第29話
クルトを見送った私たちはギルドの出口に向かって歩き始めた。
自動ドアをくぐり抜けると、夕暮れの陽光が三人を包み込む。
今日一日の冒険の余韻が、街の喧騒に溶け込んでいくのを感じた。
「ねえ、麗奈お姉ちゃん」
電車に乗って座席に腰掛けると、理依奈が小声で話しかけてきた。
窓の外を眺めながら、目を輝かせていた。
その表情には抑えきれない好奇心と期待感が滲み出ていた。
「また一緒にダンジョンに行こうね。今日はホントに楽しかったし、もっと色々教えてほしい!」
隣に座っている颯斗も控えめな笑顔を見せている。
理依奈の言葉に合わせるように小さく頷き、
「そうだね、理依奈もすごく頑張ってたし、僕もまだまだ強くなれると思うんだ。もっといろんな事を教えて欲しいな」
私は彼らの成長ぶりを思い起こしながら、優しく微笑んだ。
今日だけで二人の実力は確実に向上していた。
あの緊張した雰囲気の中であったはずの恐怖心も、今は新たな冒険への期待に変わっているようだ。
「もちろんよ。あなたたちが望むなら、いつでも一緒に行きましょう」
理依奈の顔がパッと明るくなった。
「やったぁ!ありがとう!」
理依奈は嬉しさのあまり小さく飛び跳ねた。
その返事を聞いて颯斗も安堵の表情を浮かべている。
初めての体験が想像以上に充実したものだったことが、二人の自信へと繋がったようだ。
「じゃあ、具体的な予定はまた今度決めようね」
「うん!」
「楽しみにしてます」
私が提案すると、理依奈は元気よく答え、颯斗も静かに同意した。
二人の目にはすでに次の冒険への期待が輝いていた。
「さて、もうそろそろ到着ね」
私は窓の外の景色を見ながら呟いた。
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玄関を開けると、懐かしい香りが漂ってきた。
料理の匂いとともに、賑やかな話し声が廊下を抜けて聞こえてくる。
リビングからは笑い声が漏れていた。
「ただいま~!」
理依奈が弾むような声で挨拶をする。
「おかえりなさい」
恵の柔らかな声が迎えてくれた。
キッチンからカレーのスパイシーな香りが部屋全体に立ち込めていた。
「ちょうど良かったわ。今日の夕飯はカレーよ」
恵が笑顔で言った。
「わぁ!大好きなカレーだ!」
理依奈が歓声を上げる。
颯斗も嬉しそうな様子でキッチンを見つめている。
「どうだった?ダンジョンは」
恵が尋ねてきた。
「すごかったよ!」
理依奈が早速報告を始める。
「ゴブリンをいっぱい倒したんだ!」
「うん、それに」
颯斗も控えめに続けた。
「麗奈さんに色々教えてもらって、すごく勉強になりました」
その様子を見て啓介が感心したように頷いた。
「素晴らしい経験になったんだな、二人とも」
颯斗と理依奈は互いに目配せを交わし、嬉しそうに頷いた。
「みんな揃ったし食事にしましょう」
恵の促しで、家族全員がダイニングテーブルに集まった。
テーブルには湯気を立てたカレーライスが並んでいく。
具材たっぷりのカレーから漂うスパイスの香りが食欲をそそる。
「いただきます」
全員で声を合わせて手を合わせる。
一口食べると、懐かしい味が口の中に広がった。
母が作ってくれたカレーの味だ。
この温もりが、異世界で過ごした200年の月日の壁を超えて届いてくる。
涙腺が緩みかけたが、今は幸せそうな家族の顔を見るだけで十分だった。
「おいし~!」
理依奈が満面の笑みを浮かべながらカレーを頬張る。
彼女の無邪気な姿に家族全員が自然と笑顔になる。
「そうか。どんどん食べて大きくなれよ」
啓介が優しく微笑みかける。
「おかわり!」
旭が器を差し出した。理依奈と同じぐらい元気な声だった。
食欲旺盛な子どもらしい仕草に家族全員の笑みが零れる。
「たくさんあるから食べてね」
恵が嬉しそうにカレーをよそいながら言った。
家族みんなで囲む食卓は、私の心を温かい気持ちで満たしてくれた。




