8
そして土曜日。
起床時間が遅かった為、2人は朝昼兼用の食事を取っていた。
昨夜は約束通り鰻を食べ、昼食はナッツがたっぷり入ったサラダとパスタだ。
「今日は久々にゆっくりできるわね。そうだ。このあと一緒にお風呂に入らない?」
「昼間からか?」
「たまには良いじゃない。それでその後はゆっくり映画でも見て、夜に備えましょう」
「……」
1日中とは言ったが、本気で1日中抱き合っているつもりはない。
深雪としては、夜に公一が出掛けるのを阻止できればそれで良いのだ。
第一、そんなに性欲も強くはない。
週に1~2できれば満足できる所を、一昨日は3回もしたのだから。
「お前、騙したのか?何が1日中だよ」
「騙してなんていないわ。公一は本当に1日中できるの?そんなに体力ある?」
「いや、さすがに1日中は無理だけど……」
「そうでしょう。それなら夜に、満足できるのをすれば良いの。あとは一緒にいて、スキンシップができれば私は幸せよ」
体を重ねなくても、イチャイチャしているだけで充分心が満たされる。
そう告げるが、公一は腑に落ちない表情で、ソワソワしながらテーブルの上のスマホを見ている。
恐らく、Kからの連絡を気にしているのだろう。
それに気付き、スマホを取り上げた。
「お、おい」
「今日はスマホ禁止。仕事の連絡なんて滅多に来ないんだから。お互いにスマホを見るのはやめましょう」
そう言い、自分のとあわせてサイドボードの引き出しにしまう。
「ほら、早く食べちゃってね。そしたらこのあとは一緒にお風呂」
「あ、あぁ」
苦笑いを浮かべると、黙々とパスタを平らげた。
食事を終え、予定通り風呂の準備をする。
公一は相変わらずソワソワした様子でサイドボードを気にしていたが、敢えて気付かないふりをしていた。
お湯はりのアナウンスが聞こえ、洗い物の手を止める。
「先に入っていて。後から私も行くから」
「わかった」
脱衣所に向かうのを見送ると、スマホをしまったサイドボードに近づく。
「電話、鳴ってるのかしら」
引き出しの中から、バイブレーターの音がしている。
そっと開けると、案の定公一のスマホが鳴っており、ディスプレイには『K』と出ていた。
時間はまだ15時だ。
当初の待ち合わせにも早すぎる。
「一体誰なのよ、これ」
あの後もずっと考えていたが、全く思い浮かばなかった。
やはり、公一が個人的に付き合っていた友人なのだろう。
隠しているのはやはり腑に落ちないし、あんなにも気にしているのも釈然としない。
だが今日1日は深雪を選んでくれたのだから、これ以上下手に詮索すべきではないだろう。
相手が誰なのかは、また目に余るようなら問い詰めようと考え直した。
「おーい、深雪。まだかー?」
浴室から公一が呼ぶ声がした。
「今行くわ」
慌てて引き出しを閉めると、脱衣所へ向かった。