互いに対価を支払う事になりました
「対価を支払う?」
アルバート王子が怪訝な顔をして、こちらを窺ってくる。
それに対して頷くと、二人を交互に見てから話を切り出した。
「暗黒竜を倒した後の保障よりも、現時点での私に対する保障を頂きたいのです」
「現時点での…」
「はい。私は訳も分からないままに此方の世界へと召喚されました。元の世界で今どれだけの日数が経っているかは分かりませんが、家族が心配している筈なんです。だから、元の世界の家族に手紙を届けて頂きたいのです」
私の言葉に二人は何とも言えない表情になる。「家族」この言葉は、流石に効果があったようだ。
「暗黒竜を倒した後には元の世界へと帰られるとの話でしたが、実際にこの目で見ない事には本当かも分からないので正直不安なんです。でも、手紙を送還魔法だか何だかで届けてもらえるのであれば、ちゃんと私も帰られると安心できるので――…」
「確かに…ミナにとっては重要な話だな」
アルバート王子が神妙に呟く。
「それから、万が一の事も考えて手紙と一緒に他の物も送って頂きたいのです」
「他の物…ですか?」
これにはウラディミールさんが首を傾げる。
「はい。金貨をお願いしたいのです」
「金貨…」
「はい。本来なら私は元の世界では大学に通っていました。私の国では子供が成人するまでに必要なお金が大体一人辺りうん千万は掛かるのですが、その掛かったお金は、社会人になってから親に生活費として返していく予定だったんです。あまり考えたくはないのですが、もしもの時もありますし、その時には両親にせめて今までの分を返しておきたいのです…私、親孝行できなかったから…」
とどめとばかりに伝えると、私の元へと近付いてきたアルバート王子に両手を握りしめられた。
「ミナ…お前には辛い思いをさせてすまない…」
そう言うなり抱きしめられる。
えぇ!?そこで何で抱きしめられてるんですか私!!まさかフラグ建ってないですよね!?
「お前一人を辛い目には合わせないから」
とか耳元で囁かれているのですが、やめて!!フラグ建てないで!!
チラリとウラディミールさんを見ると、いつの間に用意したのか麻袋にぎっしりと詰まった物がその手の中に収められていた。
あれって金貨ですよね?
「ミナ様…金貨だけではなく宝石類もご用意致しました。どうぞお好きなだけお持ち下さい」
そう言って、ウラディミールさんは麻袋の中身を机に出した。
金貨以外にも沢山の宝石類が出てくるわ出てくるわ。
私の世界にあった宝石と同じような光輝く石が処狭しと並んでいる。
そう。こちらで数日暮らしている間に、ロズさんにお金や宝石について聞いておいたのだ。
有り難い事に、こちらの世界でも金が採掘されるらしく、お金として使われたり装飾品などにも用いられていた。
実際に金貨を1枚見せてもらったのだが、残念ながら私には本物かどうかは分からなかった。
でも、質屋さんなら本物かどうかは分かるだろうし塵も積もれば山となる論で、幾つかは買い取ってもらえるだろう…と安易に考えていた。
宝石に関しては、最初にドレスを着せられた時に幾つか身に付けるようにと見せられていたから同じ物があると知っていた。実際の所、これも本物かは分からないけれど、仮にも一国の王族が所有している宝石なんだし、本物だと信じている。
金貨と幾つかの宝石を受け取り、手紙を送り届けてもらう事を条件に、今回の暗黒竜討伐の話を受け入れる事にした。
したと言っても、今すぐにという訳ではない。何の力も持たない私が暗黒竜を倒せるとは露程も思っていないので、剣術や魔法について知識をつけてから――模擬戦などを経験して、ある程度自信がついてから討伐に向かう予定だ。
勿論、その間の衣食住も保障してもらう約束付きで。
とりあえず、まずは手紙と金貨類を届けてもらってからの話なので、それが叶ってからスタートの手筈だ。
てか、ちゃんと家族の元に届くのか心配ではあるが…。
しかし、今まで育ててくれた両親に金貨って。金で解決しようとする浮気男さんはこんな気持ちなのだろうか?
◇◇
アルバート王子とウラディミールさんが部屋を出て行ってから、家族に送る品々の用意をしていると、ロズさんが応接間に入って来るなり遠慮がちに声を掛けてきた。
「あの…ミナ様…よろしいでしょうか?」
「どうしたんですかロズさん?」
「はい…第三王子がミナ様にお目通りを希望されています」
はい?第三王子?
「初めまして水無月と申します。皆さんにはミナと呼んで頂いています」
「初めまして僕はセオドア。肩書きはこの国の第三王子ってなってるけど、魔法研究機関に所属しているんだ。その内、臣下に下る予定だから堅苦しくしないで。あと言いにくかったらセオでいいよ」
セオドア王子…うん、言いにくい。
「はい…セオドア王子本日はどのようなご用件でこちらに?」
セオドア王子がソファに座ったのを確認して、こちらから話を切り出す。何とはなしに嫌な予感しかしないのだか。
「堅苦しくしないでよ。異世界から来てもらった君とは普通に接したいんだから…寧ろ勝手に召喚した相手に敬語とか要らなくない?」
そう言うとセオドア王子は溜め息を吐く。
た…確かにそうなんだろうけど初対面の人相手には基本敬語で話すものですし。寧ろ王族相手にタメ口って、不敬罪で死罪とかじゃないんですか?
「敬語は止めてね…でないと手紙を送ってあげないよ」
それは困る!!
慌ててセオドア王子を見ると、楽しそうに笑っていた。
あれか!?人をおちょくって遊ぶタイプか!!
しかも勝手に呼んでおいて手紙を送らないとか、対価を支払う約束を反故にするつもりか。
「嘘うそちゃんと手紙も金貨も送還魔法で届けるから」
私の様子にパタパタと手を振りながら否定する。何なんだ。
「ちょっとね…手紙を送還する代わりに、僕のお願いを一つ聞いてもらいたくて」
セオドア王子…めんどい。セオ王子の言葉に唖然となる。
「な…何を仰っているのか分からないのですが…」
「あれ?言語の翻訳機能が作動してないのかな?僕のお願いを聞いてくれたら手紙を送還するって言ったんだよ」
それは聞いた!!
「いえ…あの…どうしてセオ王子のお願いを聞かないと手紙を送還してもらえないのかな…と思いまして」
「敬語直らないね〜まぁ、追々でいいか。えっとね送還魔法自体はそれほど難しくはないんだ。召喚魔法同様に莫大な魔力と知識が必要になるけど僕なら余裕綽々だし。特に今回のは人間みたいな生身の生物じゃなくて、小さな物だし。でもね、場所を固定して決められた場所に送還するのはかなり難しいんだ。魔力はさほど必要ない代わりに確かな技術と精神力を必要とするんだよね」
セオ王子はそこまで言うと、ロズさんが用意してくれた紅茶を飲む。
成る程、確かに場所を固定しての召喚魔法や送還魔法は難しいかもしれない。何せ飛ばす先は異世界だ。
「セオ王子のお願いとは何なのでしょうか?」
「物分かりが良くて助かるよ。僕のお願いはね、君の血を飲ませてもらいたいんだ」
は!?
「異世界人の血はとても甘美らしくて一度でも口に含めば、二度と手放せない程なのだそうだよ?そんな芳しい物ならば、是非とも飲みたいじゃないか〜」
セオ王子は薄い色素の金色の髪の毛をいじりながら、緑色の瞳をうっとりとさせながら、夢見心地にそう仰った。
あかん…この人変態や…。




