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対価と対課その2

「ミナ様お帰りなさいませ」


部屋に戻るとロズさんが可愛らしい笑顔で迎えてくれた。

ロズさんはまた私付の侍女になってくれたのである。顔見知りが側に居た方が安心するだろうというアルの配慮によって。


ロズさんが結婚したらお別れをしなければならないが、それまではお世話になりたい大好きな人だ。ただ、結婚適齢期も過ぎたから嫁の貰い手もないし、このまま働きたいとお願いされたが…。


ロズさん、ルドがねロズさんに惚れたらしいから、近々告白されると思うよ。決して本人には言えないが。二人がゴールインしたら、このまま二人には側に居てほしいものだが。


「ロズさんアルは帰ってきていますか?」

「アルバート王子はミナ様が戻られるまで私室で休むと仰っていました」

「アルの所に行ってくるね」


ロズさんに一言伝えてから、奥のアル専用の私室に足を向けた。


アルと私の新居?用意された部屋は以前私が使わせてもらった部屋よりも部屋数も多く、私専用の台所まで完備してある。私がガイアスロイに嫁いでくるまでに台所を造っておいたらしい。理由はアルがね、味噌汁にハマったみたいでね、たまに作ってほしいと言われるんだ。そういえば、厨房ではお袋の味は出せないと力説していたな。


今度久々に味噌汁でも作ろうかな。故郷の味美味しいです。


「アル?入ってもいいですか」


アルの私室の扉をノックして確認 すると、中から「開いているよ」と返事がある。扉を開いて中に入ると、そこには私の旦那様となったアルがソファに座って寛いでいた。


「アル、ただいまです」

「ミナお帰り。おいで」


優しい笑顔で手招きをされてアルの元に行くと、手を取られアルの隣に座らせられる。


「ミナ、お疲れ」


優しく抱きしめられ唇にキスを落とされる。思わず顔が赤くなってしまうのは仕方がないだろう。


「まだ慣れないのか?」

「は、はい…」


アルと結婚してから、必ず帰ってきたらされる行為なのだが、生粋の日本人にはハードルが高いのだって。慣れる気がしない。


「アルあのね、対課にもそろそろ事務員さんが必要だと思うの。だから、王宮か街から誰か事務所を管理してくれる人を雇わせてもらいたいのだけれど…」

「それなら大丈夫だよ」


え?何が大丈夫なの?


「それについてはこちらで手を打ってある」

「そ…そうなの?」


なんだ?どういう事なんだ?私、経理を任せられる事務員さんが欲しいだなんて、アルに言っていないぞ。


「腕も立つし、事務員だけではなく現場に向かわせられる逸材だ」


更に付け加えられる。


「凄いですね。経理も現場も両方いけるなんて」


騎士団は脳筋、文官はモヤシというイメージだが、違うのかもしれない。


「そのかわり、新しい人間を雇ったらミナはしばらく俺の傍に居てほしい」

「え?」

「結婚してから全然一緒に居られないじゃないか。俺はもっとミナと一緒に居たい」


急に真剣な顔でそう言われて心臓が跳ねる。一緒に居たいって、結婚していつも一緒だし、寝所だって一緒だし。


「二人きりで過ごしたいんだ。誰にも邪魔されず二人きりで」


耳元で甘く囁かれて、背筋がぞくりとする。そういえば、どちらも自分の仕事が忙しくて、二人きりになる事はなかったかもしれない。


「隣国から視察に招待されているんだ。他国への視察にミナも連れて行きたい」


隣国は暗黒竜からかなりの国力を削がれたのだが、ロジナーク国の人材や技術提供を受けて立て直したらしい。それに最も貢献したのがアルで、今回の視察はアルが招待されたとの事だった。


「ゆっくりと国を廻る予定だから、数週間は向こうに滞在する予定なんだ。ミナと一緒に廻りたい」


旅行じゃないのだから、二人きりと言う訳にはいかないじゃないか…粗相をしたらどうすればいいんだ。


「沢山の人達に囲まれるじゃないですか…失敗したらアルに恥をかかせてしまいますよ」

「アオイなら大丈夫だ」


不意にアオイ呼びはズルい。大丈夫な気がしちゃうじゃないか。


「ガイアスロイの世界をアオイにもっと知ってほしいんだ。俺の生まれた世界の事を。そして、俺を支えていってほしい」


言い終わるか終わらないかで、アルにぎゅっと抱きつく。そんな事を言われたら行くしかないじゃないか。アルが生まれた世界の事をもっと知りたい。沢山勉強してアルを支えていきたい。


「行きます。アルの生まれた世界を沢山知る為に。この世界をより良くしていく手伝いをさせて下さい」

「アオイ…ありがとう」


魔物討伐だけじゃなく、それ以外でもこの世界の為に出来る事があるのかもしれない。王宮とか社交界とかそっちは無理でも、違う形で私が役に立てるのならば、色々と知っていかなければならないんだ。


アルは迷っている私の背中を押してくれる。本当にアルは凄い人だ。


優しい口付けを受けながら、私は彼の事をもっと好きになっている自分に気が付いた。






◇◇






「紹介するねー。こちらが対課に配属された新人さん、ムツキだよー」


事務員兼現場担当の新人は、弟の睦月だった。


「む、睦月ぃー!?」


セオ王子が連れてきた新人に驚いていると、セオ王子がニヤニヤしながら説明してくれた。


「僕ねぇミナの世界でムツキと血の交換と真名の交換をしていたんだよねぇ。で、ムツキと絆ができたから、ムツキをこちらの世界に呼べたんだ」


え?ちょっと待て。絆が出来るって。絆って、まさかムツキとセオ王子ヤッ――


「ヤッてないからね…僕女の子が好きだから。男に興味ないから」

「だ…だって、絆って――」


真名の交換、血の享受、性交全てを兼ねたらだったよね。


『ミナ様、性交に関しては問題ありませんわ』


手の甲からメリ子さんの声が聞こえる。まさか、まさか――。


『それに関してはミナ様のご想像にお任せします』


チラリとムツキを見ると、ほんのり頬を染めている気がする。


「これからよろしく姉さん」

「ミナ、日本のご家族には説明済みだから安心してねー」

『ミナ様がロジナーク国ご不在の間はムツキ様のお側に居ようかと思っていますが、いかがでしょうか?』


何でムツキがガイアスロイの言葉を話せて理解しているのかとか、一体いつの間にこちらに来ていたのかとか、戦いも大丈夫なのは何でなのかとか、真名を名乗っていいのかとか、聞きたい事は沢山あるが、分かる事は自分を卑下せずに、これからも退屈しない毎日が待っているのだと言うことだった。
















「アル…詳しくは後でしっかり聞かせて頂きますからね」

「アオイ…怒っているのか?」

「いいえ、楽しい毎日が待っていそうでワクワクしています」





これで本編は終了となります。読んで下さり、ありがとうございました。

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