8 アキナ
浦賀達が食事を終え、談笑していると、入り口から6人程、店内へ入ってきた。
「おはようございます。今日も美しいですね乙葉姫、それにケイトさん」
そう挨拶をした先頭に立つ男は、真っ赤な髪に青や黄色が混じった長髪、浦賀と同じ175cm程の背丈。これまた赤い色の着物に青や黄色の模様が入った着物を着た、憎らしい程の美青年。しかし、彼の足は人間のものではなく、鳥の足そのもので、靴をはいていなかった。
「おはようございます。アキナ様」
笑顔で乙葉も挨拶を返し、ケイトは黙ってお辞儀だけした。
「ところで…」そう言って浦賀の方をアキナは見た。
「ボクは鳥獣銀河カンパニーのアキナだ。…キミは誰かな?」
笑顔で尋ねてきた。
「俺は浦賀翔平、昨日からここで住み込みで働かしてもらっている者だ」
アキナは浦賀の言葉にどういう訳か、もの凄いショックを受けた様子だ。
「…………カな。」
「ん?」
浦賀はアキナの声があまり小さく聞き取れず、聞き返した。
それに対して、今度はハッキリと聞こえる大きな声で、取り乱した様子で叫びだした。
「………バカな!! 一体どんな手段を使って、彼女達の家に転がりこんだんだ!! さては乙葉姫の優しさにつけこんだんだな!! キミのような若い男は獣と同じで危険だ!! どうせ頭の中には常にみだならな事を考えているのに違いなっ…」
暴走するアキナのお尻をヘイワが思い切り蹴り上げた。
「いい加減にして下さい。社長」
「浦賀さん、大変失礼致しました。お詫びといっては何ですが、気が済むまで、この男を煮るなり焼くなり好きにして下さい」
浦賀に対して、ヘイワは深々と頭を下げた。
「気にしてないから、大丈夫だよ」
そう言って浦賀は蹴り飛ばされて、床に突っ伏しているアキナに手を差し伸べた。
「アキナさん、誤解しているみたいだけど、俺は乙葉達とは別の所で寝ているから安心してくれ」
その言葉で、さっきまで半べそをかいていたアキナは、喜んで飛び上がり、浦賀の手をとり、熱い握手を交わした。
「浦賀クン! すまなかった! ボクは誤解していたよ。キミはなかなか見所のある男だね!気に入ったよ!」
アキナはたいそうご機嫌の様子だ。
そのやり取りを見て、まわりの人達は笑いあった。
「アキナ様達は、今日はお食事を食べていきますか?」
「開店前だけど、大丈夫かい?」
「これから用意致しますので、20分程、お時間はかかってしまいますが、是非食べて行って下さい」
「それじゃあ、お言葉に甘えて、6人分頼むよ」
「かしこまりました。それでは準備してきますのでケイト、その間に物々交換の方をお願いします」
そう言って、乙葉はキッチンへ向かっていった。
乙葉の姿が見えなくなると、アキナはさっきまでのニヤついた顔から、緊張感のある顔へと変わった。「それじゃあ、ケイトさん。品物の交換をしようか」
「アキナさん、急で悪いんだけど、新人の日用品も欲しいんだけど平気?」
「あぁ、もちろんかまわないさ。いつもここでは素晴らしい商品を譲ってもらっているからね! 何でもサービスしよう!」
「ありがとうございます」
「それじゃあボクは浦賀クンと一旦、船に戻って必要なものを取ってくるとしよう。ヘイワ! ケイトさんと取引の続きを頼むよ。ボクはハトギンとハトカクと一緒に船に戻るよ」
「かしこまりました」とヘイワは返事をして、ケイトと他の部下と一緒に外のいけすへ向かった。
浦賀と3人は砂浜の方へ向かった。
「ボートもないのにどうやって、あんな遠い船から、ここまで来たんだ?」
「もちろん、飛んでさ!」
そう言って三人は上着を脱ぎ、翼を広げた。
驚く浦賀を横目に、ハトギンとハトカクは浦賀の両手をそれぞれ持って、飛び上がった。
「うわああああぁああぁぁ!!」
と情けない叫び声を浦賀はあげた。
その様子を見たアキナは二人に、何やらアイコンタクトを送り、それを見た二人はニヤリと笑い、100m程上空まで上昇し、そこから海面すれすれまで急降下したり、回旋したりして、浦賀を叫び続けさせて、ようやく船の甲板に降り立った。
疲れてぐったりする浦賀に、アキナは笑顔で水を渡し
「どうだった初めて空を飛んだ感想は?」と尋ねてきた。
浦賀がげっそりした様子で「…帰りはボートで戻りたい」
と言うと、3人は笑った。
「それじゃあ時間も無いことだし、さっさと用件を済ませてしまおうか」
アキナがそういって、船内の中へ入っていき、積み荷がたくさん置いてある部屋へ案内した。そこで洗濯カゴのような物を浦賀に渡した。
「この部屋にある物で、カゴに入るだけ、好きに取っていいよ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて…」
そう言って浦賀はシャンプーやひげ剃りなどの日用品、衣類などを手当たり次第、カゴの中へ入れていき、あっという間にカゴは満杯になったが、欲しいものは充分に手に入った。
「アキナさん、ありがとう! こんなに貰っちゃって…」
「困っている時はお互い様だからね。浦賀クンが困っているから、ボクが助けた。…わかるかい?」
なにやら意味を含めた言い回しだ。
「え、えぇ。わかります」
「実はボクも困っているんだ。だから浦賀クン。キミに助けて欲しい」
「俺で良かったら、何でも力になりますけど、特別な事はできないですよ?」
「ありがとう。…ボクがキミに求めるのは情報だ。ボクの聞いた話では昨日、あの店にボーノという男が来たね? その男が乙葉姫を狙っているという話は本当かい?」
「流石ですね、情報が早い。…その話は本当です」
「やはりそうか! では、その時の乙葉姫の様子はどうだった?」
「様子ですか……。そうですね……何というか怯えていました。あいつ等、乙葉にお金を貸しているのを良いことに、かなり強引な方法で乙葉を連れ去ろうとしていましたからね」
「なんだって!! あのボーノがそんな事をするなんて…いくらなんでも、それは許せないな。……浦賀クン、ボクは乙葉姫を守りたい。だからボクに協力してくれないか?」
「もちろん! 乙葉をボーノから守る為なら、俺はなんでも協力するよ!」
「ありがとう浦賀クン! キミはとっても素晴らしい人格者だよ。あともう一つ聞きたいんだが、乙葉姫はどんな男がタイプだか知っているかい?」
アキナの質問に浦賀は首をかしげた。
「乙葉の好きなタイプですか?知らないですけど、それがどうしたんですか?」
「あぁ、ボクがボーノに勝つために『乙葉の好きなタイプを知る』という事は、とても大切な情報なんだ。だからキミに聞いてきて欲しい。恥ずかしい話、ボクは彼女の内面の事はあまり知らないんだ。だから他にも好きな物や好きな事など、彼女に関する事をできるだけ細かく教えて欲しいんだ。もちろん、無料でとは言わないさ。キミが欲しいものを代わりに用意するけど、どうかな?」
「そういう事でしたら、今夜にでも聞いてみるよ。その代わり、欲しいものじゃないんだけど、明日の朝、俺を船に乗せて、町まで運んでもらないか?」
「それだけかい? キミ一人運ぶくらいなら、もちろん構わないが、どうして町に行きたいんだ?」
「んー視察とでもいうのかな? ちょっと観光してお店を盛り上げるアイディアを探そうと思ってさ」
アキナ不思議そうな顔こそしたものの、それを深掘りして聞いてくることはしなかった。
「ふむ、わかった。それでは交渉成立だ! 明日の朝、迎えにくるよ。その代わり、こちらの約束も頼んだよ?」
「もちろん!」
「よし! それじゃあ用事も済んだ事だし、乙葉姫の料理を食べに、レストランへ急いで戻るとしようか」
そうして浦賀は日用品の詰まったカゴを持ち、空中で寄り道をされる事無く、レストランへ戻った。
ケイト達の方も用事は既に済んでいたようで、既にヘイワ達は店内の席に座っていて、アキナ達も席に着いた。浦賀は荷物の入ったカゴを食料庫にとりあえず置こうと裏へ入っていた。
「何か良い情報は手に入りましたか?」
周りにスタッフがいない事を確認し、席に着いたアキナにヘイワは尋ねた。
「あぁ、ボーノが来た話は本当だった。浦賀クンはボクの味方をしてくれることになったよ。それもあって、朝礼で言った”あの話”は少し延期しようと思う」
「そうですか」
それを聞いてどこか安堵した様子でヘイワはガラスコップにつがれた水を一口飲んだ。
「あと浦賀クンを明日、黄泉の国まで連れて行くことになったよ」
「それはまた不思議な話ですね。昨日、この島に来たばかりの人間が、なぜわざわざ黄泉へ行く必要があるのでしょうか? 必要な生活雑貨
「お待たせしました」
そこへ料理皿を持ったケイトがやってきた。
アキナとヘイワには、焼き魚定食セットを提供し、頭部がハトの残りの4名は別メニューでサンドウィッチが提供された。中身は香ばしい香りのするピーナッツバターが塗られた物や、トマト・レタス・ベーコンがサンドされたもの、白身魚のフライサンドなどであった。
「乙葉姫の料理はあいかわらず、素晴らしいご馳走だ!」
「美味しい…」口に運んだヘイワは感嘆の溜息とともに声を発した。
サンドウィッチを口にした者達も、喜びに満ちた表情をしている。
乙葉の料理は頭部が嘴の者でも、食べやすいようにと、考えてサンドウィッチにしている。それ以外にも乙葉は常連の好物を一人一人把握している。彼らが大好きだが、高価で中々食すことのできないピーナッツバターが惜しみなく使われている点も、この店を好きな理由の一つだ。
6人はあっという間に食事を終え、会計を済ました。
帰り際にお見送りをしに出てきた乙葉達に向かってアキナは「乙葉姫、今日も、美味しい料理を作って頂き、ありがとう」
「いつでも食べにいらして下さいね」と嬉しそうに乙葉は言った。
「じゃ浦賀クン! キミとはまた明日の朝会おう。……それと乙葉姫、キミはボクが必ず守ってみせるよ」そう言ってアキナは一礼をし、6人は飛び去っていった。
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