あれから
「葵は合コン本当に行かないの?」
「うん…まだ内定貰えてないし」
「たまには気晴らしも必要だよ?」
「ありがとう…ごめんね」
そう切り上げて駅に着くと友人と別れる。友人は何か言いたそうにしていたが、気が付かない振りをして改札を通った。
1年休学してから大学に通いだして早い物で、3年が経っていた。春から4年になる。私も22歳だ。あと数ヵ月もしたら23歳だ…時が経つのは早い物である。
現在は就職活動真っ只中なのだが、これがまた上手くいかなかった。3年の初めから色々な企業の会社説明会に赴き、コツコツと地道な努力を続けているのだが、うんともすんとも言わない。
あれだね、1年休学した理由が原因だね。体が弱い人間だと、いつ何が起こるか分からないから嫌なんだろうね。「今ではピンピンしてます!」とアピールしても反応は良くなかった。
あの理由で休学を決めた自分が憎い。
いや、それは私の不採用の言い訳フィルターだ。企業が私を必要としていないから採用されない――ただそれだけの事だ。
いいんだ。私は小説家になるんだから――と、就職活動の傍ら小説の公募にも出しているが、これも全滅していた。
はい、最初に書き上げた小説はあっさり撃沈しました。それ以降、様々なパターンで書き上げては公募に出している。召喚した側視線やら、ハーレム勇者が現地に居残るエンドやら、実に様々だ。
どれも良い反応は得られない。何がいけないんだ。ハーレムか!?ハーレムがいかんのか?そんな事を考えながら今日も書きかけの小説を執筆するのだろう。
◇◇
家に着くと、ベッドに寝転がる。チラリと部屋にある鏡の方へと顔を向けると、ぐったりとした顔をして疲れきっている自分の顔があった。友人に心配される筈だ。合コンに誘ってくれたのも、私を励ます為だったのかもしれない。大学に通い始めてから1度も彼氏が出来ない私を心配してもあるのだろうが。
内定が取れないから…は、ただの言い訳だ。だって、私は今でも――。
ベッド脇のサイドボードからデジカメに手を伸ばす。電源を入れてマイクロSDカードの中に納められた写真を見つめる。そこには、異世界で撮った写真が幾つもあった。
「アル…元気かな」
ぽつりと呟く。出会った当時のアルは確か22歳と言っていたから、4年経った今は26歳という事になる。当時ですらハイスペックイケメンだったが、今なら更にスーパーハイスペックイケメンとなっているだろう。
国を建て直している最中だろうか?ある程度落ち着いて他国にも手を貸しているかもしれない。きっと国の為、世界の為に奔走しているのだろうな。
頑張るアルを想像して自然と笑顔になる。
「そういえば」
ベッドから起き上がり机の引き出しを開けると、小さな鍵付きの宝箱がある。それの鍵を開けて、静かに中身を取り出す。
決して日に焼けないようにと閉まっておいたそれは、まだ白いままだ。
アルの真名が書かれたルーズリーフの紙。
誰にも知られたくなくて、家族にもこれの話だけはしなかった。私とアル二人だけの大切な思い出。
この4年間ずっと閉まっていた。忘れていた訳じゃない。見たら絶対会いたくなる、彼を思い出して泣きたくなると分かっていたから、見る事が出来なかった。
でも、今はどうしてもそれが見たくなった。ガイアスロイでの思い出に浸って感傷的になっているのかもしれない。
もし、アルに恋人が居ても結婚していたのだとしても、あの時、あの世界で確かに私達は愛し合っていたのだと――。
そうしたら、また明日から頑張るから。アルや皆に誇れる自分になるから。日本に戻ってきた私は、皆に胸を張っていたいから――。
そっと紙を広げると、そこにはアルの筆跡で美しい文字が書かれていた。
何て書いてあるか読めませんでした。
◇◇
あぁるえー(訳:あれぇ)?どういう事かな、かな?
今私、かなり美談風に纏めてたよね?こ
こでアルの真名を口に出して読んで、めっちゃ爽やかに終わる風な感じだったよね?
何で読めないのかな?かな?涙も引っ込んじゃったよー。やだー。
改めてもう一度見るがやっぱり読めない。
チートか!?チートじゃないから読めないのか!?
とりあえず引っ込んだ涙は置いておいて、必死で4年前の真名を名乗ったアルの言葉を思い出す為に、夜まで文字とにらめっこをする羽目になったのだった。
道理で、道理で小説も落ちまくる訳だ!
あれだろ、チートじゃないからだろ?そうだと言って下さいお願いします。




