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その晩公一は、いつもより少し遅い、25時近くに帰宅した。
時間も時間な為、さすがに深雪はもう寝ているだろうと、気を使ってチャイムは鳴らさず、鍵を使って中に入る。
「お帰りなさい」
「あれ。起きてたのか?」
寝ているものだと思い込んでいた為、驚愕の声を上げる。
「えぇ。だってご飯食べるでしょ?それに話したい事もあったから」
「話したいこと?」
深雪の表情から、悪い話ではないようだ。そう思うと同時に、恐らく瑞穂に頼んだ件だろうと思い出した。
さすがに仕事が早い。
着替えを済ませてダイニングテーブルに着くと、用意されていた夕食を食べる。今日は洋食のようだ。
「あのね。来週の土曜日なんだけど、出掛けてもいいかしら」
「あぁ、いいよ──土曜日?」
瑞穂に頼んだのは日曜日のはずだ。もしかして、何か違う用事の話だろうか。
「うん。瑞穂さんが、女だけで1泊旅行に行かないかって誘ってくれたの。近場なんだけど、レディースプランで安くて良い場所があるんですって」
「温泉旅行か……」
てっきりショッピングや映画に誘うとばかり思っていた為、1泊旅行は予想外だった。だが、修学旅行すら行った事がない深雪にとっては最も楽しめるものだろう。と同時に、そんなに金がかかりそうな事をするなら、あの時金を受けとれば良かったのにとも思う。
「旅行はやっぱりダメかしら?」
「いや、良いよ。せっかくだし楽しんできなよ。俺は大丈夫だから」
幸い土曜日も仕事がある。深雪は目を輝かせ「いいの!?」と立ち上がった。
「勿論。土曜は俺も仕事だし、女同士で旅行なんて初めてだろう?」
「うん!だからずっと夢だったの。一緒に温泉に入ったり、美味しいものを食べたり」
「夢が叶って良かったな。あぁ、そうだ。じゃあこれ」
鞄から、瑞穂に突き返された封筒を差し出す。
「宿代とかはこれで払いなよ」
「いいわよ、こんなの。まだ前に貰った給料が残ってるもの」
「仕事してた時のか?それはそれで貯金でもしておきなよ。ほら、深雪の誕生日もあるしさ。これは俺からのプレゼントだと思って」
そう言うと、深雪は少し考え「ありがとう」と言う。そして中を見ると、瑞穂と同じようにギョッとした表情を浮かべた。
「こんなにたくさん?これ、いくら入ってるの?」
「50くらい」
「え?50万!?海外に行くんじゃないのよ。1泊なんだから、交通費を入れても3万くらいしかかからないわ」
「そうなのか」
正直公一自身も、友人と温泉に行った事はない。
旅行といえばプライベートなものか出張くらいなもので、相場がイマイチわからないのだ。
「じゃあ小遣いとあわせて10万くらいで良いかな」
「10万もいらないわよ。たった1泊2日なんだから。温泉に入って、ご飯を食べて終わりでしょう。だから5万円もあれば充分」
残りは返すわと封筒を差し出され、渋々受けとる。
「帰りになにか美味しいものでも食べてきたら良いのに」
「だとしてもこれだけあれば充分よ。残りは貯金にでも回して頂戴」
「あぁ、わかった」
深雪には家事全般は任せているが、家計の管理をしているのは公一だ。
これはあくまでも自分の小遣い分から出したものであり、貯蓄は別に分けてある。そう言おうかと思ったが止めた。
また、瑞穂の時の様に滑ってしまいたくはないからだ。
「まぁ、取り敢えず楽しんできて」
「早速明日、新しい服を買ってくるわ」
「わざわざ旅行の為に服を買うのか?」
「そう。あと旅行用のバックも買わなきゃ」
だとすると、準備だけで更に金がかかりそうだ。
それならばこの金を使えば良いのにと思ったが、取り敢えず黙って夕飯を平らげた。




