、お兄ちゃん達がどこか遠くに行ってしまったんだと思っていた。今ならお兄ちゃん達との思い出を振り返ると、涙が出てくれるようにはなった。

 お母さんは悲しみのあまり倒れてしまい、お姉ちゃんもずっとずっと泣いていた。そんな中で、お父さんだけは悲しみと一緒に別の感情を抱いていた。

 ワタシへの憎しみ、を。

 今思うと、ワタシを"エクスカリス家"にしてくれた頃からお父さんは我慢してくれていたんだと思う。歴史と伝統のある名家にどこの誰とも分からない人間を招き入れる……あまりよくは知らないけど、親戚の人達にはいっぱい反対されたらしい。

 それでもワタシを受け入れてくれたのは、お母さんやお兄ちゃん達に説得されたこともあるけど、お父さん自身の優しさだったんだ。

 でも、お兄ちゃん達の死をきっかけに、その我慢と優しさが限界を迎えたんだ。お母さんも倒れちゃって、自分が支えにならないとって考え込んで、我慢に我慢を重ねて……とうとう、耐え切れなくなっちゃったんだ。何かにぶつけずには、いられなかったんだ。

 そして感情の矛先はワタシに向けられた。当時、ワタシは分からなかった。どうしてお父さんがワタシばっかり怒って、嫌っていたのかを。でも、お姉ちゃんの話を聞いてようやく気づくことが出来た。

 確かにお父さんがワタシを憎むのは間違っていると思う。でも……同時に仕方ないとも思った。自分の本当の子どもが死んじゃって、愛する妻も倒れて、家の存続が危機に陥る。お父さんにとっては辛いことばかりだったから。

 小学校を卒業すると共に、ワタシはお姉ちゃんと一緒に留学することが決まった時は嬉しくて、悲しかった。お姉ちゃんやメイドや執事の皆は必死に隠してくれてたけど、お父さんがワタシのことを家から追い出そうとしてるのは薄々分かってた。それが悲しかった。

 それでも嬉しかったのは、やっぱりお姉ちゃんが一緒だったから。でも、1つだけお姉ちゃんに変化があった。その時ぐらいから、お姉ちゃんがお姉ちゃ(・・・・・・・・・・)んじゃなくなったから(・・・・・・・・・・)


『エルミカ。今から私……いや俺は、お前のお兄ちゃんだ』


 家を出る直前、お姉ちゃんがそう言ったことはしっかりと覚えている。

 ワタシにはよく意味が分からなかった。だけど、お姉ちゃんが自分の呼び方を"俺"にして口調までも男の人っぽくしていたから、意味は分からないままだったけどワタシは納得していた。

 そうして、エデンお姉ちゃんはエデン"お兄ちゃん"になった。元々お兄ちゃん達に似て凛とした顔つきだったお姉ちゃんは、男性のような格好をしても何の違和感もなかった。時々間違えてお姉ちゃんと呼ぶと、凄く怒られたっけ。

 お兄ちゃんになったお姉ちゃんとワタシは、日本に留学することになった。理由は単純に"ワタシが行ってみたい"と希望したから。日本での暮らしや日本語を覚えるのは凄く大変だったけど、エクスカリス家と親交のある大山田おおやまだグループが配慮してくれて、色々と手助けしてくれた。日本での家や日本語を覚える為の専門の家庭教師、何から何まで。

 おかげで1年ほどして日本での暮らしにも慣れて、結果として楽しい留学生活を送ることが出来ていた。中学校ではお姉ちゃんは女の子達にすっごくモテてたけど、ワタシのことを気遣って常に傍にいてくれた。シスコン? っていう称号を貰ってたっけ。

 そんなこんなで充実してた日々を送ってたワタシとお姉ちゃん。だけどある日、日常を一変させる人達と出会ってしまう。


 それこそが、"日本一のアイドル"である【アポカリプス】の皆様だった。


 忘れもしない中学2年生の7月7日の夜7時。

 何気なくテレビを見ていたら、日本の大手アイドル事務所ジョニーズが新たなグループのデビューの発表及びデビューライブを行っている番組が目に入った。

 メンバー全員がまだ高校1年生と若く、ジョニーズとしても異例の年齢でのデビューだったらしい。へえ~とワタシは思いつつ、ちょっとした興味本位でそのデビューライブを見た。

 だけど……その時から【アポカリプス】の皆様は圧倒的だった。デビュー曲『APOCALYPSE』を全身全霊で披露しているメンバーの皆様に、ワタシは瞬時に虜となった。後から番組を見始めたお姉ちゃんも、料理を焦がすのも忘れて見入っていた。


『ワタシも……こんな風になりたい!』


 気がつけば、その願いを言葉にしてワタシはお姉ちゃんに言っていた。それが、秀麗樹学園に入学するきっかけだった。

 アイドルになる。歴史と伝統あるエクスカリス家からすれば考えられないような夢を抱いたワタシだったけど、お姉ちゃんは何も反対をせずに、寧ろ一緒にアイドルになることを選んでくれた。お父さんとの約束のことがあったとはワタシは知らなかったけど、お姉ちゃんが快くアイドルへの道を応援してくれて本当に嬉しかった。

 秀麗樹学園への受験勉強に加え、ワタシ達は独学でアイドルになるための勉強もした。とは言っても、強く憧れたのはやっぱり【アポカリプス】の皆様で、あの人達の出ている番組を欠かさずチェックして、CDも保存用、使用用、観賞用の3種類をしっかりと買ったりした。日本ではそういう買い方をするのだと、その時に学んだ。


 1年と半年、その期間を経て無事に秀麗樹学園に入学したワタシとお姉ちゃん。ここから、立派なアイドルになれるように頑張るんだ! 

 そう思っていたら……本当にびっくりしちゃった。お姉ちゃんが倒れちゃって、その時に助けてくれたのが秀麗樹学園でも超がつくほどの有名人"九頭竜くずりゅう倫人りんと"先輩で。

 そして──【アポカリプス】の九頭竜倫人様その人だったのだから。

 お姉ちゃんは全然気づいていなかったけど、ワタシは結構早めに気づいてた。お父さんの顔色や機嫌を伺う為に鍛えられた観察眼が、先輩が倫人様であることを気づかせてくれた。

 びっくりするしかなかった。びっくりしすぎて、今でも現実感がないくらい。まさか、倫人様と同じ学校に通うだけじゃなく、倫人様に直接指導して貰えるなんて……ワタシは本当に幸せ者だ。

 そして、倫人様のおかげで……ワタシとお姉ちゃんは、本当の自分になれた(・・・・・・・・・)。倫人様は……やっぱり"日本一のアイドル"だ。


 これから、倫人様に直接指導して頂くことは出来ない。お姉ちゃんからそう聞いた。それはとても残念だけど……でも、だからこそお姉ちゃんと一緒に決めたんだ。

 甘粕あまかす清蘭きよら先輩を超える。それだけじゃない。九頭竜倫人様も──【アポカリプス】も超えてみせる、って。

 倫人様、ありがとうございます。

 ワタシ達にアイドルとして輝く方法を教えてくれて。

 ワタシ達をずっと抱えてた悩みから救ってくれて。

 今度は……ワタシ達の番です。どうか見ていて下さい。


 ワタシ達が……魅せますから。







「よし、着いたぞエルミカ」


「えー? 本当にここなの?」


「あぁ。ちゃんと窓に書いて、というかテープが貼ってあるだろう。事務所の名前が」


「確かにそうだけど……でも、清蘭先輩がここにいる(・・・・・・・・・・)なんて信じられないなー」


「まぁ私も半信半疑ではあるが、実際にこの目で確認した方が話は早い」


「それもそっかー。よーしっ! 頑張るぞーっ!!」


「あぁ。それじゃ行くぞエルミカ──881(ヤバイ)プロに」 



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