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対価を支払うのであれば勇者となります

聖剣を直接自身の目で見てから数日が経った。その間、誰も私に聖剣を岩から引き抜くように言ってこなかった。


てっきり「聖剣見たのなら、さっさと抜いて魔王暗黒竜倒してこいよ。今この瞬間にも、被害は更に拡大してるんだよ」的な感じで、周りから色々言われると思っていた私は、廊下や建物内で、誰かに会う度に何か言われるのではないかとビクビクしていた為、拍子抜けだった。


皆さん私に対して、軽く会釈をするだけだったり、挨拶をするとそのまま自身の仕事に精を出す――そんな感じだった。

一応、王宮内では『客人』扱いだからかもしれない。私の存在自体は、王宮でも一部の人間にしか知らされていない。


私自身が「勇者」としての自覚がないのもあるが、私の存在を公にして世界中を混乱させない為――らしい。


確かに、召喚したは良いが聖剣が抜けなくて、実は別人でした――とかだった場合、洒落にならない。


私自身は勿論だが、一存で決めたこの国のアルバート第四王子も、ただでは済まないだろう。


それほどまでに、今回の勇者召喚は前例のない物だったらしい。「らしい」と言うのは、ウラディミールさんから聞かされた話だからである。


何でも本来の勇者召喚は、他国の偉い人達と協力し合って、各国でもトップレベルの魔法使いや神官、魔女達の力があってこそ行える代物なのだそうだ。莫大な魔力と高位の専門知識が必要なので、普通の魔法使いや一般人には召喚魔法を使える人物は居ない。


では、何故アルバート王子やウラディミールさんは、各国には内密に私を召喚したのかと言うと、莫大な魔力を持つ魔法使いや高位の神官達が、今回の魔王暗黒竜や魔物達によって、その殆んどを戦争などで失ってしまったから――このままでは、魔力のある者達がこの世界から居なくなってしまうのも時間の問題――その為、倒れた王や王の代わりに戦地へと赴いた第一王子に代わって、自身が今回の勇者召喚の陣頭指揮をとったのだと言う。


ちなみに、第二王子と第三王子はどうしたのかと聞いてみたら、第二王子は魔力を全く保持していない為、自分にはどうする事も出来ないから、アルバート王子に全てを一任すると伝えて、王や第一王子の代わりに政務に追われているらしい。


第三王子は魔力こそあるものの、その魔力はあまり多くなく、力になれないならばと、過去の文献を漁り召喚陣の制作、勇者召喚に必要な日にちや時間などを算出する方を手伝ってくれたとの事。


王子の皆さんそれぞれが出来る事で、国を世界を救おうとしているなんて、素敵なんですけど。


いまだに踏ん切りのつかない私とは雲泥の差である。


そうして第三王子の示した勇者召喚に相応しい日に合わせて、アルバート王子は魔力の強い人達を必死で集めたらしい。


幾つかの国は暗黒竜によって滅びてしまったり、魔法使いや神官は前線に駆り出され、命を失った者。魔力が枯渇して灰人となった者――そのような状態で、他国に協力要請など出来る筈もなく…。


ましてや、これが露見すれば暗黒竜達が王宮に一気に攻めてくるかもしれない。そうなっては不味いと判断した為、国内でも魔力の強い者達を集め、あの日私を内密に召喚したのだと言う。


にも関わらず、当の本人(わたし)は踏ん切りもつかず、考える猶予と時間を貰っているのは、少々…いや、かなり良心が痛む。


とは言え、死と隣り合わせの世界に正義感だけを持って向かっていける程の人間ではないのだ。


召喚する人物を間違えたとしか言えない。


「やります…私が倒します」と、某有名アニメの少年のような台詞でも言えたのならば、ドラマチックなのだろうけどなぁ…。


痛覚があるから傷ができたら痛いし、血を流したら舐められるし、どうにも一歩を踏み出す勇気が持てないのだ。


暗黒竜を倒した後には、富も栄誉も思いのまま――…と言われても、事後の話をされても意味がない。元の世界に帰りたいから、こちらの世界での富も栄誉も必要ないわけだし。


てか、本当に帰られるのかすら不安なんだが。


今、この時点での何かが欲しい。

それこそ、暗黒竜討伐に向かうのも納得できるような――


何か…


私は(おもむろ)に自室へと戻ると、紙とペンを握りしめ手紙を書く事にした。






◇◇






アルバート王子とウラディミールさんに私の部屋に来てもらえるように、侍女のロズさんに手紙を預ける。


程なくして二人は一緒にやって来た。


二人に応接間のソファに座ってもらい、ロズさんが紅茶を私達の前に並べてくれた後、誰にも聞かれないように人払いをしてから防音の魔法を掛けてもらう。


それを確認してから、私は二人にこう告げた。






「対価を支払うのであれば勇者となります」







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