破壊の女神様
「とりあえずどれ程の身体能力があるのか確認させて頂きたいので、まずはこちらの岩に指をあててもらえますか?」
「指…ですね」
ウラディミールさんの言葉に頷いて、大の大人よりも遥かに大きな岩に近付く。
目の前に鎮座する巨大な岩は、王宮の離れにある騎士達の訓練所の裏手にある。
とある昔、騎士を目指す者達の力を確かめる為に、高名な魔法使いが遠き山から切り出して用意したという。
この岩は騎士になる志の強い者、国を人を守る想いの強い者が拳を突くと、その意思の強さに比例するように岩肌が崩れていったとか。
長い年月を掛けて頭上を見上げるのに首を痛める程だった岩も、今では見上げても首が痛くてならない程度には小さくなったらしい。
それでも全然大きいですけどね。
この岩には伝説があって、ある時代のある隊長クラスの騎士が、誰にも持ち上げた事のない自身よりも遥かに巨大なこの岩を持ち上げて、周囲を驚かせたと言う逸話が残っている。
ちなみにその騎士は己の拳のみで熊を一撃で仕留めた為、『熊殺しの英雄』と呼ばれたとか何とか…。
本人は死にたくなったに違いない。
話が逸れてしまった。
私は、何も装着していない手を開くと指を適当にほぐし、言われた通りにそのまま岩に指先をあてる。
ちょん――と指をあてても何にも起こらない。
「では少し力を込めて触って下さい」
頷いて少し力を込めて指をあてると、ボコッという鈍い音と共に指をあてた部分は小さく穴が開いていた。
え!?
思わず目を見開いて穴が開いた部分を見つめていると、ウラディミールさんが「素晴らしい…」と溜め息混じりに感嘆している。
やめて下さい。嫌な予感しかしないから。
「では今度は可能な限り力を込めて指をあてて下さい」
うっとりと私を見つめながら言われたので、仕方なく力一杯指をあててやった。
ボゲギャッ――と聴いた事のない擬音で、岩に大きな穴が開いていた。
「なんという力だ!!」
私の開けた岩の穴部分に手を触れながら、ウラディミールさんは少し興奮していた。
「ミナ様…もう容赦は要りません!!どうぞ貴女様の拳でこの岩を粉砕して下さい!!」
粉砕しろと仰った。
若干涙目になりながら、ヤケクソ気味に力を込めて岩に拳を付き突ける。
勿論痛いのは嫌なので、振りかぶって殴ってはいない。
ピシィィ
拳で突いた部分から亀裂が入ったかと思うと、崩れ落ちていく。凄まじい音と砂埃、崩れた残骸が降り注ぐ。目を瞑って両手で体を庇っていると、ウラディミールさんが魔法を使ってくれていたのか、傷みも息苦しさも感じなかった。
目を開けた時には、眼前に鎮座していた巨大な岩はなくなっており足元には岩だった残骸が散らばっていた。
わ…訳がわからないよ。
恐怖に身をすくませていると、ウラディミールさんが「やはりミナ様は腕力に特化していらっしゃいましたね!!」と嬉しそうに言っている。
どうしてこんな事態に陥ってしまったのか――それには山よりも高く海よりも深い理由(多分)があるのだ。
昨日の神殿での出来事を思い出す。
◇◇
「ミナ!!どういう事だ!!お前が抜いた聖剣竜殺しの剣が消えてしまったぞ!!」
喰って掛からんばかりの勢いで、アルバート王子が私に詰め寄ってくる。
「聖剣さんでしたらここにありますよ?」
そう言って両手に装着されたメリケンサックを王子とウラディミールさんの眼前に突き出す。
突如見せられたメリケンサックに二人は訝しげな表情を浮かべた。
「ミナ様…それは何なのでしょうか?ミナ様は手にそのような厳つい物は着けてはいらっしゃいませんでしたよね?」
だから聖剣メリケンサックだと。
何だろう…スゴくゴロが良い気がする。
「何だミナそんなアクセサリーを着ける位ならお前に似合うアクセサリーを用意するぞ」
いや、だから聖剣メリケンサックです。
「あの…お二人ともわざとですよね?これが聖剣竜殺しの剣ですよ」
二人は驚愕した顔でマジマジと私の手に装着されたメリケンサックを凝視している。
「いや…しかし」
「剣ではありませんね…」
二人の懐疑的な言葉に、先程の聖剣さんとの会話を伝えた。
アルバート王子は若干信じられないといった体でいたが、ウラディミールさんは私の話を信じてくれたようだった。
「先代と先々代の勇者様も竜殺しの剣の形状が剣ではなかったと書物にありましたし、今代のミナ様も違う形状なのですね」
「はい。聖剣さんが跳躍力に特化した私は、近接戦闘で相手の懐に飛び込み一撃で仕留めるのが良いのではないかと言っていました。それで聖剣の形をメリケンサックにしてくれたんです」
「跳躍力…ですか。確かに最初王宮へ案内しようとした時に、ミナ様は尋常ではない速さで城門まで走っていかれましたね」
初めて会った時の事を思い出しているのだろう。しみじみとウラディミールさんが頷いている。
あの時はキモデブハゲのおっさんの性的奴隷になるものかと必死でしたから。
「とりあえずウラディミールがそう言うのならミナが手に着けているそれが竜殺しの剣だと信じてよいのだな」
アルバート王子の言葉に頷いたウラディミールさんは、今後について私達に話し掛ける。
「明日からはミナ様の身体能力を確認していきましょう。暗黒竜討伐についてはそれらが落ち着いた後になるかと思います」
「そうだな…その件に関してはウラディミールに一任しよう」
「はい。よろしくお願いします」
◇◇
そんな訳で私は早速、ウラディミールさんに連れられて騎士団の訓練所で指先を岩にあてて自身の腕力を測っていたのだが――…
岩を粉砕しても良かったのだろうか?
寧ろ跳躍力全く関係ない。
◇◇◇◇◇
ミナが指先だけで巨大な岩を粉砕したのを訓練所の影からこっそり盗み見していた騎士団の一部の連中に、「破壊の女神様」「熊殺しの英雄再び」と噂されていたとは本人は全く知り得ないのであった。




