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『100%Victory!』①


 『100%Victory!』


 清蘭きよららしい、ド直球ド真ん中のタイトル。

 それが清蘭自身の口からコールされた瞬間、会場からは溢れんばかりの拍手と歓声が湧いていた。それらを一身に浴びながら、今もなお清蘭はドヤ顔のままステージ中央に堂々と立っていた。

 拍手と歓声も収まっていき、徐々に静寂が会場を覆っていく。と──別の音が世界を塗り変え始めた。

 

「これは……」


 2000年代生まれの俺にとっては、あまり馴染みのない音だったが、それ(・・)は確実に聞いたことがあるものだった。例えるならば……"昔ながらのレトロゲーム"と言うべきか。ドラゴンを倒す的な国民的RPGゲームの初代のテーマソングで聞くようなあれ、確か"8bit"と言うものだったか。

 それが、ステージ中央でドヤ顔のまま静止した清蘭のBGMとして、流れ続ける。何とも言えないコミカルさに、会場は動揺と共に次第にクスクスといった声が聞こえて来た。  

 しかし、その中で遂に清蘭が動く。音階が徐々に高くなっていく中で、突如清蘭が右手で自らの左斜め下の辺りを差す。真っ直ぐに伸ばされた人差し指で大きく半円を描いていき、それが天を向いた瞬間、8bitの時代にそぐわないBGMは影も形もなく消えた。


「あたし絶対ナンバーワンっ!!」


 清蘭の代名詞とも言えるその言葉と同時に、曲調は一気に様変わりする。

 明るさ全開のエレキギターに加え、縁の下の力持ちを務めるベースライン、盛り上げ役を務める金管楽器ブラスの面々、小気味の良いドラムパーカッションの音も加わり、先程までのコミカルから一転、清蘭の曲は一気に"らしく"なっていた。

 それに合わせて、清蘭も負けじと動き出す。最初は横ステップを往復して刻む基本的なものだったが、前に歩き出すようなステップをして観客席の方に近づきながら、両腕を水平に伸ばして徐々に上に動かして、今度はそれを下に降ろすと自らの顔を覆って隠し。

 イントロの終わりと共に、その両手を「邪魔!」と叫ばんばかりに勢い良く左右に払うと、清蘭の天真爛漫な笑顔が炸裂していた。


「その日は突然やって来た 奴らが突然現れた」 


「あたしの日常どうなるの? したらそしたら」


 歌の方が始まり、BGMに負けない声量で清蘭の声が会場に響く。

 それまでのダンスからまたも雰囲気は一変し、今度は演技風のダンスになる。何か、侵略者がやって来たような素振りを見せて驚いたり、歌詞の通りこれからどうなるんだろう? と言った顔をしていたり。

 ぶっちゃけ──上手い。踊りのキレはもうそんじょそこらの素人、いやテレビに出ているような女性アイドルよりも上手いと断言出来る。さらに、表情の変化も生き生きとしていて、見ていて目が離せない。


「突きつけられた挑戦状 正々堂々勝負だってさ」


「上等じゃんか良い度胸 逃げずに受けて立つわ」


 最後の語尾も声が細くなることなく、寧ろ高らかなビブラートを響かせる清蘭。ここで曲調が変わり、どうやらAメロが終わったようだ。地味に歌詞が韻を踏んでいる辺り、たぶん清蘭が考えたものじゃないとは思うが、作詞した人は清蘭の雰囲気をよく掴んでいるな。

 くっ、まさかここまでの完成度とは……想像以上だ。だが、まだ曲は序盤だ。始まったばかりというのは体力もあるからダンスのキレもあるし、歌声が途切れるということもない。

 中盤もまだまだ安泰だとは思うが、清蘭ってバカだからな。スタミナ調節上手くいかなくて、サビが終わった頃には疲労困憊になってそうな気もするが……まぁ見れば分かるか。


「Wa-ku Wa-ku! あたしの実力 教えてあげる」 


 Bメロに入り、曲は落ち着くことなくさらにテンションを上げていた。そしてそれは清蘭も同様に。

 演技風のダンスではなくなり、"わくわく"を表現するように右手、左手、両手の順番で大きく水平に円を描き、それを目で追い観客に弾けんばかりの笑顔を向けていた。 


「Do-ki Do-ki! あたしの魅力に 惚れさせてやる~から~」


 "ドキドキ"を表現したのか、両手でハートマークを作るとそれを左右に2回ずつ見せ、観客をメロメロにする清蘭。まぁ普段のあいつを知っている奴(特に男子生徒)ほど、清蘭がハートマークをくれるなんてことは一生に一度の経験だろうから、今ので卒倒した奴が何人もいた。

 再び最後の部分を高らかに響かせながら、清蘭は空に向かって手を伸ばす。サビが始まる前のほんの少しの空白、BGMも静かになったタイミングで清蘭はその手をグッと、力強く握り締めた。


「100%Victory! あたしの完全勝利!」


「よく戦ったけど 残念ね あたしに勝てっこないんだし!」


 歌詞がドストレート過ぎるのはともかく、そこからの清蘭のパフォーマンスは圧巻だ。

 BGMも最高の盛り上がりを見せる中で清蘭の歌声はそれをさらに上回り、ダンスも激しさを増す。まるで誰かと戦っているように、格闘技の動きを取り入れたダンスでステージを所狭しと暴れ回る。高々と跳んで蹴りを放ち、ターンの勢いを利用しての全力フックなど、清蘭の身体能力を余すことなく活用している。

 それでいて、観客への笑顔も忘れずにいる。


「100%Destiny! あたしの勝利間違いなし!」


「誰が相手でも関係ない! だってあたしはあたしなんだから~!」


 恐らくそこまでが1番だったのだろう。

 時間にすれば1分半ほど。たった90秒だ。

 だが……たったそれだけの時間で、あいつは既に。

 

 甘粕あまかす清蘭きよらは既に──会場を自分一色に染め上げていた。




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