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『Two To Too』➂


「「限界超えて 挑めーーーっっっ!!」」


 可愛らしさと凛々しさ。

 それらが混ざり、合わさり、完璧に溶け合った2つの声が会場に轟く。

 その時ばかりは、その声を発した張本人達は──エデンとエルミカは、目を瞑ってしまうほど叫ぶのに全霊を注げていた。エルミカの天使のような可愛い顔も、エデンの男性顔負けの凛々しい顔も、どちらも眉間に皺を寄せて口を大きく開くのは共通していて。

 それは、2人の全力を如実に表したものであった。これまでも当然、エデンとエルミカは全身全霊のパフォーマンスを魅せていた。

 しかし、観客は発されたエデンとエルミカの咆哮に……震えに近い感覚を覚えていた。2人のありったけの叫びによって開幕する"これから"に、サビの時間にとんでもない何か(・・・・・・・・)が起こると予感して。


「恐悦至極なんて言ってないで 馬鹿な夢だなんて諦めないで」


 耳からは未だに2人の生み出す衝撃の波が届く中、真っ直ぐで熱いメッセージと共に目に飛び込んで来たのは2人のダンス。しかし、その激しさはこれまでに見たこともないようなものであった。

 左手を水平に払い、頭の上で右腕の肘から先を一回転させると勢いそのままに左斜め下に上半身を畳み。左足を軸にして2回連続でターンしつつ両腕は綺麗な弧を描き、着地した足で跳ぶとバク宙を行う。

 全力の叫びに加えて全力の踊り。その激しさと荒々しさは女性ではなくまさに"男性"のそれと見紛う程にまで力強かった。


「「諦めるのは もう飽きただろ? 遠慮するなよ 挑めばいい」」


 2人のパフォーマンスはさらに加速し、''アルティメットシカゴフットワーク''を駆使して瞬間移動をすると、その残像によってダンスの一部を切り取るという離れ業をもやってのけていた。

 バク宙や前宙の軌跡が残像となって可視化され、2人は技術力の高さを魅せつける。同じ真似が出来るのは、この学園では4傑しかおらず、2人の魅せた技に場内からは歓声が沸き起こる。


「「負け続けるのも 涙流すのも 悲しむのも うんざりだ!」」


 さらにそこに、また新たな魅力が加わる。

 それまで険しい顔をし続けていたエデンとエルミカの表情が変わったのだ。

 ──笑顔という、最後の魔法が発動していた。

 今回の対決において、エデンとエルミカは明らかに挑戦者という立場であった。清蘭(きよら)には堂々と入学式で宣戦布告を行い、さらには前哨戦も行っている。

 そこで負けたというのは一つの事実であり、エデンとエルミカにとっては屈辱以外の何物でもない。現在もパフォーマンスしている中で、その記憶が過ぎらないはずがなかった。

 それでも、2人は笑った。笑っていた。

 人々を惹き付けるのに十分すぎるほどの、素敵な笑顔が自然と零れていた。それは意図して作られたものではなく、自然と零れたものであった。


「「いつでもだって どこまでだって 全てを超えて 辿りつけ!」」


 前を見れば、自分達のことを見てくれる大勢の観客。

 横を見れば、自分にとって最も大切な存在が傍に居てくれて。

 呼吸もかつてないほど苦しく、今にもパフォーマンスを止めてその場に倒れ込みたい衝動に襲われながらも。

 エデンとエルミカは止めなかった。頭の中に浮かぶ憧れの背中に追いつきたくて。その顔を喜ばせたくて。笑って欲しくて。

 何よりも、今この瞬間がそんな想いを吹き飛ばしかねないほど、たまらなく楽しかったのだった。


「「その目開いて その手握って その足で駆け出して 限界を超えて やり過ぎろーーーっっっっ!!!!」」 


 やり過ぎろ──その言葉が歌詞の最後であった。

 凛々しさと可愛らしさの美しく力強い共鳴は高らかに伸び続け、夕刻に染まった空にどこまでも響き渡る、そんな気さえもするほど2人の声は1つとなって観客の耳に届いていた。

 声が切れるタイミングも全く同じで、曲の最後の盛り上げのBGMに乗せて2人のダンスは激しさを極める。連続のターンの凄まじさにより竜巻が起こると、風が会場を駆け抜けていく。そんなことすら気にも留めずに、2人はただただ''この時''の終わりまで、心の底から楽しんでいた。

 ──そして、エデンとエルミカの曲である『TwoTo Too』は終わりを告げていた。

 最後のポーズは、再び背中合わせとなっての形であり。エデンもエルミカも、肩で息をするほど疲労しつつも、最後の力を振り絞ってその場に立っていた。

 全身全霊も、ありったけも、本気も、全力も、とにかく己自身の出せる全てのものをぶつけた。後は、それを観客がどう受け止めるのかを見届けねばと。


「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 汗が視界を邪魔し、あまり観客席は見えない。となると頼りになるのは耳だったが、そちらにしてもお互いが息をする音だけが聞こえるばかりで。身体には、背中を通して激しく鼓動し続けるのが伝わって来た。

 しかし、いつまで経っても''その瞬間''は来ない。清蘭の時に起きたようなスタンディング・オベーションが。


「ハァ……ハァ……ハァ……ハァッ──」


 エデンもエルミカも、二度目の敗北を受け入れるだけの余裕はなかった。虚しい静寂に包まれることで耐えきれなくなった身体は、遂に支えきれなくなり2人は膝から崩れ落ちていた──。


「凄かったぞ、エデン!! エルミカ!!」


 だが。

 聞き覚えのあるような、そんな声が聞こえた気がして。折れそうになった膝に何とか力を入れ、手で汗を拭うとそこには──清蘭の時と同じような拍手喝采が自分達に送られていた。


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