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彼の友人は彼女の敵  作者: 石月 ひさか
疑心暗鬼
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翌日、公一はそっとベッドを出て、身支度を済ませてマンションを出た。


いつもは深雪を起こして朝食を頼んでいるが、今日はそのまま寝かせておこうと気を使った。


地下駐車場に降り、車のロックを外して乗り込む。


「今日は道が空いてるな」


いつもは出勤ラッシュで混みあっている道だが、今日は比較的スムーズに進む事ができた。


この分だと早く着きそうだなと思いながら車を走らせていると、スマートフォンと連動させているカーナビから新着メッセージの音がした。


信号待ちの間に通知を見る。そこには『K』と表示されていた。


一瞬誰だろうかと思ったが、恭平である事を思い出した。


ボタンをタッチし、メッセージを開く。


そこには今晩飲みに行かないかと書かれていた。


「今晩……?随分急だな」


確か恭平とは、土曜日に約束をしている。何か急ぎの用事でもあるのかと思い、急にどうしたのかと返す。


レスはすぐにあった。


『今日、サツの手入れがあるとかで急遽休みになったんだよ。暇なら飲みに行こうぜ』


「相変わらずだな……」


確か恭平は今、ヤミ金で働いていると言っていた。ヤミ金は勿論違法だ。こんな事は日常茶飯事なのだろう。


スケジュールを確認してみると返し、ビルの地下駐車場に車を止める。


ここからは、社長の近藤公一としてキャラを切り替えなければならない。


車を降りてロックをかけると、エレベーターのボタンを押す。


「社長。おはようございます」


「あぁ、おはよう」


声をかけてきたのは、人事部の柊だった。


ビルには充分な駐車スペースがある為、許可を出した従業員の車通勤も可能にしてある。


だが柊は確か、最近までは電車通勤だったはずだ。


「車通勤に切り替えたのか?」


エレベーターを待つ間、世間話のつもりで問う。


「はい。先日新車を買ったので、ついつい乗りたくなりまして」


「そうか」


話を振ったのだから、何の車なのかと聞くべきだっただろうか。


悩んでいるとエレベーターが到着し、話を続けるタイミングを失ってしまった。


「そういえば、以前働いていた近藤深雪さんを覚えていますか?」


「近藤深雪?」


「はい。騒ぎに巻き込まれて退職した、秘書課の」


「あぁ、覚えている。あいつがどうかしたか?」


何故柊の口から深雪の名前が出るのだろうか。


なんとなく気に入らなかったが、赤の他人としている以上、表情には出さずに問う。


「あいつ、今どうしているのか気になりまして。彼女と連絡を取ったりはしていますか?」


「いや……。個人的な関わりはないが。何故気にかける?」


人の妻を気安くあいつ呼ばわりするなと言いかけたが、言葉を飲み込む。


柊は「そうですか」と呟き、小さく笑った。


「昨日、優さん──長女さんから話を聞いて。一緒に旅行に行ったと言っていました。俺もあいつの事は気にかけていたんで、元気にしているかなと」


「ほぉ」


柊が優と接点があった事も意外だったが、辞めて何ヵ月も経つ女の事を未だに気にかけているのも気になる。


もしかして柊は、深雪に気があるのだろうか。


「あいつはお前と関わり合いはなかったと思っていたが」


「まぁ、そこまでではないんですが、たまに話をしたりしていました。彼女には個人的な理由で連絡を取りたいんです。社長ならばご存じかと」


「個人的な理由か……。いや、生憎だが俺は知らない。だがあいつは既婚者だぞ?」


「えぇ、わかっています──あ、失礼します」


タイミング悪く人事部の階に止まり、柊は一礼をして去って行った。


ドアが閉まり、公一は眉を寄せながらぼやく。


「人妻だと知ってても連絡が取りたいだって?何言ってんだアイツ……」


今まではずっと、仕事ができる奴だと一目置いていた。だがあんな事を言われると、評価は駄々下がりだ。


「やっぱり深雪に気があるのか?確か、柊はまだ独身だったよな……。しかも俺に連絡先を教えろだって!?」


柊は深雪との関係を知らない。その為悪意があっての事ではないがどうも気に入らない。


出社早々不愉快な気持ちになり、苛々しながらエレベーターを降りる。


そのまま勢いよくドアを開けると、既に出社しついた華江と優が驚いたように振り向いた。


「おはようございます、社長」


「……」


挨拶を返す気分にはなれず、黙って社長室に入る。


鞄をデスクに乱暴に置くと、スマートフォンを取り出して深雪の会話画面を開いた。



「いや、やめた方がいいか……。なんて言えばいいんだ?柊がお前の連絡先を知りたがっている?お前に気がある?──絶対に喧嘩になるだけだよな」


第一深雪は柊の事なんて忘れているに決まっている。現に仕事をしているときも柊の名前が出た事はない。──確か。


「余計な事を言うのはやめよう。取り敢えず落ち着かないと」


このままだとまた部下に八つ当たりをしてしまいそうだ。


現に先ほども挨拶を無視してしまった。


横暴なだけが社長ではないと自身に言い聞かせ、ドアを開ける。


「誰か、コーヒーを煎れてくれないか。あと、今日の会議の資料もだ」


「は、はい!」


秘書室には華江の姿はなく、優が緊張した面持ちで答えた。


「急ぎで頼む」


ドアを閉めると、自身を落ち着かせるために数回深呼吸を繰り返す。


「そうだ。スケジュール」


ふと、恭平に誘われていた事を思い出し、椅子に座る。


ノートパソコンを開き、今日のスケジュールを確認する。


「失礼いたします。コーヒーと資料をお持ちしました」


「そこに置いてくれ」


画面を見ながら答えると、優は素早くコーヒーと資料を置いて差って行った。


「17時からは特に予定はなさそうだな」


深雪には特に早く帰るとも言っていない。


仕事だと言えば、数時間くらいは問題ないだろう。


そう考え、深雪にメッセージを送る。


『今日は仕事で少し遅くなる』


まだ寝ているのか、既読はつかなかった。つぎに恭平に返事をする。


『あまり遅くまでは無理だけど、軽く飲む位なら付き合うよ。キャバクラはなしだぞ』


またうっかり名刺を持ち帰ったら大変だ。恭平からはすぐにレスがあった。


19時に新宿のバーで待ち合わせる事にした。


コーヒーを飲みながら色々と雑用を片付けていると、ドアがノックされ、華江が姿を見せた。


「社長。そろそろ会議のお時間です」


「あぁ、わかった」


パソコンを閉じ、優が持ってきた資料を持って部屋を出ていった。

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