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灰と灯火のグリモワール  作者: みむらす
第二部 雪の降る日 中編【女神様の加護】
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9話 通行許可

 学院から、卒業証書や花束を持った学生たちが、親と共に笑いながら門から出ていく

 僕は胸の高鳴りを抑えながら、彼ら彼女らが目の前を通り過ぎていくのを凝視していた。


「流石に挙動不審じゃね?」

「うるさい」

 横に立つローゼンがつぶやくのを受け流す。

 そんな、何度目かのやりとりを交わす頃には学院から出てくる学生たちはまばらになり、気がつけば門の前には僕たち2人だけになっていた。


「アリスって子、いなかったのか?」

「見落としたのかも……」

 6年経っているとはいえ、きっと見ればすぐにわかるはずだ。

 だが、アリスらしき人物もその両親の姿も見つけることはできなかった。


 まだ、誰かいるかもしれない。

 僕は再び学院の敷地内に目を向ける。


 そこには、こちらに背を向けて校舎を見上げる黒髪の少女が立っていた。

 その姿に心臓がドクンと大きく脈打った。


 ――アリス?


 その名前を叫びたい。けれど、緊張して声が出なかった。


 そんな僕に気づくことなく、少女は校舎の方へと入っていく。

「待っ……待って! アリス!」

 駆け出した僕の体が強い力で押し戻される。

 見上げると警備員の男が僕の体を抱き抱えるように押さえていた。


「この学院内は関係者しか入れない。入るなら許可証を見せなさい!」

 関係者……? アリスと僕は親友。関係者だ!


「僕は、あの子の関係者です! 通してください!」

 警備員の男と揉めている間に、黒髪の少女は校舎の奥へと消えていった。

「アリス!」


 だらりと力の抜けた僕を警備員の男は解放した。

「何か理由があるのかもしれないが、許可証の無い者を学院に入れてはならない。これは規則だ」


「あのー……」

 学院の校舎を呆然と見つめる僕をよそに、ローゼンが男性に声をかける。


「こいつ、魔術の適性検査受けるんですけど、入れないですか?」

 その言葉に僕は警備員の男に視線を送る。

「その場合でも許可証が必要だ」


 ローゼンの機転を効かせた発言に、一瞬学院内に入れるかと期待したが、あっけなく振り出しに戻った。

「適性検査は予約制になっている。事前に受付を――」


「まぁまぁ、1人くらい良いではないか」

 僕たちの会話に、低いトーンの声が割り込んできた。

 振り向くと、白髪の混じった短髪の男性が、貫禄のある雰囲気を携えていた。

 その人物に僕は目を見開いた。


「カイン君、大きくなったね」

 数年前、村で行われた魔術の勉強会で、頭を撫でてくれた時と変わらない温かな雰囲気。


「ゼロス……先生」

「はっは。先生と呼ばれるのも悪くないな」


 ゼロスは警備員に向き直る。

「私の推薦枠ということで、なんとかならんかね」

「そ、そういうことでしたら……」

 男性は慌てた様子で魔術を詠唱し、"念話"を始めた。

 こうもあっさりと話が進むとは。

 ゼロスがすごい魔術師だという話は本当だったらしい。


「これから北域圏に行くところだったが……。

 まさかこんなところで会うとはね。

 あれから魔術は使えるようになったかい?」

 ゼロスは優しい笑顔で語りかけてくる。


「それは、まだですが……。でも、剣術は学びました!」

 ゼロスは何かを考え込むように視線を逸らす。

「カイン君、一つ訊きたいのだが――」

 言いかけてゼロスは首を振る。

 そして、ゴツゴツした大きな手が僕の頭を撫でた。


「――いや、忘れてくれ」

 なぜだか、その顔からは表情が抜けていた。


「どうやら、迎えがきたようだね」

 ゼロスと共に校舎の方へ視線を向けると、若い女性がこちらに歩いてきていた。

 学院内へ案内してくれるようだ。


「先生、ありがとうございます」


「ローゼンも、ありがとう」

「おう。今日は自由行動な」


 僕は女性に案内されて門を潜る。

 校舎の手前で振り返ると、小さくなったローゼンが立っていた。


 アリスを探すために学院に入る口実とはいえ、魔術師の適性試験を受けることになった。

 いまだに魔術を使えた試しはないが、僕は相手の発動する魔術の気配を察知する能力が長けているらしい。

 自分の素質を知ることができる。


 かつての故郷"オルスタッド"の展望台からみたアリスの魔術を思い出す。

 逸る気持ちを抑えながら、その案内役の女性の後を追って校舎の中へと入った。

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