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第一話 『次に始まる物語』

 

 

 どれ程の時が過ぎただろう。


 意識が戻り目を開くと見知らぬ天井がそにはあった。


 はて、ここは一体何処だ。俺は、何をして居たのだったか。

 確か、そうだ船島で決闘をして・・・

 それから、それから確か赤子の鳴き声が聞こえて・・・

 そこからの記憶は無い。


 誰かに運ばれて来たのか?

 あの場に居た誰かだろうか、思えば斬られた傷の痛みも無い。

 傷の介抱までして貰ったのか。


 何処の誰だか知らんが、後で礼を言わねばなるまい。

 徐に体を起こそうとして気づく。


 起き上がれん。

 腹筋に力が入らん。

 背骨でも抜かれたかの様だ。


 体の違和感に困惑しつつ手足をばたつかせていると突然声が聞こえてきた。


  「-、-----」


 声は、斜め上の方から聞こえる。

 声の方向を向くとこちらを凝視する幼女の姿があった。

 赤い髪に凛とした顔立ち、歳にして4.5歳くらいの幼女がそこにはいた。幼女は、こちらを指差しながら話しかけて来ている。


 「----、-----!」


 状況を見るにこの子が介抱してくれて居たのか。

 まさか、こんな子供に救われるとは我ながら情け無い。

 そう思いつつ、幼女の言葉に耳を傾ける。


 ん? 違う。

 幼女は、こちらにでは無く別の方向に話しかけている。こちらとは、逆方向を向いて声を上げていた。


 さっきから何を言っているのかさっぱり分からん。

 かなり訛っている様に思う、そもそも知らない言葉なのか。

 髪も赤い、南蛮人か?


 「あやぁ」


 思った様に声が出せん。喉でも斬られたか?

 動かぬ体に加え声まで出せないとはかなりの重症らしい。

 我が剣の道もここまでか。


 いや、これは助かった事を喜ぶべきか。

 しかし、生きる屍と化したこの状況、手放しで喜ぶ事は出来ん。

 

 己から剣を取れば何が残るのか、生きている意味があるのか。

 そんな事を漠然と考えていると。


 バタンと扉が開かれ、誰かが入って来た。

 入って来たのは、金髪の女、それと風格ある赤髪の男。

 2人とも何処と無く先程の幼女に似ている。


 「---、----」

 「----」


 男女が話す言葉、それにいくら耳を傾けても全く理解が出来ない。


 やはり南蛮人か。

 ではここはやはり外国? 何故外国などに・・・


 もしや人質として捕らえられた?

 いや、俺にそこまでの利用価値が有るとは思えん。

 しかも傷の介抱までする理由が無い。

 

 そんな疑問と不安が渦巻く中、幼女に導かれ2人が歩いて来る。


 そうだ、こ奴らに聞けばいい。


 「あにぁ、あぁ」


 さっきから何だこの声は何かがおかしい。

 声は出る。

 ならば、喉を斬られたという訳では無い。


 男女は近くで立ち止まり、こちらを覗き込む様に見て来た。女の方は優しく微笑み、男の方は緊張した面持ちをしている。


 女がこちらの頬をツンツンと突き、優しく頭を撫でてくる。


 よせ、顔突くな! 覗き込むな!

 そんな我が子を見る様な顔で見るな!

 赤子を撫でる様に触るな!


 赤子の様に、


 赤子の、


 あか、


 赤子!?



----



 意識が戻り、半年が経った。

 俺に起きた謎や疑問の殆どが解決した。


 何故起き上がれなかったのか。

 何故知らない部屋で寝ていたのか。

 何故声に違和感を覚えたのか。


 結論から言えば・・・

 俺は、見知らぬ南蛮人の子供として生まれ変わっていた。

 理由、原因については不明。

 妖怪の仕業か、はたまた神の悪戯か。

 だが、今こうして赤ん坊として生きているのは事実。

 いや現実だ。

 

 輪廻転生に付いては何度か聞いた事がある。

 だが、前の人生の記憶や人格を持ったまま生まれ変わるなんて話は、聞いた事が無い。


 神の仕業ならせめて言葉の通じる所が良かったと言いたい所だが。

 着る物も食べる物も恐らく文化も何もかも違う。

 その中で生きて行かねばならない。


 侍や武士は、居るのか。

 そもそも、剣士自体居るのか分からん。

 剣しか無い俺がこんな場所でどう生きて行けばいいのか。

 先が思いやられる・・・


 そんな俺は今、寝かしつけられようとしている。


 邸の一室。

 そこには赤ん坊を抱きベッドに腰掛ける女。

 その横にちょこんと腰掛ける幼女の姿があった。


 「さぁルイスねんねしましょうね」

 「あたしも抱っこしたい!」


 新たな人生に授けられた名は、ルイスと言うらしい。

 そして俺を抱いているこの女はメリア、俺の母親にあたる人物だ。


 そしてもう一人俺の脚を綱引きの如く引っ張るこの小娘は、エルシャ。

 五歳年上の姉に当たる人物だ。


 「もうエルシャそんなに引っ張ったらルイスの脚取れちゃうでしょ」

 「だってー、むう」


 幼女は、ぷくっと頬を膨らませる。

 姉と言っても俺の実年齢からすれば娘でもおかしく無い歳だ。

 故に姉と言う実感はあまり無い。


 それと半年間、毎日聞き耳を立てて居たおかげかで少しは言葉を理解できる様になった。

 だが未だ分からない単語や表現も少なく無い。

 

 例えば、この家族の間では魔術や魔術師などと言った単語が頻繁に出て来る。

 魔術師の家系がどうだとか、言う事を聞かない子は、立派な魔術師になれない、と言う叱り声がよく聞こえて来る。


 「お母さん、またキラキラ見せて」


 ベッドに寝転がった幼女が耳打ちする様に母親に声をかける。

 「ダメ、まだルイスも起きてるし、

ビックリして泣いちゃうかもまた今度ね」

  「えー、やだ、今見たい! 今じゃなきゃ嫌だもん」


 母親にやんわりと交わされた幼女は、手足をジタバタとさせながらぐずり出してしまった。

 それに対して母親は、溜め息を吐き渋々と言った感じで返事を返す。


 「仕方ない子ね、じゃあ夜も遅いし、少しだけよ?」

 「うん。じゃ無くてはい!」


 母親は、微笑み娘の頭を優しく撫で、娘の隣に寝転び手と手をかざし合わせた。

 おにぎりを握る時の様に完全には閉じず無く空間を開けて。

 そして何かを唱え始める。


 「暗きを祓いし片羽の天使よ、闇に迷いしかの物に再び道を照らせ」


 何だ、何が始まる? 急に何かを唱え出した、お経か?

 キラキラとは、光輝いている物に対してエルシャが何度か使っていた単語だ。


 「フィリス・ライト」


 それは何かを唱え終えた彼女の手の中に現れた。

 いや、起こったと言うべきか。


 彼女の手の中には小さな光がチカチカと飛んでいた。

 線香花火にも似た美しい光が輝いている。


 「凄く綺麗! 私も出来る様になるかなぁ」

 「しっかり寝て沢山食べていい子にしてたらきっと出来る様になるわ」


 パチンッと手を叩くとその光は消え、蝋燭の火だけが照らす薄暗い部屋へと戻ってしまった。


 何だあれは手が光った?

 いや、違う。

 手の中に光を作り出した。

 何も無かったはずの手の中に美しい光を。


 妖術か?

 この親子実は、妖怪で俺を食おうとしている?


 それは無いか。

 本当にそうならこの親子の血縁として生まれた俺も妖怪と言う事になる。


 なら忍術?

 実は忍の家系で忍法なんたらかんたらの術、とか・・・

 それも無いな。


 忍とは何度か戦ったが忍術など出来る事は知れている。

 精々壁を登ったり木に成り済ます程度だ。


 なら一体何だ。


 今見た現実に困惑していると隣で寝る体制に入った親子の会話が聞こえて来る。


 「あたし絶対凄い魔術師になるわ!」

 「ええ、期待してるわね」


 魔術師、魔術。


 そうか。

 これが魔術と言う物の正体か! にわかには信じがたい。

 だが今この目で見た物は紛れも無い現実だった。


 それに一人の男が言葉も通じぬ場所で赤ん坊として生まれ直したのだ、それも記憶を残したまま。

 こんな有り得ない事も起こった後だ。

 手から光を出す人が居たとて何らおかしくは無い。


 だが術と言うからには他にも有るのか?

 他にも種類が有るのだとすれば是非見てみたいものだ。

 きっと魔術はこの国を生き抜く上で重要な鍵なのだろう。

 この様な高揚感は、初めて真剣を握った時以来だ。

 楽しみであり、恐ろしくもある。



----



 更に半年が経ち一歳になった。

 最近やっと人間らしく二足歩行が出来る様になって来た。

 まだ覚束無さは残るが自分一人で行動出来る事の素晴らしさを噛み締めながら生活を送っている。

 もう少し足腰が育てばまた剣の修行も始められるだろう。

 歩ける様になったと言う事で邸内を徘徊してみる事にした。

 今まで限られた部屋の出入りしか出来なかったが改めて見るとこの邸はそこそこ広い。


 一階に居間、台所、客間、便所、物置きが有り。

 二階には書斎、両親の寝室、エルシャの部屋、それと空き部屋が二つある。

 このどちらかが将来、俺の部屋になるらしい。


 それと地下室も有る。

 だがそこは立ち入り禁止の開かずの間らしい。

 近づくとゴーストが出るとか言われてエルシャは、怖がって近づか無くなった。


 ゴーストとはこっちでの幽霊みたいな物らしい。

 見た事は無いが本当に居たとしても

さほど驚きはしない。

 転生を経験して魔術をこの目で見た俺は、もうちょっとやそっとでは驚かん。


 話は戻るがこの邸で特に気に入っている場所が二つある。

 一つ目はこの家の大黒柱であり父親のダリルの書斎。

 書斎には様々な本や地図などがあり暇つぶしにはちょうどいい場所である。


 ダリルは、何やら忙しいらしく家を留守にしている事が多い。

 その事も有り、殆ど俺しか出入りしていない。


 二つ目は二階の空き部屋の窓から見える景色だ。

 この邸の少し先には街へと続く道が有り、その道を様々な人が闊歩する様子が伺える。


 馬に荷を引かせ何かを運ぶ者。

 装飾の付いた杖を持ち、晴た日でも雨避けの傘を頭に乗せて歩く者。

 中には鎧の様な物を着込み、腰や背中に剣を携え歩く者も居る。

 侍や武士とは異なるがこの国にも剣士が居るらしい。


 将来自分の部屋が持てるならここがいい。

 もう一つの空き部屋は邸の裏側に面しており、殺風景な森の様子しか見えない。


 椅子に立ち窓の外を眺めていると階段をドタドタと駆け上がって来る音が聞こえて来る。


 エルシャか。

 最近六歳になった彼女は、絶賛遊び盛り。いつも邸の中や庭を泥だらけになるまで遊んでいる。

 そして母メリアに女の子なんだからもっとお淑やかにしなさいと叱られるまでがお決まりの流れだ。


 「ルイス! お父さんが帰って来るって!」


 開かれた扉の外に満面の笑みのエルシャが立っていた。

 うちのお転婆娘の登場だ。邸を留守にして二月久しぶりにダリルが帰って来るらしい。


 「だから、あたしとルイスでお出迎えしなさいってお母さんが!」


 エルシャは、スタスタと部屋に入って来て椅子に立つ俺を無理やりにずり下ろし脇に抱え連れ去った。


----

 

 その日の晩ダリルの帰還を祝して細やかな祝いの場が設けられた。


 テーブルにはいつもより少しだけ豪華な食事が並べられ高価そうな酒瓶も用意されいた。


 「貴方、改めてお疲れ様でした」


 「あぁ、疲れた。長居する事になると聞いて途中で帰ろうとしたんだが、ゴドフロア様に呼び止められてな。

 結局一月も家を空ける羽目になった。苦労をかけたなメリア」


 「いいえ、苦労なんて微塵も思ってないわ。

 2人共いい子にして___ 」


 と言いかけ、肉を獣の様に貪るエルシャを見て苦笑いし、言葉を飲んだ。

 そして咳払いを1つして言い直し、続けた。


 「ルイスは、いい子にしてたわ。言う事は、何でも直ぐに聞けるし悪戯もしないしね。

 エルシャは… いつも元気いっぱいよ、健康が1番よね」

 「そうか、2人共元気ならそれでいい」


 そう言うと男は、少し微笑みながら子供達を交互に見て右手に掴んだ酒をクイッと飲み干した。


 そして何かを思い出した様に言葉を続ける。


 「そうだ、エルシャももう6歳になった。そろそろ魔道入りの次期か」


 その言葉にエルシャが目を輝かせつつ笑みをこぼす。


 「本当!?」

 「あぁ、6歳で魔道入りの儀式をするのが式来りだからな」


 魔道入りの儀式、魔術に関係のある儀式なのは明白だが具体的にどんな事をするのだろうか。


 魔術を使える様になる為の儀式とかか?


 エルシャは、日頃から魔術師になると言っている。

 それがやっと叶う言うならあの喜んだ様子にも納得が行く。


 「いつ? ねぇ、お父さん、いつ儀式するの⁉︎」

 「そうだな、来月辺りには、出来る様にしておこう」

 「やった、約束ね!」


 その後、ダリルの旅の話とエルシャの将来の話で一頻り盛り上がり、この後お開きとなった。


----


 更に三年の時が過ぎ俺は、四歳になった。


 剣の修行も開始した。

 庭に生えていた木の枝尾を拾いそれを適当に整え、木刀代わりに毎日素振りを行っている。


 その様子を見ていたのかある日唐突に父ダリルから木剣を貰った。


 以前の見知った木刀とは形状も重心も違っていた。

 だが構えてみるとやけに様になっており気に入ったので使わせて頂く事にした。


 そして新たな木剣の重心、体捌きを掴み始めた頃、事件は起きた。


 その日もいつもの様に素振りを行っていた。

 この身体には、少し重い木剣を腕が上がらなくなるまで振り続ける。


 「一、ニ、一、ニ」


 木刀は若干の風切り音と共に振り下ろされる。

 全ての神経を集中させ、一振り一振りを振り下ろす。


 「一、ニ、一 」

 「見ろよ、魔術師の息子が木剣を振ってるぜ」


 素振りをしているとそんな声が聞こえて来た。

 

 ん?

 素振りを止め、声のした方を見る。


 そこには、3人組の子供達が居た。

 子供達は、こちらを指差しヒソヒソと何かを話している。

 

 そしてその中の1人、意地の悪そうな顔をした少年がこちらに話しかけて来た。

 

 「おーい、ちょっとこっち来いよー」


 あの目つきといい意地の悪そうな顔だ。

 あの顔はエルシャが新しい悪戯を思いついた時の顔とよく似ている。


 俺は、呼ばれた方向へと歩き、返事を返した。


 「何だ? うちに何か用か? 忙しいから、遊んでやる時間は、無いぞ」


 そう言って子供達の前に立つ。

 すると3人の顔がみるみる内に真っ赤になっていった。


 「こいつ、舐めた口聞きやがって」

 「年下の癖に生意気な! 」

 「ウォン、ウォン!」


 突然怒り出した3人は、口々に暴言を吐きながら詰め寄って来た。

 若干1名訳の分からない事を言っているがそれは置いておこう。


 む。

 何やら怒らせてしまったらしい。

 子供相手でも下手に出るべきだったか。

 前世で子供との関わりが全く無かったせいで接し方が分からん。


 「あ、遊んで、欲しいのですか?」


 よし、これでいいだろう。

 これなら尊敬も示しつつ、親しみやすさも有る。

 我ながら完璧。


 「お前、全く状況を理解して無いらしいな」


 気付くと三人に取り囲まれていた。


 何だ?

 若干な敵意を感じる。

 獣の様な唸り声を上げこちらを睨んで来た。


 対応は完璧なはずだったが、何か間違えたか。

 そう思い、3人の顔をぐるりと見渡して気付く。


 「うおっ!」


 俺を取り囲む三人の内一人、いや一匹と言うべきか。

 その子供には、犬の様な耳と尻尾があった。

 その犬は、耳をピンと立て牙を剥き出し、尻尾を直立させこちらを睨んで来ていた。


 「犬が、立っている。服を着て、どう言う事だ、これは、夢か?」


 そう言いながら犬の頭をわしゃわしゃと撫でると心地良さそうな顔をした。


 しかし状況を思い出した様にハッとし、鼻をシワシワにしながら牙を剥き出し、俺の手に噛みつこうとして来た。


 「おっと」


 俺はそれを寸前の所で交わし咄嗟に頭をペシリと叩いた。

 犬は、叩かれた事に驚いたのかバウっと情けない声を漏らしすっとボケだ顔をした。

 すると右側に立っていた少年が突然、後退した。

 

 「お前は、もう許さない! ゴンタ、キンチョ、やるぞ!」

 その声と共に戦いは、始まった。



 気付けば正面に臨戦体制の三人が構えて居る。


 いや、この場合ニ人と一匹だろうか。


 1人は、短い棒の様な物をこちらに向けている。

 そしてもう1人は、両拳を顔の前に置き構えている。

 1匹は、四つん這いになり重心を低く落としこちらを威嚇して来ている。


 あの棒、あれは、魔術杖だ。

 エルシャが魔道入りの儀式の時に貰った物と同じだ。


 と言う事は、魔術を使うのか。

 もう一人は、ともかく。

 あの犬は、何をして来るのか分からんな。


 警戒し観察していると棒を持った少年が何かを唱え出した。


 「天より振りし、母なる水よ、今ここに、威力を示せ」

 「ウォーターボール!」


 その言葉と共に拳の大きさ程の水の塊がこちら目掛けて飛んで来た。


 俺は、それを素振用の木剣で軽く受け流す。

 木剣に当たり軌道を変えた水の塊は、バシャリと地面に落ち、水溜りを作った。少年は、それを見て一瞬動揺の表情を見せたが直ぐに冷静になり他2人に指示を出した。


 「猪狩りの陣形で行くぞ!」

 「分かった!」

 「ウォン!」

 2人は、その指示を受け即座に行動に移す。


 拳を構えた少年が地面からザッと砂を拾い上げこちらに投げる。

 それと同時に低く構えた犬少年が、四足歩行で突進して来る。


 「ガウッ!!!」


 俺は、飛でくる砂に、一瞬背を向け、背中に砂が当たった事を確認。


 直ぐに向き直し、犬が俺目掛けて飛び掛かって来るのを察知し、同時に体を一歩分そらしガラ空きの脇腹を木剣で叩いた。


 「ガハッ」

 犬少年は、ゲロを吐き白目を剥いてその場に倒れた。


 そして、砂少年との距離を一気に詰める。

 切迫詰まった砂少年は、投げ槍になって大振りの右拳を振って来る。

 

 その大振りの拳を無視し、更に距離を詰め素早く木剣を振り下ろす。


 木剣がある分、こちらの攻撃が先に当たり、

カコンッと音を立て砂少年は、その場に倒れた。


 木剣を構え直し、最後の1人へと向き直る。

 すると、杖を構えた少年の前に人の頭程の大きさの火の玉が現れていた。


 なる程、他二人は、陽動。

 そして、あの魔術あれが本命の一撃と言う事か。

 子供の割には、良く練られた作戦だ。


 「終わりだ! ファイヤ・ボール!!!」


 ブォンッとやや遅れた音と共に火玉がこちら目掛けて飛んで来た。


 「丸こげになっても治癒魔術かけねーかんな!」


 勝利を確信といった態度で杖少年は、踏ん反り返っている。

 俺は、火球が飛んで来たと同時に木剣を左下後方に向け重心を低く構える。


 火球は、勢いよく間合いに入り、俺目掛けて着弾・・・

 

 する前に左下後方に構えた木剣を素早く天へと振り上げる。

 木剣は、地面を擦りながら火球を豪快に切り上げ、火球は真っ二つに割れ若干の放物線を描きながら後方へと飛んで行く。


 「そ、そんな」

 

 それから少年へゆっくりと近づき木剣を向ける。

 少年は、尻餅を付き怯えた表情でこちらを見上げていた。


 「ヒッ、た、助けて」


 見上げる少年の目には戦意はもう微塵も残って居なかった。

 ただ恐怖の表情でこちらを見上げている。


 否、見ていたのは俺では無かった。

 俺の後方、邸の方向からこちらに近づいて来る一人の人物に向けられていた。


 その人物は、凄まじい殺気と覇気を放ちながらこちらに近づいて来る。

 

 「ルイスちゃん、これはどう言う事かな??」


 気付けば邸の庭に植えてある木が勢いよく、煙を上げ燃え続けていた。


 俺は、死を直感した。

 前世で幾度と無く、死地を潜り抜け猛者達と立ち合って来た経験が。

 いや、本能がそう告げていた。


 「あ、あの母上、これには、事情があって、だな、どうか命だけは」


 それからメリアに治癒魔術をかけて貰った一人と一匹が目を覚ますまでの二時間。


 俺と杖少年は、こっぴどく叱られ、クタクタになるまで庭のゴミ拾いや草取りをさせられるのであった。


 その間、嬉しそうな顔でこちらを眺めるエルシャの顔が印象的であった。

 いつもと立場が逆転ってか。


 俺は、悪く無い。

 俺は、無実だ。



----



 その日を境にあの三人は、毎日の様に戦いを挑んで来るようになった。その都度返り討ちにする。

 と言う生活が一年程続いた後。


 勝てないと踏んだのか、はたまた作戦の内かいつしか俺を先生と呼び俺の隣で素振りをする様になった。

 と言っても俺が素振りをしているのを横目に素振りをしているだけに過ぎない。


 鳥の囀りが響く、昼下がり4人の少年達が真剣な面持ちで素振り稽古を行なっていた。


 「一、ニ、一、ニ」


 それから1時間程の時が過ぎた。

 4人の内3人は、地面にへやり込み1人の剣士を見つめていた。


 その剣士は、小さな体に釣り合わぬ木剣を素早く振り下ろしている。

 ヒュンと言う風切音を鳴らし、その幼い見た目に似合わぬ覇気を纏っていた。

 その姿には、歴戦の戦士を思わせる風格すらあった。

 

 それを少年達は、ゴクリと固唾を飲みながら見守る。


 「ふぅ、」


 少年は、一頻り付けた所で剣を止めた。

 額の汗を袖で拭い、木剣を壁に立てかけ子供達の側に腰掛ける。


 「先生の剣の流派って何処の流派なんだ?」


 そう口を開いたのは、3人の内の1人明るい茶髪に意地悪そうな顔をした少年。

 杖少年ことカイルだった。


 「・・・巌流」

 「がん、りゅう? 聞いた事無い流派だな、お前ら知ってるか?」


 その問いに知らないと首を振るのは、他2名、犬少年ゴンタと砂少年のキンチョ。

 それを聞いたカイルは、顎に手を当て考える様な格好をし、しばらくして口を開いた。


 「そもそもお前、じゃ無くて先生は、何でそんな強えんだ? 」


 「・・・」


 唐突に聞かれた質問に口を噤んだ。


 なぜ、強いのか。

 そんな事を気がれても分からない。

 答えられるはずも無い。


 実は、前世でそれなりに名の知れた剣士で、その記憶を持ったまま生まれ変わった。


 何て事、言っても信じてくれまい。

 そのまま、沈黙し、静寂が流れた。

 

 しばらくしてその雰囲気に耐えかねた様に、1人が喋り出した。


 「で、でも、いいよなぁ。それだけ強かったら今からでも、冒険者を始めらるだろうなぁ」


 そう言い出したのは、キンチョだった。

 彼は、壁に立てかけある木剣とその持ち主を交互に見て羨望の眼差しを送っていた。


 「冒険者? 」

 「そうだ。俺たちは冒険者になるのが夢なんだ。大陸中を旅をして強い魔物を狩って有名になる!」


 カイルは、夢の話を子供らしく無邪気な笑顔で語っていた。

 そんな話を聞いてもポカンとしている俺を見てカイルは言う。

 「まさか、知らないのか!?」

 「う、うん」

 「マジかよ、そんな奴居るのか」


 その後、カイルはため息を漏らしながらも色々な事を教えてくれた。この世界にはあらゆる場所に魔物と呼ばれる生き物が居る事。


 その魔物の種類は様々で空を飛ぶもの、土に潜るもの、火を吐くもの、毒を吐くと、その種類は何千種にも及ぶらしい。

 そしてその魔物を狩って生計を立てる戦士達の事を冒険者と呼ぶらしい。


 冒険者は、街や国から依頼され、魔物を討伐したり、用心棒の様な事をしながら世界中を旅をして生きる自由な人々だと。

 そんな冒険者に彼らは、憧れを抱き将来の目標として居る。冒険者になるには、一定以上の強さが求められる為、あらゆり方法で強くなろうと努力しているのだと言う。

 そんな話を聞いた俺は、胸の高鳴りを感じた。

 魔物と言う未知の生物。

 それに挑まんと志す勇敢な戦士達、見てみたいとも戦ってみたいと思った。


 そして気付いた。

 言葉も文化も価値観も違う。

 だが、それだけじゃ無い。


 動物の特徴を持った人間、魔物、それに魔術。

 これだけおかしな所が有れば誰でも気付く。

 

 前いた世界とは、全く異なる世界。

 ここは、異世界だ。

 

 

 

 

 

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