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20時半。
深雪は言われた通り新宿駅の西口前にやって来た。
給料日後だからだろうか。
平日にも関わらず、たくさんの人で賑わっている。
柱に寄りかかりながら、鏡を出して化粧と髪型をチェックする。
今日の服はピンクのデコルテ魅せカットソーに、白いミニスカートを合わせた。
ストッキングにヒールを履いたが、やはり少し寒いので、薄手のコートを羽織って来た。
まだ公一が来る気配はない。
鏡を戻そうとバッグに手を入れた時、スマホが振るえているのに気付いた。
「もしもし。今どこにいるの?」
『駅前だよ。深雪はどこにいる?』
「どこって、私も駅前よ」
言いながら、辺りを見回す。
少し離れた所にスーツ姿の公一がいるのに気付いた。
向こうもキョロキョロと周囲を見ている。
目が合ったが、気付かなかったのか、すぐに反らされてしまった。
「なんだ、すぐ近くじゃない。待ってて。すぐに行くわ」
スマホをポケットに入れ、駆け寄る。
後ろから近付いて手を握ると、公一は驚いたように振り向いた。
「どこ見てるのよ。さっき目が合ったのに」
公一は、ぽかんと口を開けたまま呟く。
「あれ深雪だったのか……。なんか今日は雰囲気が違うな」
「うん。頑張ったから」
普段は比較的膝丈のワンピースを着ている事が多い。
今日は気合いを入れ、少しだけ路線にしてみた。
「似合う?」
「あ、あぁ。なんかちょっとアレだけど……」
言いながら視線を下げた瞬間、強く肩を掴まれる。
「お前、またそんな服着たのかよ!」
どうやら胸元の開き具合が気に入らないらしい。
香ヶ崎は、昔の深雪の事を男だと認識したままだろう。
こうして女である事をアピールすれば、何かの拍子でバレる可能性も薄れると思ったのだ。
「だけど、なんで谷間なんか見せる必要があるんだよ」
そう説明したが、公一は不満そうだ。
「だって、新しく買ったから着たかったんだもの。ほら、行きましょう」
腕を取り、歩き出す。
公一と一緒にいる為、おかしな男に声をかけられる事はない。
だが擦れ違う男達は皆、無意識だろうが胸に視線を落としているのが分かる。
改めて、男は本当に胸が好きなのだなと思った。
公一も周りの視線には気づいているらしく、黙って深雪のコートのボタンを閉めた。