39.終 焉
靡くマント。虹色の蛇のオーラを纏った青年。胸元に目立つ∞のマーク。
リループ・ウロボロスとなった天城遥斗が、三上に対峙する。
「三上蒼一! 復讐は、何も生まないぞ!」
リループ・ウロボロスはそう叫んだ。復讐は、何も生まない。当たり前のことだが、遥斗は身をもって経験している。
「途中で引き返した者の戯言など、聞くに堪えん!」
三上はそう言うと、手を突き出した。時が止まる。
「消えろ、天城遥斗!」
三上が鎌を振るう。それをリループ・ウロボロスは躱した。
「動ける、だと!?」
三上は驚いた。リループ・ウロボロスがマントを広げると、宇宙のような空間へと2人が転移する。
『無限の力に、時間停止は通用しない!』
ヨルムンガンドがそう答える。
「なら、過去に戻って確実に殺すまでだ。」
三上はそう言うと、右手を突き出す。だが、何も起こらない。
「お前の存在は、この時間に固定した。もう巻き戻すことはできない。」
リループ・ウロボロスはそう言うと、剣を手に取った。その剣の刀身は、細い。いわゆるレイピアだ。
まるで時計の針のように細く、物を固定する楔のようなレイピアを手に、リループ・ウロボロスが三上に迫る。
「だが私には、この鎌がある! 万物を切り裂く最強の鎌が!」
そう言って三上が鎌を振るおうとした。
『俺に任せろ!』
ヨルムンガンドがそう言うと、リループ・ウロボロスの胸元で∞を描いていた蛇が三上の鎌へ巻きついた。
その直後、ドロドロと溶けて液体となった。
「なっ!? どういうことだ!」
三上が驚く。絶対に壊れないはずのアダマスの鎌。それがなぜ、壊れたのか。
『物質転換さ。錬金術と言えば、だろ?』
ウロボロスは錬金術の象徴だ。それゆえか、ヨルムンガンドは錬金術が得意なようだ。
「ふざけた真似を…貴様ごときに!長年の私の計画が無駄にされてたまるか!」
三上が激昂する。そして、赤い蛇を召喚した。
対するリループ・ウロボロスは、ヨルムンガンドを出現させる。
燭龍とヨルムンガンド…蛇と蛇の対決だ。
そして、リループ・ウロボロスは三上の元へ。三上は咄嗟に拳を振るうが、それを受けたリループ・ウロボロスは消えた。
「それは幻影だ。」
三上の後ろから、リループ・ウロボロスはレイピアを突き刺す。三上は完全に動けなくなった。
「お前の動きを固定した。話はゆっくり聞かせてもらうぞ。」
そう言うと、リループ・ウロボロスは体に力を込める。虹色の蛇の影が、その足に纏わりつく。
「はあああああ!!!!!!」
リループ・ウロボロスは三上が召喚した燭龍に目掛けて蹴りを放った。
そして、それを受けた燭龍が爆散する。宙に現れた燭龍コインを、リループ・ウロボロスが掴んだ。
宇宙のような空間が戻り、地上へ。三上は怪人の姿から人の姿に戻されるが、身動きは取れないままだ。
「さて、聞かせてもらおうか。お前の計画の全貌を。」
リループ・ウロボロスは三上に詰め寄る。だが、三上は口を割らない。
「アンスズ」
神が空中に文字を刻んだ。
「この子の言うことを、聞け。」
神は厳かな声色でそう言った。その魔術を受けた三上は、話し出す。計画の、全てを。
◆◆◆
『私は現代における唯一の、純血の人間だ。神裔と人間は共存したと言われているが、それは事実では無い。人間が生き残るには、神裔と共に歩むしか道がなかったのだ。
神裔がいなければ、人間の時代はいつまでも続いたことだろう。神裔を生み出した神を恨むのは当然のことだ。だから、神を殺すと決めた。
そのために神の研究をし、降臨させる為には器が必要だと知った。
30年前、ある神裔を見つけた。ペガサスの加護を持つ女と、フェンリルの加護を持つ男。
ペガサスの加護を持つ女は、神聖さ故に器にできる。そしてフェンリルの加護を持つ男なら、神を殺せるかもしれない。
北欧神話においてフェンリルは、神を殺した存在だ。これが私の第1の計画だった。
だが、計画は失敗に終わった。フェンリルの加護を持つ男は、神が降臨する前に追い返した。降臨は失敗した。神を殺すことを、誰かに委ねてはならない。私はこの手で神を殺すと決めた。
私の手元にはあの女から奪ったペガサスコインがあった。だから、コインをどうにか利用して神裔を器にすることを考えた。そして、ゼクスを拾った。
ゼクスを育てると共に、神を殺すための力も用意する必要があると考えた。
器だけでなく、神を殺す戦力を。霧島を拾い、兵器を開発するための科学者へと育てた。
そして5年前、ゼクスが知の権能を手に入れたことで計画が動いた。
ペガサスコインの加護を無理やり発現させ、使用者を器へと近づけさせるアセンションシステム。そのシステムをゼクスに開発させた。
それと、私は権能という存在に目をつけた。私もいつか権能を手に入れる。そのために神の力を集める必要があり、神裔をまとめて殺すために継裔会を作り上げた。
だが、あの男…天城とやらに再び邪魔をされた。天城は死んだが、フェンリルコインはもう彼の元には無かった。
そして、私がただ神裔を殺すだけでは効率が悪いと知った。だから、まずは現代人と神裔を対立させ、人々に神裔を殺してもらおうと考えた。
そしてセイヴァーを作り上げ、霧島をそこの科学者にした。
継裔会のヴァルガが力の権能を手に入れたことで、更に状況は変わった。力の権能によって無理やり増幅された神の力なら、より効率的に集められる。
継裔会を利用して侵攻を起こさせ、それを霧島が開発したディバイドシステムによって倒させる。
その侵攻の中、1人の青年を見つけた。あの男と女の子…純血の神裔である、天城遥斗。彼の表情は、まるで私を見ているようだった。圧倒的な復讐心。私は、彼なら権能を手に入れるほどの願いを持つと確信した。
だから、ゼクスに命じて彼の仲間を徹底的に奪っていった。
そして遂に、私は権能を手に入れた。
そんな中、ついにアセンションシステムが完成した。だが、ゼクスという従順な駒にいきなり使わせる訳にはいかなかった。失敗は許されないのだ。
私はアセンションシステムが完成しているかを確かめるために、飛翔聖也を利用した。
幸い、天城遥斗によって世界が巻き戻るので、いくら利用しても私への不信感は残らない。
飛翔聖也に無理やりシステムを使わせるために、その世界線で一条煌を消した。霧島を怪人とすれば飛翔聖也は戦わざるを得なくなる。だから、一条煌の死からジズを降臨させ、コインを渡すことで継裔会を信頼させ、霧島の怪人化に利用した。
そして、アセンションシステムによって飛翔聖也が世界から消えたことで、システムが完成していることが発覚した。
私は偶然生まれたテューポーン怪人によって天城遥斗を殺させ、世界を巻き戻した。
後は、待つだけだ。ゼクスが完全に器になるその日を。
そして、ついにその時が来た。私は神を降臨させたのだ。
必ず、神を殺す。必ず…』
◆◆◆
三上から語られた、計画の全て。リループ・ウロボロスは、怒りを隠せなかった。
「許せない…命をなんだと思っているんだ!」
三上は、笑う。
「神裔なんて命に数えるのも烏滸がましい。平和を乱した悪魔だ!」
三上の笑い声に、悲壮感が混じる。計画が失敗したからなのか、神裔という存在を本気で恨んでいるからかは分からなかった。
「神が世界に降臨した今、きっと世界はおかしくなる! お前が私を止めたせいで、神裔の世界が再び作り上げられる!」
三上の声には、怒りも乗っていた。笑い、悲しみ、怒り。三上はとっくに壊れていたのだ。
「気持ち悪いなー、人間は。」
神が手で銃のポーズを取り、三上を狙う。
「待て、まだ話が」
「バーン」
リループ・ウロボロスが神を静止しようとした時、神は撃つ仕草をした。三上の腹に穴が空いている。
「人間の…世が…」
三上は、これ以上言葉を紡げなかった。神を殺すために動き続けてきた男の最期にしては、あまりにも軽い。
「さ、世界戻すか! これの存在は消えちゃうけど、人間だしいいよね!」
神が手をかざすと、三上の死体が浮かび上がる。青く輝くその体から光りが広がる。
「倒してくれてありがとね! 平和な世界で、また会おう!」
神がそう言うと、リループ・ウロボロスの視界が真っ白になった。
◆◆◆
「はっ! いきなりすぎる…」
天城遥斗は、いつものベッドで目を覚ました。
「もうタイムリープはできない。これが、正真正銘最後のチャンスだ。
…絶対に、笑顔溢れる世界にしよう。」
遥斗はそう決心し、部屋を出る。まずは、愛しの妹に味噌汁を作ろうと決めて。
【所持コインリスト】
天城遥斗…フェンリル、ケルベロス、キマイラ、朱雀、玄武、青龍、白虎、ジズ、ペガサス、ウロボロス、燭龍




