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08 平和な日常と、王国の暗部

 今日も今日とて、ライラさんとパーティーを組んでゴブリン討伐に励む。


 とはいえ戦っているのは俺ひとり。


 ライラさんはハラハラしながら、俺を見守ってくれている。


「たあああ!」


「ギャギャ⁉︎」


 襲ってきたゴブリンの棍棒をかわして、心臓に剣を突き立てた。


「よし。

 これで18体目。

 随分とゴブリン退治も手馴れてきたぞ!」


 パチパチと手を叩く音が聞こえてきた。


 ライラさんだ。


 彼女は地面にシートを敷いて、その上に座っている。


「凄いわユウくん!」


「ええ。

 ゴブリン相手なら、もう負ける気がしません」


「さすがはユウくんね!

 でもお母さん、ユウくんが怪我しないかって、気が気じゃなくて。

 ……はぁ、これは心臓に悪いわぁ」


「大丈夫ですか?

 胸を押さえて……」


「大丈夫よ。

 だけど胸がハラハラドキドキしちゃうわ。

 鼓動が凄いの。

 触ってみる?」


 ライラさんが胸を突き出してきた。


 彼女の大きくて柔らかなおっぱいが、ぷるんと震える。


「さ、触りませんよ!

 もう……っ。

 しかし本当に、ライラさんは心配性ですね」


「だって大切なユウくんのことなんだから、心配にもなるわよ。

 あ、そうそう。

 そろそろ疲れたでしょう?

 休憩にしましょう。

 お母さん、サンドイッチ作ってきてるから」


「そうですね。

 少しお腹も空いてきましたし。

 じゃあ、いただきます」


「はい、ユウくんはここに座って。

 うふふ。

 お母さんの隣よ。

 ふんふんふーん。

 可愛いユウくんと、森でピクニックデート〜♪」


「いや、ピクニックって。

 いちおうこれはクエストなんですが……」


「まぁどっちでもいいじゃない。

 それより、はい、ユウくん。

 お母さん特製、ドードー鳥の照り焼きサンドイッチよ!

 あーん……」


「ラ、ライラさん。

 自分で食べられますから」


 差し出されたサンドイッチを受け取った。


 ライラさんが少し残念そうな顔をする。


 意識的にそれを見ないようにして、手にしたサンドイッチを、もぐもぐと食べた。


「これは……。

 すごく美味しい……!」


「まぁ⁉︎

 ユウくんったら、上手ねえ!」


「本当に美味しいですよ!

 辛さと甘さが絶妙なバランスで調和している。

 この白パンもふっくらしていて、雲みたいにふわふわですね。

 いくつでも食べられそうです!

 こんなのいままで食べたことがない!

 なのになぜか懐かしい……」


「うふふ。

 ユウくんってば、そんなにがっついて。

 照り焼きの再現は大変だったけど、苦労した甲斐があったわぁ。

 こんなに喜んでくれるなんて!

 日本でも、ユウくん照り焼きサンド好きだったもんね。

 どんどん食べていいのよ?

 さ、お茶もどうぞ」


「ありがとうございます!」


 ライラさんはとても嬉しそうだ。


 彼女の笑顔につられて、俺まで嬉しくなってくる。


 俺はサンドイッチを口に詰め込むみたいにして、たくさん食べた。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 食後。


 俺はライラさんの淹れてくれたお茶を飲みながら、食休みしている。


 ライラさんが食事の片付けをしながら、不意に話しかけてきた。


「そうそう。

 ちょっと不思議に思ったんだけど、ユウくんの冒険者等級ってFランクなのよね?」


「はい、そうですよ。

 恥ずかしいですが、最低ランクです」


「んっと……。

 でもおかしいわね?

 ここのところずっとユウくんのゴブリン討伐を眺めていたけれど、ユウくんの剣の腕前ってFランクどころじゃない気がするわよ?」


「そうですか?」


「だって考えてもみなさい。

 ゴブリンはEランクの魔物よ?

 強さだって、Eランク冒険者相当。

 それをこうもポンポンと討伐できるFランク冒険者なんて、いないわよ」


 そうか。

 魔物にも等級はある。

 冒険者と同じくS、A、B、C、D、E、Fの7等級だ。


「ユウくんなら、最低でもCランクはあるわね。

 ちゃんとした剣術を身につければ、Bランクにも届くんじゃないかしら?

 まぁユウくんだから、いずれはもっともっと強くなれると思うけど」


「買い被りですよ。

 ライラさんは僕を贔屓目で見過ぎです」


「そんなことないわよぉ。

 ね、ユウくん。

 どうしてずっとFランクにとどまっているの?」


「……好きでとどまっているわけではないのです。

 Eランクへの昇格試験に、『初歩の属性魔法、もしくは属性技の使用』ってあるでしょう?

 あれがクリアできなくて……。

 なんせ俺は、属性適性なしの無能者ですから」


 自虐的に笑う。


 少し卑屈な笑い方だったろうか。


 口にしてわかったが、どうやら俺は自分の境遇に結構な悔しさを感じていたようだ。


 情けない顔をする俺を眺めて、ライラさんが悲しげにまつ毛を伏せた。


「……無能者なんかじゃないわ」


「ライラさん⁉︎」


 抱き寄せられた。


 ミルクのような甘くて優しい香りが、ライラさんから漂ってくる。


「そんな風に言わないで。

 ユウくんは無能なんかじゃない。

 いまは目覚めていないだけで、本当はすごく強いんだから……」


 ライラさんの胸に顔を埋める。


 柔らかくて暖かい。


「……ううん。

 本当は強くなんてなくていいの。

 弱くたっていい。

 ずっとお母さんが守ってあげる。

 お母さんはね。

 ユウくんがここにいて、笑ってくれるだけで、とっても幸せなのよ?

 ユウくんのためなら、なんでも出来ちゃうんだから」


「ライラさん……」


 喉につかえていた悔しさが溶けていく。


 俺はしばらくの間、抵抗せずにライラさんに抱かれていた。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 とある屋敷の一室。


 そこで元勇者パーティーのリーダーだった男、ジークが詰問されていた。


「……駆け出し冒険者のユウクスか。

 勇者ライラがパーティーを抜けた理由はわかった。

 それで、どうしてライラはその男に入れ込んでいるのだ?」


「それは俺にもわかりません」


 ジークを問い質している人物は、王国の軍務大臣。


 名前はキャンタン。


 肥え太った男だ。


 偉そうに踏ん反りかえった初老の男である。


「はぁ……。

 のぅ、ジーク。

 わからないで済むと思っているのかね?」


「す、すみません……」


「それでジーク。

 お前はライラがパーティーを抜けるのを、指を咥えて見ていただけか?」


「ち、違います!

 俺だって、ライラを引き止めました!

 ですが――」


「やかましい!

 言い訳をするな!」


 キャンタン大臣が声を荒げて一喝した。


 その迫力にジークが竦み上がる。


「ジークよ。

 子どもの使いではないのだ。

 結果を出せねば、経緯などすべてないに等しい。

 お前は勇者ライラをみすみす手放した。

 わしがお前のパーティーにライラを引き入れるために、どれだけ手を尽くしたかわかっておるのか?」


「も、申し訳ございません!」


「まだわからぬか。

 謝罪などいらぬ。

 欲しいのは結果だ。

 これではせっかく苦労して、ライラの氷棺からお前を助け出した甲斐がない」


 ジークが平伏して縮こまった。


 大臣はその姿を、蔑んだ目で見下ろす。


「……ジーク。

 もう一度だけチャンスをやる」


「あ、ありがとうございます!」


「なんとしてもライラをパーティーに連れもどせ」


「は、ははぁ!」




 ジークが退室した部屋で、キャンタン大臣がパチンと指をならした。


 暗がりから影が応じる。


「御用でしょうか」


「うむ。

 話は聞いていたな?

 ライラを取り戻すために、お前たちも動け」


「……は。

 しかしよいのですか?

 ジークめは……」


「ふん……。

 あの者はもう信用ならん。

 わしは一度でも失態を犯したものは信じぬのだ」


「左様でございましたね。

 ですが、それではどうしてジークに、勇者ライラを連れ戻すようお命じになられたので?」


「わからぬのか?

 あの者は囮。

 本命はお前たちだ。

 ジークのことは好きに使え」


「……なるほど。

 承知いたしました。

 では早速行動を開始いたします」


 影がすぅっと消えていく。


 誰もいなくなった部屋のなかで、キャンタンは独り言を呟いた。


「ライラめ……。

 お前はわしの駒だ。

 決して逃しはせぬぞ……」

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↓アルファポリスに投稿してみました。
よろしければクリックだけでもよろしくお願いいたします。
cont_access.php?citi_cont_id=985265293&si

三分で読める短編です。
三十代後半からの独身読者さんの心を抉る!
転生前夜。孤独死。

他にもこんなのも書いてます。
どれも文庫本1冊くらいの完結作品です。

心が温まるラブコメ。
読後、きっと幸せな気持ちになれます(*´ω`*)
猫の恩返し ―めちゃめちゃ可愛い女子転入生に、何故か転入初日の朝の教室で、皆の前で告白された根暗な僕―

お手軽転移ファンタジー。
軽く読めてなかなか楽しい。
異世界で伝説の白竜になった。気の強い金髪女騎士を拾ったので、世話をしながら魔物の森でスローライフを楽しむ。

ちょいとシリアスなのも。
狂った勇者の復讐劇。
復讐の魔王と、神剣の奴隷勇者
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