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少しし、落ち着きを取り戻した深雪は「今日はせっかくの同窓会なんだから楽しまなきゃね」と背を押され、席へと戻った。
やっぱり参加してよかった。
長い間つかえていたものが取れたような、清々しい気持ちだった。と同時に、あんなにも優しい先生に酷いことをしてしまった、過去の自分を悔やんだ。
もう二度と、同じ過ちは繰り返さない。
公一の良き妻としてしっかりしなければ。
改めて決意し、個室のドアを開ける。
するとすかさず、和康が立ち上がり、歩み寄って来た。
一体何事かと、一歩だけ下がる。
「あのさ。近藤」
「なに?」
周囲を見ると、何名かが、こちらに注目していた。
どうやら、トイレに立っている間に、何か自分が関連する話題になっていたらしい。
一体何だろうかと待っていると、和康は軽く深呼吸し、頭を下げ、右手を差し出してきた。
「友達からで良いので、お付き合いして下さいっ!」
その瞬間、わぁっと会場内が盛り上がる。
「え?友達からって──私達、もともと友達よね?一体どういう事なの?」
何を言っているのか、なぜ右手を差し出されたのか。そして、なぜ会場が盛り上がっているのか理解できなかった。
キョトンとしていると、和康は苦笑いを浮かべ、バツが悪そうに頭を掻く。
「ははは。やっぱり、今時こんなんおかしいよなぁ。いや、近藤はなんか、今はお嬢様っぽいからさ。ちゃんと申し込みしなきゃってコイツ等が言うもんだから」
そう言いながら、後ろのギャラリーに軽く視線をやる。
そして振り向くと、軽く咳払いをした。
「今のなしな。とりあえずさ、連絡先教えてくれ」
「それは構わないけど……」
別に教えても構わないが、万が一、公一にバレると色々厄介な事になりそうだ。
どうしようか迷っていると、外から話し声が聞こえてきた。
誰かが新しく来たらしく、詩織が対応している。
「お前も東京で働いてんだったよな?どこの会社だ?今度飯食いに行こうぜ」
どうやら、アプローチをされているらしい。やっと理解したが、だとすれば、連絡先を教えるわけにはいかない。
今更どう断ろうか迷っていると、対応を終えた詩織が室内に顔を出し、なにやら複雑な表情でこちらを見ていた。
「あのー……近藤さんのお連れの方が来たみたいなんだけど」
「私の連れ?」
一体誰の事を言っているのだろうか。
考えてみるが、全く検討がつかない。
キョトンとしながら立ち尽くしていると、詩織の後ろから、スーツ姿の公一が現れた。
「こんにちは。遅くなって、すみません。お邪魔します」
公一はビジネス用の爽やかな笑みを浮かべ、こちらに歩いてきた。
周りは勿論、深雪自身も、何事かと目を丸くする。
「こちらの方は?」
「あの──」
詩織に問われ、深雪は戸惑いながら口を開く。が、先に公一が自ら自己紹介をした。
「初めまして。旦那の、近藤公一です」
場内がざわめく。
まさか、深雪に旦那がいたとは、思ってもいなかったのだろう。
「深雪ちゃん、結婚していたの!?」
詩織が、驚愕の声を上げる。
どうやら深雪のプライベートの話は、兄からは聞いていなかった様だ。
何が何だかわからないが、とりあえず素直に頷いた。
「はい。一応。ごめんなさい、まさか来るなんて思っていなかったから」
呟き、僅かに公一を睨む。が、公一は全く動じる様子を見せない。
「だってこの同窓会は、家族や恋人の同伴OKなんだろう?仕事が早く終わってね。せっかくだからと思って参加したんだよ」
ニコニコと、周りに愛想を振りまく。
恐らくみんなは、人当たりの良い好青年だと思っているだろうが、深雪は謀られた気がしてならない。
「ごめんなさい、ちょっと失礼します。公一、ちょっと来て」
「何だよ。まだ座ってもいないのに」
「いいから」
腕を掴み、外へ連れ出す。
辺りに誰もいないことを確認し、詰め寄った。
「一体どういう事なの?いきなり来るなんて、びっくりしたわ」
「ごめんごめん。たまたま近くで会食があって、たまたま早く終わったんだよ。ほら、同窓会の葉書にも、家族とかの同伴可って書いてあったからさ。深雪の小学校時代も気になったし」
「だからって、そんなわざわざ──。中学からの付き合いじゃないの」
「そうだけどさ。まぁ、なんて言うか、悪い虫がつかないようにってのもあるかな。お前の隣にいた奴。あれとかさ」
「………」
心配されるのは、悪い気はしないが、心の準備もしていないのに来られるのは、かなり心臓に悪い。
ただでさえ、同窓会にでる事自体、若干肩身が狭いのに。
「来るなら来るで、一言連絡くれたって──」
「近藤さん」
危うく口論になりかけた時、それを察知したのか、詩織が駆け寄って来た。
「ほら、みんな待ってるよ。料理もまだあるし、そろそろ戻っておいでよ。旦那さんもどうぞ。家族同伴の人はたくさんいますから、気にしないで下さい」
詩織に仲裁され、小さく溜め息を吐く。
確かに家族同伴参加は多い為、公一が来る事自体は、おかしな事ではない。
とりあえず、これ以上言い合いをする気にもなれず、仕方なく公一を連れて席に戻った。




