わたくしの気持ち、わたくしの決意。
私はエデン・エクスカリス。
イギリスに古くからある由緒ある名家"エクスカリス"家の血を引く15歳の"女"
この胸を張って自分自身を"女"と、本来の性別を隠さなくてもなくなったのはつい最近のことだ。もう無理をして胸を押さえつけ小さく見せる下着をつけなくても良くなったし、スカートは……まぁ久々だったのでまだ違和感があるが、徐々に慣れていくだろう。
当然、周囲の私を見る目も変わった。男だと思っていたのに、男として扱っていた私が実は女であった。そのことに戸惑わずにいられる人はほぼ皆無だった。
ただ、思っていたよりもすんなりと受け入れてくれたのは意外だった。事情があったとは言え性別を偽り、周囲の目を欺いて居いたことに変わりはない。だから私は償うをするつもりで接しようと思っていたのだが……秀麗樹学園の皆さんは寧ろ前向きに私の"罪"を許してくれた
。
男子生徒はこれまでと同じように友好的に接してくれてはいるが、女だと判明して以後はボディタッチが明らかに減った。それと、何だか目のやり場に困っているような気もする。見た目の変化では制服を女子生徒用のものにし、胸を押さえつけなくなっただけなのだが……一体どうしたのだろうか?
男子生徒はまぁそれぐらいだけだったが、私にとって困惑することになったのは女子生徒の皆だった。恋愛感情というものは、まぁ多くの人々は異性に対して抱くものだ。だからこそ、私が"男"であった時、毎日のように女子生徒から告白をされていた。
「好きです!」
「一目ぼれしました!」
「付き合って下さい!」
そんな言葉と想いを送って貰えて光栄だったが、私は同性の子に対してそういった感情は抱けないので全て断っていた。無慈悲かもしれないが、中途半端な気持ちで傷つける訳にもいかなかったから。「だったらせめて応援させてください!」とファンクラブが出来上がったのも入学後程なくしてだった。
好意に応えない相手をそれでも応援する、ということはどれほど難しいことなのか。それを私はよく知っている。常々相手のことを考えては胸が苦しくなり、一歩間違えればその想いが憎しみに変わりかねない。
今回、私の告白によって一番傷ついたのは、間違いなくファンクラブの子達だ。"男"であるエデン・エクスカリスを好きになったはずなのに、実は"女"だった、と衝撃の暴露を受けたのだから。
故に私はファンクラブの子達には土下座をするつもりでいた。想いを二度も裏切っておいて、土下座で許されるはずがない。それは分かっている。分かってはいるが、せめてもの償いとして彼女達が望むどんな時でも、どんな場所であろうとも土下座をする。そう決めていた……のだが。
「エデンさん、女の子なのにすごくカッコイイです!」
「同じ女子として尊敬しちゃいますー! エデンさんは憧れですっ!」
「これからも応援させてください! これまで以上にっ!!」
……何故か、ファンクラブの子達は以前にも増して好意を向けてくれるようになった。本当に何故なのだろう? ひょっとして、秀麗樹学園はそういう子達が多いのだろうか?
女だと告白してからファンクラブを離れた子はほんの一部で。今は以前よりも熱狂的に支持してくれる子達に加え、男子生徒の会員もいるらしい。まぁ、今後アイドルを目指していく中でファン層を拡大出来る可能性があるのは嬉しくは思うが、困惑せずにはいられなかった。久しぶりに日本に来てカルチャーショックを受けたような気もする。
何にせよ、ダイヤモンドハンティング杯でのパフォーマンスは、私やエルミカを大きく変えた。本番だけじゃなく、その日に至るまでの日々も私達を大きく変えた。
いや、大きく変わらせてくれた、と言うべきなのだろう。師匠が──九頭竜倫人先輩が。
私が尊敬してやまない"日本一のアイドル"、【アポカリプス】の九頭竜倫人様。その御方と漢字まで全く同じの同姓同名。……まぁ今にして思えば倫人様本人でいらっしゃったから当然と言えば当然だが、今にして思えば私はなんと愚かで無礼千万極まりない言動をしていたのだろう。初めて出会った時、私はこともあろうに倫人様に制裁をしようとしていたのだから。エルミカが勝手に傍で眠っていたとは露知らず……っていうか羨ましいぞエルミカ。
ともかく、私は死罪を100回受けようとも許されない程の無礼を働いた訳だが、やはり倫人様は偉大でいらっしゃった。私を許して下さるのみならず、その時の私の弱点までも全て看破しご助言を下さった……はぁあぁぁ倫人様……。
倫人様に直接鍛えて頂ける、何度振り返ってもこの上ない至福の期間だった。特訓中は本当に逃げ出したくなるくらい厳しいトレーニングもあったが、倫人様の叱咤激励のおかげで何とかやり抜くことが出来た。
倫人様は私やエルミカに自信や実力、そして揺るぎない絆を与えて下さった。まさに現人神、いや神すらも超えていらっしゃるだろう。今後の人生、何があろうとも倫人様のお教えを胸に生きていこう。何が何でも。
これまで、私は"男"だった。だが、今はもう偽りの自分を演じなくても良い。自然体の、|ありのまま《"女"》の自分で生きていける。それが本当に嬉しい。嬉しくて、たまらない。
無理をしなくても良いのと、理由はもう1つ。倫人様に、想いを伝えても自然であるということだ、女が男に想いを伝える、極めてありふれたことが出来る喜びに、私は打ち震えている。
だが、簡単にはこの胸の想いを伝えることは出来ないだろう。何せ倫人様は"日本一のアイドル"でいらっしゃる。学校生活ではご自身は"日本一のアイドル"であることを隠していらっしゃったから、その中でこの想いを告げるのも話が違うというものだ。
ではどのようにすべきか。そんなのは決まっている。
倫人様と交わさせて頂いた言葉、いや約束のように。
私が倫人様をも超えるようなアイドルとなり、倫人様を魅了する。
これこそが、王道というものだ。これ以外の方法で倫人様に惚れて頂くなど、邪道でしかない。それは倫人様との約束を反故にし、泥を塗る行為だ。
……超えるものがたくさん出来た。甘粕清蘭先輩に倫人様、全く以て高すぎる壁、頂きだとつくづく思う。
ですが倫人様。私は必ずやり遂げてみせます。
あなた様も甘粕先輩もどちらも超えて。私は"日本一のアイドル"の名を戴冠致します。
──あなた様には予想もつかない方法、にはなりますが。
どうか、楽しみにお待ち下さいませ。
私の生涯唯一の師匠で。
生涯唯一の最推しで。
生涯唯一の、大好きな人。