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『Two To Too』②


 美しく清らか。そう表現すべきピアノのみのBGMと、静けさと繊細さに満ち溢れた舞で構成された曲を終えた……はずの2人(・・・・・)


「輝かずにいられない 煌めかずにいられない」


 だが、美しい余韻に浸ったまま拍手を送ろうとしていた観客の気持ちを。言ってしまえば台無しにしたのは他の誰でもない2人の内の1人──エデンであった。

 "紅蓮に燃え上がる炎のように"呟きのような言葉から始まったその続きを、エデンは数秒後に高らかに歌い上げる。こちらが本領だと言わんばかりに、その声色はたくましさすらも覚えるようにまで変化していた。女性らしい気品はありつつ、しかし同時に男性顔負けの力強さと凛々しさを魅せるエデンの声はしっかりと会場中に木霊し……。

 そして、人々の評価を一瞬にして変えさせた。

 "あれで終わっていれば……"という失望ではなく、"新たな2人の世界()を見られる"と言った新たな期待を抱くように。


「消し飛ばれそうな向かい風(ぎゃっきょう)の中でも 私達は挑み続ける」


 様変わりしたのは声色だけではなかった。

 淀みなく流れにそのまま従う水のように柔らかで淑やかだったその動きは、煌めく稲光のように各所でしっかりと"止まる"動きとなっていた。片手を横に素早く出して静止、拳を大きく振り上げると静止、といった具合に、力強さをより重視したものであった。

 それは自身が女であるということを告白する前の、"男"としてエデンを見る場合のダンスのイメージにぴったりのものであった。


「無理だと言われても構わない やりたいことをやるだけだ 限界なんて何度でも 乗り超えて挑め 遥か高みへ(To Too Top)


 エデンの魂の叫びが会場中を震わせる中、沈黙していたBGMはそれを合図として一斉に唸りを上げる。高らかに伸び続けるエデンの咆哮に負けじと躍動し始めたBGMに穏やかなピアノの音など一切なく、荒々しくテンポの速いドラム・パーカッション、疾走感のあるギターの音が会場を駆け巡り、それと対を成すようにヴァイオリンといったストリングスも気品ある咆哮を奏でる。

 それまでとは対極を往く曲の変化ぶりに観客の中で戸惑う気持ちもあるにはあった。だが、それは僅かな時間で消し去られた。ちょうど、爆発音のSEが響くと同時に会場は熱狂に包まれていた。


「真の輝き見せつけられて 私達は思い知ったんだ 自分が如何にちっぽけで弱いのかってことを」


 間奏が終わり、再びエデンの声が響く。

 と思いきや、そこで聞こえて来たのはエルミカの声であった。可愛らしさは残るものの、エルミカなりに声を低くしてエデンに合わせたような声色となっており、曲の雰囲気には十分にマッチしていた。


「私達は泣きじゃくったんだ 子どものように遠慮なしに でもそんな時に気づいたこともあるんだよ」


 エルミカのダンスも、エデン同様に力強く止めるべき所をしっかりと止めるものに変わっていた。エデンと同じタイミング、角度、それらはやはり前半のパートと変わらず寸分の狂いもなくぴったりであった。

 曲の雰囲気が変わり、Aメロが変わったことを予感する観客。

 テンポがもう一段上がると、2人はさらに新たな"顔"を覗かせる。


「敵わない That’s right? It’s lie! やってみなくちゃ分かんない それでも いつでも どうにかもう "No!"のじゃじゃ馬どうどうどう」


 ハイテンポなBGMに乗せて流れ始めたのは、エデンとエルミカ2人同時によるラップであった。

 かなりのテンポに引けを取らず、2人とも巧みにラップをこなすがそれだけに留まらず。

 2人はラップの中で(・・・・・・・・・)ハモっていた(・・・・・・)


「あまりに強大 こんなの勝てない 弱音と本音がぶち当たる壁 既に感じる敗北感に 心折れるの本当堪忍 どうにもこうにも 不毛 摩耗 絶望 の中に きらりと見える一条の光 辿り着く答えの在処は 虚心坦懐 単純明快 限界突破のBrand new day!」


 ラップの中でハモる。プロの中でも中々見られない珍しい技術を見事に披露しつつ、エデンとエルミカのラップのパートは終わっていた。


「すげえ……」


「なんか……」


「【アポカリプス】みたいじゃね……?」


 観客から漏れでる感嘆の声。その1つに、''日本一のアイドル''である彼らの名前が挙がっていた。

 「いやいやそれは言い過ぎ」とすぐに茶化されはしたが、観客の中にはぼんやりとだが時折エデンとエルミカの姿が彼らに重なる時があった。


(エルミカ)


(お姉ちゃん)

   

 今もなお激しいダンスを魅せつけながら、一瞬目が合った2人。

 心の中で互いのことを呼び合いながら、ほんの一瞬だけフッとほほ笑みを浮かべると。


(──行こう)

 

 その想いは同時に生まれていて。


 いよいよ最後の45秒間、サビに突入しようとしていた。


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