07 初めての討伐クエスト
予定を早めて昨晩22時頃にも1話投稿しています。
未読の方は是非お読み下さい。
翌朝。
ライラさんと一緒に冒険者ギルドへとやってきた。
クエストボードの前にふたりで並ぶ。
「お、おい。
あれ見てみろ。
勇者ライラだぜ」
「Sランク序列1位の『氷帝』ライラか!
こんな近くで拝むのは初めてだ。
すごい美人じゃないか!」
「珍しいな。
ライラはギルドにはあまり顔を出さないのに」
ギルドが騒然とし始めた。
「それよりライラの隣にいるのは誰だ?」
「隣の男は見ない顔だな。
新人か?
いずれにせよライラの連れだ。
きっと実力者に違いないぜ」
「ああ……。
クエストボードを睨んでやがる。
どんな高難度クエストを受けるつもりだ?」
「あ⁉︎
いま腕を組んだぞ!
ちくしょう、俺たちのライラさまにベタベタしやがって!」
「ライラさん、ライラさん。
俺たち、なにか注目されてるみたいなんですが」
「いつものことよ。
お母さん、これでも結構有名人なんだから。
実はファンクラブなんてものもあるのよ?
うふふ。
なんだか年甲斐もなく照れちゃうわね」
「ファンクラブ、ですか……。
まぁライラさんは凄い美人ですから、わからないではないですが」
「まぁ⁉︎
美人だなんて!
ユウくんってば、お母さんに見惚れちゃった?
うりうり」
「ちょ、ちょっと⁉︎
そんな嬉しそうに、胸を押し付けないで下さい!
あまりくっつかないで。
さっきから俺、一部の冒険者に鬼のような形相で睨まれてます!
正直辛いです」
「もうっ。
ユウくんったら、素っ気ないのねぇ」
腕を絡めてくるライラさんを、引き離した。
改めてクエストボードに向き直る。
どの依頼を受けようか。
俺は最底辺のFランク冒険者だから、いつものように一人なら、薬草採取の依頼くらいしか受けられるものはない。
だが今日はライラさんとパーティーを組むから、どんな依頼でも受け放題だ。
「ユウくんはどんなクエストを受けたい?」
「そうですね……。
実はまだ討伐クエストを受けたことがなくて。
冒険者登録してから、割とすぐにライラさんに勇者パーティーに誘われましたし、その勇者パーティーでは荷物持ちをやってましたから」
「そっかぁ。
お母さん、あんまりユウくんには無茶して欲しくないんだけど……」
ライラさんが腕を組んだ。
「……そうね。
ユウくんも男の子だし、強くなりたいわよね。
獅子は我が子を千尋の谷に落とす、とも言うし……」
眉間に皺を寄せて「むむむ」と唸っている。
「よし!
お母さん、覚悟を決めたわ!
この依頼を受けましょう!」
ライラさんが手を伸ばして、ボードから一枚の羊皮紙を取った。
さっきから俺たちを注視していた冒険者たちが、騒ぎ始める。
「ライラが依頼を受けるつもりだぞ!」
「一体どんなクエストだ⁉︎
地底湖に巣食うスキュラの討伐か?
それとも魔物が闊歩する、廃墟と化した魔都の解放か?」
俺も興味がある。
ライラさんはキュッと下唇を結んで、真剣そのものだ。
「……ライラさん。
一体どんなクエストを?」
「危険なクエストよ?
ユウくんを危ない目に合わせるのは、本意じゃないのだけれど……。
でも安心していいわ。
お母さん、なにがあってもユウくんを守るから!」
ごくりと生唾を飲み込んだ。
これはよほどのクエストかもしれない。
「詳細を……、見せてもらっていいですか?」
「ええ……」
手渡された羊皮紙に目を通す。
そこにはこう記されてあった。
『ランクE、常時クエスト。
近郊の森でゴブリン討伐。
討伐報酬は、ゴブリンの右耳ひとつにつき、大銅貨1枚』
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ギャギャ!
アギャギャ!」
飛び掛かってきたゴブリンをひらりと躱す。
「たぁああ!」
水平に剣を振って、背中から首を刎ねた。
これで8体目の討伐だ。
「凄いわユウくん!
私の出る幕なんて、全然ないじゃない!」
「ええ。
実はゴブリンなら、何度か狩ったことがありまして。
薬草採取するにも、襲われることはありますし」
ただ採取クエスト中にゴブリンを討伐しても、ギルドに耳を買い取ってもらえない。
お金にならないのに戦うのも面倒なので、逃げられるときは逃げている。
「そうだったんだぁ。
道理で剣にためらいがなかったわけね。
お母さんなんて、こっちにきて初めて魔物と戦ったときは、命を奪うのを随分と躊躇したのよ?
ユウくんはその点、やっぱり男の子なのねぇ。
すごいわ!」
「いやゴブリン退治くらいでそんなに煽てられると、なんだかこそばゆい感じがしますよ。
討伐クエストとしては、初級も初級ですし。
とは言っても、これは薬草採取より、ずっと稼ぎやすいですね」
薬草採取だと朝早くから昼まで頑張っても、大銅貨3枚程度しか稼げない。
それがゴブリン討伐なら、大銅貨8枚だ。
大銅貨が2枚あれば満足な食事ができるし、6枚もあれば普通の宿にだって泊まることができる。
「よし!
頑張ってもっと稼ぎます!
あ、ちゃんと報酬は折半しますので」
「報酬はいいわよぉ。
お母さんは実際まだ、なんの手出しもしていないんだし。
それより私としては、ユウくんには危ない目にあって欲しくないなぁ。
ね、そろそろ帰ってご飯にでもしない?
また美味しいの作っちゃうから!」
「いえ!
もっと狩っていきます!」
「そ、そぉ……?
うーん。
ユウくんがそう言うなら……」
やる気を出した俺は、結局その日15体ものゴブリンを討伐した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
東の大国、オット・フット都市連合国。
その中核都市のひとつ、傭兵都市グロウラインにある闘技場で、いま見世物試合が行われていた。
「グルルルゥ……!」
凶悪なキマイラが、牙を剥く。
大きな獅子の口から、涎を撒き散らしている。
その巨大な魔獣に相対するのは、まだ年端もいかぬ猫耳の獣人少女だ。
ぐるりと円形に試合場を囲む立体観覧席。
観客たちが、いま正にぶつかり合わんとしている白髪褐色肌の少女とキマイラを、囃し立てる。
「……ふん」
少女が、煩わしげに鼻をならした。
赤い瞳が鋭く光る。
「グァアアアアッ!」
キマイラが獣人の少女に襲いかかった。
強靭な鉤爪が、華奢な少女の体に振り下ろされる。
だが少女は、無造作に踏み込んだ。
「雑魚め。
死ねばいい」
褐色の少女がハイキックが繰り出した。
見ればその脚は、激しい電撃を纏っている。
少女の脚がキマイラの鉤爪を粉砕した。
だが蹴りの威力は、それだけに止まらない。
繰り出されたハイキックはそのまま獅子の横っ面を捉える。
「ギィヤアアアア!」
悲鳴とともに、キマイラの上半身が爆散した。
肉片が飛び散り、赤い雨がぼたぼたと降り注ぐ。
Aランク魔獣キマイラが、ただの一撃で血の海に沈んだ。
これには派手なもの好きな観客たちも、言葉を失っていた。
「……ふん」
静まり返った闘技場の中心で、ふたたび少女が鼻を鳴らした。
その表情は、実につまらなさそうだ。
彼女の名は、マリエラ。
二つ名は『雷猫』。
若干12歳で闘技場にデビュー。
以来3年間、通常では考えられないほどハイペースに試合を組まれるも、その悉くを強烈な足技で一蹴。
最早まともに戦える相手がいないことから、こうして魔獣との試合を組まされている。
「……こんな世界、なにもかもつまらないのよ」
マリエラは空を見上げた。
「……悠に、会いたい」
この白髪褐色の猫耳少女こそは、前世でのユウクスの姉。
転生チート『疾風迅雷』を開花させた、常勝無敗の最強剣奴。
麻理、そのひとであった。