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中に入った深雪は、皆の注目の的になってしまい、なんだか居たたまれなかった。
会費を払っている間は「近藤さんって、あの近藤さんだよね?」や「懐かしい!」という騒ぎ声がしていたのだが、中に入って姿を現した瞬間、ピタリと静かになってしまったのだ。
「えっと……。私、変わったからわからないかもしれないけど。近藤深雪です。お久しぶりです」
とりあえず何か言わねばと思い、挨拶をして微笑む。
周囲を見回すが、どれも見慣れない顔ばかりで、どうすればいいかわからなかった。
「お前本当に近藤か?すげーな!見違えたよ!俺覚えてる?小林和康っ」
真っ先に立ち上がって声をかけてくれたのは、茶髪の男性だった。
「あぁ!和康?あの、サッカーとか、野球とかやっていたわよね?」
その名前は、記憶にあった。
昔、休み時間には、よく一緒にサッカーなどで遊んでいたグループの1人だ。
「ちゃんと覚えててくれたんだなぁ!あ、こっち座れよ!席空いてるからさ!」
和康は隣に座っていた大人しそうな男を追いやり、無理やり席を空けた。
「お前ずるいだろ!近藤、こっち!俺わかるよな?岸本哲平!」
「哲平?勿論覚えているわよ」
男とばかり遊んでいた為、声をかけてくれるのは男ばかりだ。
皆、あの頃に比べると、立派な大人になっている。
名前を言われなければ、全くわからないほどに。
とりあえず、近場の空いている席に座る。
昔馴染みの友人達に囲まれていると、不意に、向かい側に座っていた派手な女が話しかけてきた。
「近藤さんは、今日1人で参加なの?」
「え?どういう意味?」
彼女の言った意味が理解できず、首を傾げる。
彼女──相原奈々はニヤニヤと笑い、隣に座る派手な男にしなだれかかる。
「あれ?ちゃんと案内読んでなかったの?今日の同窓会はね、彼氏とか旦那とか同伴オッケーなのよ。だから私は、彼氏連れてきたの。ねー光」
光と呼ばれた男は、穏やかに笑い、彼女の肩を抱いた。
どう見てもホストとその客だったが、何も言わなかった。
「そうだったの。知らなかったわ」
仮に知っていたとしても、公一を同伴させる事はできない。
色々とした、諸事情で。
話をしている間にも次々とクラスメイトがやってきて、いつの間にか時間となっていた。
よく見ると、皆、彼氏だったり彼女だったり。中にはもう子供がいるらしく、娘や息子を連れてきている人たちもいた。
「じゃあ、時間になりましたので。えーっと、本日はお集まりいただき、ありがとうございます!10年ぶりなので、誰が誰なのかわからない事もあるから、取り敢えず自己紹介ね!名前と年齢……はいらないか。差し支えなければ今何をしているかを教えてください。じゃあ、出席番号順にいきます」
年月が経っても、一番最初だった事は覚えているらしく、1人の女性が立ち上がった。
「相内かなえです。今は原宿の飲食店で働いています。最近は登山を始めたので、同じ趣味の人がいたら声をかけてください」
彼女とはあまり交流はなかったが、大人しめな子だった気がする。
しかし今では先陣を切る事になっても堂々としており、アクティブな趣味を持っているようだ。
「青木亮輔です。今はまぁ、適当にフリーターやってるかな。なんか良い仕事があったら紹介してくれると嬉しいかなー。あ、月給は手取り30万以上でな!」
笑いを取っているのは、昔からお調子者だった男子生徒だ。
見た目は変わっているのに、中身は相変わらずの様だ。
この流れでいくと、深雪の番は女子の5番目だ。
名前はともかく、職業を言わなければいけない雰囲気なのは困る。
中には同席させている妻や夫も紹介している人もいるが、深雪は1人だ。
主婦ですなんて言うのはつまらない気がし、敢えて前の職場を語ろうと決めた。
そうこうしているうちに深雪の番になり、緊張しながら立ち上がる。
皆の視線が集まる。
中には深雪に気づいていない人もおり、一体誰だろうと思っている雰囲気を感じた。
「近藤深雪です。今は都内の商社で秘書──いえ、会社員をしています。今の趣味は……えっと、ガーデニングです」
一瞬ざわめきがおきた。
これがあの近藤かと驚いている声や、あの近藤の趣味がガーデニングなんてと意外がっている声が混じっている。
慌てて座ると、早く皆の意識が反れて欲しいと願った。
自己紹介も終わり、各自、久しぶりに顔を合わせた昔馴染みと、昔話に花を咲かせている。
そんな中、話題の中心に上がるのは、深雪の変貌ぶりだった。
「確か近藤て、昔丸坊主だったろ?俺、ずっと男だと思ってたもんなぁ」
「そうそう。めちゃくちゃサッカー上手かったよな。まだやってんのか?」
「もう、何年もやってないわよ」
昔のあの時代の話をされるのは、なかなかキツい。が、彼らとの共通の話題なので、仕方ないかと腹を決めた。
「それにしても、近藤さん、すっかり女の子になっちゃったね!全然気付かなかったー」
「凄い可愛いじゃん!あの頃もイケメンだなーて思ってたけど、なんか怖かったもんね」
今まで話した事のない女子にも話しかけられ、連絡先まで交換した。
久しぶりに同年代の男女と会話をする事ができ、公一の言うとおり、参加して良かったと心の底から思った。
そして同窓会も佳境に入った時、ふと、数人の女子が立ち上がる。
「トイレに行くけど、近藤さんは?」
「え?あ……えぇ」
この年で、未だに連れションをするのかと思ったが、初めて誘われて嬉しかった。
化粧ポーチを持ち、みんなの後についていく。
トイレでは、化粧を直しながら、まるで合コンの様な会話が始まっていた。
「誰かタイプいた?」
「やっぱり、金沢君かなぁ。すごくイケメンになってたよね!」
金沢とは、当時から人気のあった男子生徒だ。
成人した今でも、やはり顔は整っており、未だに人気をキープしていた。が、彼の話題はすぐに終わった。
結婚したばかりだという妻を同席させていたからだ。
「やっぱりイイ物件は、すぐに売れちゃうのよ。2番目は?」
「んー。小林君かなぁ」
小林は、先ほど深雪に話しかけていた男だ。
昔はよく、一緒に悪さをしては怒られていたのだが、今では製薬会社に勤めているという。
「製薬会社って、年収なかなかなんでしょ?でもさ、あいつ絶対に近藤さん狙いじゃん」
「そうそう。ずっと隣キープして、あからさまだもんね。近藤さんはどうなの?」
「え!?私?」
まさかこんな話をふられると思っていなかった為、反応ができなかった。
「私は、別にそういうのはないわ」
和康は勿論、もともとクラスメイト達を、そんな風に見る事もないし、つもりも全くない。
第一、彼らに会ったのは、一緒にサッカーや野球をした以来なのだ。
「じゃあ、彼氏探しで同窓会来たんじゃないの?」
「ちょっとはそんな気くらいあるでしょ?」
どうやら彼女達は皆、あわよくば昔の同級生の中で彼氏や旦那候補を探そうという意図があるようだった。
深雪は苦笑いを浮かべ、化粧を直す。
「クラスの男の人達はみんな、恋愛対象とか、そういう風には見れないの。だってずっと、男同士として接してきたんだもの」
確かに時が経ち、皆、立派な大人になった。が、認識やイメージは昔のままなのだ。
そう告げると、彼女達は妙に納得していた。
「なるほどねぇ。近藤さんの中で、男子達はみんな、同性の友達ってわけね。じゃあ、私、岸本君にアピールしちゃおっかな」
「じゃあ、私は和康に行くわよ!」
「やっぱ、今時はこっちからいかなきゃね!」
「近藤さん」
みんなでトイレを出ると、不意に声をかけられた。
振り向くと、そこには中年の女性が立っており、目が合うと優しく微笑んだ。
「──先生」
すっかり年をとっているが、深雪達の担任の教師だった人だ。
彼女は深雪を改めて見ると、嬉しそうに笑った。
「すっかり見違えてしまったわ。本当に綺麗になって」
「──私、先生に謝りたくて……」
何年も前の事なのに、あの時の光景は今でも覚えている。
深雪の言動を心配し、注意をしてくれた。
しかし当時自分は女ではないと信じたかった深雪は、彼女に手を上げ、大ケガを負わせてしまったのだ。
「ごめんなさい。私、とても酷いことをしてしまって……。先生は、私の事を心配してくれたのに」
思わず涙が浮かぶ。しかし彼女は深雪を責める言葉は一切口にせず、相変わらず優しい笑みを浮かべながら肩を撫でた。
「良いのよ。あの時は、私も無神経だったわ。あなたの葛藤も知らずに、女の子である事を押し付けてしまったから。でもよかった。あなたがきちんと、自分のあり方を見つけてくれたみたいで」
「っ……」
優しい言葉をかけられ、涙腺が弱くなってしまう。
深雪は彼女の胸に顔を埋め、声を押し殺して泣いた。




