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【番外編】秀麗樹学園新聞部3年・文野春佳のメモ④


 4月。春の桜と共に新たな生徒を迎えた我が秀麗樹しゅうれいじゅ学園。私事にはなるが、自分──文野ふみの春佳はるかも高校3年生となり、最上級生になった。ついでを言えば1日に18回目の誕生日も迎えている。親愛なる友人から送られてきた誕生日のお祝いメッセージが嘘ではないと信じたい……。真相を問い質そうにも1ヶ月も過ぎてしまえば流石に時効だろうか。

 おっと、私事が長くなってしまってはメモではなくただの日記ではないか。そろそろ本題に入ろう。メモを書くつもりが日記でしたなんてことになれば新聞部部長としての示しがつかないからな。

 今年の新入生も様々な粒揃いであったが……やはり、その中で誰が1番かを聞かれたら迷わずに私はこう答える。


 エデン・エクスカリス


 エルミカ・エクスカリス


 この2人しかいない。

 共に1年1組所属でエデンが出席番号1番、エルミカが2番というまさにワンツーフィニッシュを綺麗に決めた2人だが、やはり想起されるのは入学式でのあの新入生代表スピーチであろう。


"学園の頂点に立つ甘粕あまかす清蘭きよらと"4傑"を倒す"


 そんな命知らずな大言壮語を吐ける生徒など、果たして秀麗樹学園に何人いるのであろうか。それこそ、未だ記憶に新しい1月末に"革命の灯火"を起こした九頭竜くずりゅう倫人氏しかいないのではないのだろうか。まぁあれ以降、九頭竜氏にこれと言った活動は見られないのだが。

 それはそうとして、異国の地より来襲したエデン・エルミカ両名は新入生代表スピーチで与えたインパクトそのままに、その後も学園を賑わせてくれた。おかげで新入部員の指導と日々生まれるスクープを追いかける仕事で多忙を極めた自分が、すっかりとエナジードリンク漬けになってしまうくらいに。

 まぁその甲斐もあり、エデン・エルミカ両名の情報はしっかりと掴めた。まずはその努力の結晶を書き記すとしよう。



【エルミカ・エクスカリス】

身長:140cm 

体重:???

スリーサイズ:B-62cm W-54cm H-85cm

髪の色:水色 まさに青空をそのまま塗りつけたような色合い

ヘアスタイル:ツーサイドアップ ロリっぽさをより演出している GJ

性格:天真爛漫で常に明るい マジ天使 若干清蘭様に似ているかも?

アピールポイント:裏表のない純粋無垢な笑顔 マジ天使 圧倒的身体能力


 まずは妹の方から記すとしよう。

 エデンは実に羨ましい。エルミカというマジ天使過ぎる妹がいるのだから。

 天使は実在する、私がそれを実感したのはエルミカを一目見た時だった。空から落っこちて来たのか、そう思わざるを得ないくらいエルミカは"可愛い"の分野において他の追随を許さない。それは清蘭様や能登鷹のとたか氏に匹敵するほどだ。初めて見た時に思わず鼻血を流してしまったのは新聞部の誰にも言っていない秘密だ。

 エデンが女子からの人気を主に集めている中で、非常に懐っこいエルミカは男女双方からの人気を得ている。警戒心や人見知りという概念が存在しないのか、誰に対しても明るく無邪気に接するその姿はまさにマジ天使。一家に一台ならぬ一家に一人エルミカが妹としていれば良いのに……という考えすらふと湧いて来てしまうほどだ。ふむ、これが良いアンケートになるかもしれない。次の新聞に掲載するとしよう。エルミカの了解は得られても、エデンの許しが降りなさそうだが。


 さて、エルミカの魅力は上記の通り"マジ天使"ぶりにある。見た目に性格、どちらに関しても一点の汚れもなく、見る者に庇護欲をかきたてさせるというのは非常に有利な長所だ。昨今、ロリ系アイドルというものをアピールポイントにしている女性アイドルも少なくはないが、年齢の変化と共に無理がたたってくるケースも見受けられる。自分が知る中でも1人2人3人……両手の指に収まらないのでやめておこう。

 エルミカもいずれは衰えの道……年齢を重ねると変化してしまうのか。そんな恐怖と絶望に打ちひしがれそうになるが、もしも今のままの路線でエルミカが売り出していくのなら成功は間違いなしと自分は確信している。この学園に留まらず、芸能界でも十分に通用する"ロリっぽさ"をエルミカは持っている。このまま"国民の妹"と呼ばれる日も遠くはないかもしれない。

 

 そんなエルミカだが、意外にもその身体能力は見た目からは全く想像出来ないほど凄まじいものである。男子生徒顔負けの身体能力を見せつけられ、そのギャップに衝撃を受けたのは私だけではないはずだ。清蘭様や"4傑"を超えるとスピーチで言ったのは伊達ではなく同学年、いや学園全体を入れてもトップクラスに入る身体能力を持っていたのは驚く他にない。

 これまではロリ系で売り出しているアイドルと言えばあざとさ命、「運動なんて出来ませ~~ん」と甘ったるい声でほざくような、言ってしまえば軟弱なイメージが強い役回りがほとんどだったが……。エルミカはそのイメージに風穴を開ける、新時代のロリ系アイドルの道を開拓するかもしれない。本当に将来が期待されるマジ天使だ。今後も追いかけ続けるとしよう。個人的にエルミカの写真も撮りつつ……グヘへへ。あ、いやこれはロリータなコンプレックスをこじらせているだけではない。断じて!

 

 気を取り直して、次は兄……の方のエデンのことを書くとしよう。言い方に少し躊躇いがあった理由は、後で説明するとしよう。


【エデン・エクスカリス】

身長:171cm

体重:???

スリーサイズ:B-88cm W-58cm H-90cm

髪の色:真紅 荒井大我に若干近い

ヘアスタイル:貴公子と呼ぶに相応しいショートアシンメトリー 肩よりも少し高い位置に髪の毛の先が来る

性格:実直で礼儀正しい 滅多に笑顔を見せないクール

アピールポイント:端正な顔立ち 低く芯の通った声 圧倒的身体能力


 さて、このような次第だ。

 "4傑"クラスのイケメンなどそうは現れない。そう思っていた自分の想像力が如何に甘かったことか。現に、こうしてエデンは超絶イケメンなのだから。

 この学園の大半の女子生徒は"4傑"の誰を推すのか、それで区切られる。だがエデンという新入生の存在が、その拮抗した勢力に1つの風穴を開けたことは間違いない。入学をしてからしばらく、エデンに告白する女子生徒は後を絶たなかった。芸能界入りを目指す者として色恋沙汰に執心するのはどうかとも思うが、恋する想いは止められないというのが女子の性、モラトリアムである高校生活くらいは目を瞑っても良いだろう。


 エデンが数多の女子生徒の目をハートにする理由は、何も顔が良いからだけではない。齢15歳とは思えぬ卓越した身体能力を持っていることもあるだろう。新入生向けに行われる体力測定テストでは、1年生時の"4傑"に次ぐ成績を記録したその身体能力は圧巻の一言だろう。体育の授業において他の男子を押さえ、無双する様を見せつけられては女子はひとたまりもない。高校の体育という如何に狭いコミュニティの話であろうと、無双ぶりを見せつけられて心惹かれない女子は早々いない。スポーツが出来るというのはどの時代であってもカッコイイのだ。


 容姿、能力、そして最後はもちろん性格だ。エルミカという妹がいるからか、エデンはとても世話焼きな性格だ。それでいて自他ともに厳しく、リーダーシップもある。委員長職には進んで立候補し、クラスのまとめ役になったことからそれは証明されている。

 欠点らしい欠点も見当たらず、秀麗樹学園の将来を嘱望される期待のホープ……かと思っていたが、そんな"彼"にまさかあのような秘密があるとは誰も思うまい。長年新聞部に所属し、観察眼と洞察力には自信のあった自分ですらも欺かれたほどだ。

 それは、"男性"であるエデンに不要なはずのスリーサイズが表記されていることから察することが出来るだろう。エデン・エクスカリスは……"女"だったのだ。あれだけの端麗でイケメンな顔を持っていながら、実は"女"だったのだ。これが、エデンに触れた際に兄……と躊躇った理由だ。何せ、彼女は"姉"なのだから。

 つい先日に行われたダイヤモンドハンティングカップで、自分達のパフォーマンスをする前にエデン本人が告白した時はあまりにも予想外過ぎた。自分はもちろん、見守っていた観客、そしてエデンのファンクラブ会員に衝撃が走ったのは言うまでもない。あれだけの超絶イケメンぶりを見せつけながら、実は女だったのだから無理もないが。

 イメージというのは大事だ。特に、それまでに己自身が築き上げたキャラクターというのは。特に、アイドルという存在を志すのであればそれは尚更死活問題となってくる。

 エデンは"超絶イケメン男子"としてのパフォーマンスを期待され、あの場に立っていたはずだった。しかし、エデン本人はそれを自ら手放したのだ。自らのアピールポイントを捨て、観客を困惑させてまで秘密を暴露した。

 それが一体、何を意図してのものかは謎であった。その時点までは悪手ではないか、墓穴を掘って清蘭様との勝負を捨てたのではないか、そう思いさえもした。

 だが……それこそが、自分の間違いだった。自分のみならず、あの場にいた全員が間違いであったと、エデンとエルミカのパフォーマンスを見て考えを改めさせられるのである。2人の曲──『Two To Too』によって。

 『Two To Too』は大きく分けて"静"と"動"の2パターンで構成されていた。前半部分はピアノの静かな音色に合わせて踊り、歌詞も少なめ。それだけに、2人の一挙手一投足に注目が集まるのは必然だ。

 2人のそれは、一寸の狂いもなく完全にシンクロしていた。まるで同じ映像を投影し映し出していると錯覚するほどタイミングも動きも完璧に同じ、寒気さえも覚えた。言葉を失う……それを経験させられたのは1月末以来だった。"静"のパートで表現していたのは、女性の持つ気品や胸に秘めた奥ゆかしさ、それらだったのかもしれない。

 この"静"の部分だけでも人々を魅了した2人であったが……ここからさらに魅せてくれるとは夢にも思うまい。"動"のパートが始まれば、それまでの時間を忘れさせられるような怒涛の時間が待っていた。

 ここで、エデンの本領と言えばいいのか、元々のキャラクターコンセプトにあった"超絶イケメン"ぶりが活かされることになる。やはり、エデンはこちらの方が向いている。ダンスの猛々しさ、雄々しさ、それらはまるで"4傑"のそれを思わせるまでに魅せられた。

 だが、そんなエデンにエルミカも負けじとついていったのも1つの事実であろう。マジ天使である彼女のキャラクターコンセプトからはかけ離れた"動"のパートも、しかしエルミカは場違いという訳ではなく。寧ろ、何の違和感もなく溶け込んでいたのだ。

 そしてここでも、2人の完全同調した歌声、ダンス、さらにはラップと、どこをとっても見事なクオリティであった。"静"のパートの時は見惚れる酔いしれるという見方をした観客が、今度は熱狂の坩堝と化したのは当然のことだろう。


 自らが女性であることを公表したエデン。だがそれは、このパフォーマンスで以て成功であったということに結実していた。もしも男性としてあの舞を見ていたのなら、違う見方になっていたであろう。そして、"動"のパートはエデンを女性として見たからこそ、より一層凄さが感じられるようになった。もちろん、エルミカもまたエデンと同じように輝きを放っていた。


 男性らしさに女性らしさ、それを守って行うパフォーマンスというのも素晴らしいものである。

 だが、エデンとエルミカが魅せてくれたように……"らしさ"に抗い、自分自身を問いただすかのようなパフォーマンスもまた、人々を魅了させることが出来る。この雰囲気は男性、この雰囲気は女性、そのように線引きしたパフォーマンスを変える時代を到来させる……そんな力をエデンとエルミカは持っているのかもしれない。


 清蘭様のメモはまた別で行うとして、今回のメモはここまでにしておこう。

 エデン・エクスカリス

 エルミカ・エクスカリス

 この姉妹の今後が全く以て楽しみである。秀麗樹学園の未来は、明るい。

 それでは今回のメモはこれにれ終了だ。エルミカたんの写真はまた盗撮……じゃなくてきちんと許可を貰ってから撮影するとしよう。




 5月某日 


 秀麗樹学園新聞部3年部長(ここ重要) 文野ふみの春佳はるか 




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