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「え?同窓会?」
数日後。いつもの様に帰宅した公一に、深雪は恐る恐る葉書を見せる。
今日回収した郵便物の中に、珍しく自分宛のものが混ざっていた。
最初は美容室などのダイレクトメールかなと思ったが、内容を見て気付いた。
そういえば先日、柊から連絡があり、偶然にも彼の妹が深雪の同級生だと知った。
近々同窓会の予定がある為、案内を送っていいかと聞かれたのだ。
「いいんじゃないか。行っておいでよ」
小学校の同窓会の連絡が来た事を告げると、意外にもすんなりと言った。
「でも、小学校よ?もう10年以上前だし。それに私、問題児だったし、中学だって──」
小学生だった時の事は未だに覚えている。
いつもタチの悪い男子達と悪さをし、自分は男だと思い込んでいた。
──いや、思いたかった。
だが性別は偽る事ができず、それを指摘してくれた担任に、大怪我をさせてしまったのだ。
「俺だってロクな事はしてなかったよ。でも前に行った同窓会は意外と楽しかったな。みんな、もうイイ年した大人だしさ。新しい友達もできるかもしれないだろ?」
「………」
小学生の頃の話は、まだ公一にはした事がない。その為、何も知らないのだ。
自分がどんなバカな事をしていたのかを。
「でも、やっぱり同窓会なんて──。行きたいけど、行き難いというか」
あの時は是非行きますと柊に言ってしまったが、いざ案内がくると色々と不安になる。
「私、やっぱり行かない。ううん、行けないわ。今更、どんな風に参加すればいいかわからないもの」
「まぁ、強制はしないよ。でも、たまには昔のクラスメイトに会いに行くのもいいものだよ。きっと、新しい人間関係が築けると思うからね。あ、先に風呂に入るから」
公一はネクタイだけを外し、脱衣所へ向かった。
「そっか……新しい人間関係」
呟き、深雪はじっと出欠席の文字を見つめる。
公一の言葉を聞き、なんとなく、行こうかなという気持ちになってきたのだ。
何せ小学校だ。
もう10年も前だし、覚えていないかもしれない。
それに、担任も参加するらしい。
当時は28歳位だったから、今はもう40歳くらいだろうか。
今更かもしれないが、あの時の事をきちんと謝りたい。
こんなチャンスは滅多にないかもしれない。
公一も行った方が良いと言っているし、確かに以前、公一を迎えに行った時も、とても楽しそうだった。
行ってみようかな。
段々と前向きな気持ちになってきた。
居心地が悪かったら、帰ればいい。
何事もチャレンジが大事だ。
意を決し、出席に丸をつけた。
「行くときに、これを出して貰える?」
翌朝、出勤する公一に同窓会の葉書を渡す。
「行くことにしたんだ」
「えぇ。せっかく柊さんが誘ってくれたし、一応、仲が良かった友達もいたにはいたから」
「そうか。日にちは来週?随分急だな。わかった。出しておくよ。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
見送ると、いつもの様に掃除洗濯を始める。が、来週は同窓会だと思うと、少しだけ、気分が晴れやかになった。
葉書を受け取った公一は、エレベーターに乗りながら、何気なく内容を見ていた。
開催日時は、来週の土曜日の18時から。
場所は新宿のイタリアンをメインとした居酒屋だ。
「あぁ、あそこか」
店のジャンル的には居酒屋の括りに入るが、そこは最近オープンしたばかりで、かなり話題の店で、予約も埋まっているはずだ。
恐らく、急なキャンセルがあったか何かで、急遽という感じの様だ。参加者を集める為、深雪に連絡を取りたかったのだろう。
「小学校の同窓会か。そろそろ俺の中学もやるかな?」
そう呟いた時、ふと、往復葉書なのにそのまま切り取らずに渡されていた事に気付いた。
「全く。往復葉書を知らないのかな」
このまま投函すると、大恥だ。
案内や詳細が書かれている左側を、鞄に入っていたペーパーナイフで丁寧に破る。
その時ふと、店の住所等の下に、小さく書かれている文字に気付いた。
「へぇ」
呟くと、公一は小さく笑みを浮かべた。