第87話「迫る戦端」
ーーケアン基地・廊下。
ホワイトファングメンバーは、ブリーフィングでのキースの作戦で盛り上がっていた。
キースの作戦にケビンとマリアが感銘する。
「さっすが隊長!あんな作戦思いつくなんて!」
「私なんてどうやって倒そうかしか考えませんでしたよ!」
ユアンも頷く。
「敢えて戦闘を避ける…勉強になります。」
キースは照れ臭そうに笑う。
(ま、ホントの目的は違うんだけどな。)
ビルは少し不満ではある。
「あの二人組。なんとかやれそうな気がするんだがな。」
「まぁまぁ。今回は迎撃戦です。倒すより耐える事を優先しましょう。」
サイラスはビルを宥める。
キースはレイとミリィに目をやる。
「レイ、ミリィ。多分今回は第二小隊が要になると思う。
二人は…例の件も含めて大丈夫か?」
レイとミリィは少し驚いて赤面する。
「え?ええ。大丈夫よ。」
「さっきOKサイン出してたろ。」
サイラスが不思議がって伺う。
「例の件ってのはなんですか?」
レイが慌ててごまかす。
「それはだなー。…あーほら。ミリィが調子悪かった件だ。
まぁ、もう大丈夫だよな、ミリィ。」
ミリィは頬を赤らめて俯く。
「う、うん。もう大丈夫だから。」
今度はビルがサイラスを制する。
「まーまー。二人が大丈夫って言ってんだから、外野が気にするな。」
レイはビルにサンキューと軽くサムズアップし、ビルも答える。
(ったく、鈍感隊長にはやきもきさせられるぜ…)
ゾーイはレイとミリィを複雑な表情で見ている。
それに気付いたキースが声をかける。
「ゾーイ、初めてのホワイトファングでの作戦だが、問題ないか?」
ゾーイは笑顔で返す。
「えぇ。私もブリーフィングで「任せて!」って答えたでしょ。」
キースはもう一つ気がかりな事を匂わせながら問いかける。
「ゾーイ、信じてるからな。」
ゾーイはキースの目を見て、少し構える。
「え、えぇ。期待に応えられるようベストを尽くすわ。」
各々の想いを抱えながらも、ホワイトファングは一つとなって次の戦いに向かう。
ーールーティア基地・ブリーフィングルーム。
スクリーンには第八艦隊を北にヴァレン峠を南に広げた地図が映っている。
ダミアーノ・カルドーネ少将が説明をしている。
「ーー以上、これが作戦概要である。
本作戦では、第八艦隊揚陸部隊とシュヴァルツアドラー隊がカギとなる。
両部隊がいかに陽動を成功させるかに掛かっている事、忘れぬよう。」
ファビアン・レド大佐が手を上げる。
「本作戦では私が総指揮を取らせていただく。
閣下の思う様に使われると良いでしょう。」
それを聞いて、カルドーネは笑顔になる。
「そうかそうか。ルニエ提督は一切入り込まれない訳で?」
レドは強く頷く。
「はい。提督は本作戦はご興味ないとの事で…」
カルドーネはレドに囁くように言う。
「正直、提督の元では大変でしょう。
今回は大佐も思いのままに暴れてくれたまえ。」
一方でミハエルは不服を申し立てる。
「閣下、私が囮なのは結構です。
しかし、私はあくまで対ホワイトファング部隊です。
最優先はホワイトファングで、他の部隊支援に回れなくても宜しいので?」
カルドーネはミハエルの自信ありげな言い様に、気分を害し冷酷に言う。
「貴官が先の防衛戦でホワイトファングを全滅していれば、問題なかったんだがな。
撃破した隊長も、聞けば戦線復帰していると言う。
自信過剰なのでは?
先ずはきっちりホワイトファングを葬れ。
口出しはそれからしろ。」
ミハエルはそれ以上言い返せず、口をつぐんだ。
「は、了解しました…」
憎きミハエルに勝ち誇ったと実感しカルドーネは気分を良くして、作戦会議を締める。
「よろしい。
では、作戦開始は明後日0900だ。
各自私の戦術プランをもう一度確認しておくよう。
以上、解散。」
ミハエルは拳を強く握り締めた。
(どうあっても彼らとの戦闘は避けられんか…)
ーー様々な思惑を抱え、エウロパ軍の再侵攻作戦が始まろうとしている。ーー
ーーケアン基地・格納庫。
レイはずらりと並んだホワイトファングカラーのアスカロンに圧倒される。
「ひょえー。これだけ俺らのカラーで揃えられると壮観だな。」
ミリィも頷く。
「ね。みんな私たちの部隊みたいで緊張しちゃうな。」
ミリィを見て、レイが気まずそうに言う。
「あー。この間の話なんだが……」
ミリィは首を振る。
「ごめん。あの時はちょっと焦ってたって言うか…」
二人の仲を見ていたかの様にゾーイが寄ってくる。
「あー二人して楽しそうにしてるじゃない。私も混ぜてよ!」
「あーいや、出撃前の打ち合わせみたいなもんでなー。」
「そ、そうそう。」
「ふーん、だったら尚更私を置き去りにするのはどうかと思うけどー。」
誤魔化す二人に対して、ゾーイはレイに詰め寄る。
(こっちも距離感がエグいんだよなー。)
レイは少し汗をかきながら、ミリィを見る。
案の定、ミリィは拗ねて横を向いている。
「と、とにかくだ。キースの言う通り俺らが今回の要だ。
臨機応変に対応しようぜ。」
レイは逃げるようにその場を離れた。
残された二人。
ーー少し緊張が走る。
そして、ゾーイがおもむろに言う。
「ミリィってレイの事好きなの?」
「!!」
ミリィはゾーイのズバリな一言に赤面して、答えられない。
そんなミリィを見て、ゾーイは笑う。
「レイって良いよねー。人当たりもいいし、軟派な感じでも芯の真面目さが伺えてさ。」
ミリィは恐る恐る聞く。
「…ゾーイもレイの事……気になるの?」
ゾーイは笑って返す。
「かもねー。あははは。」
含み笑いで去って行くゾーイを見て、ミリィは小さく俯いた。
「レイ……やっぱりちゃんと気持ち教えてよ…」
そんなミリィの気持ちを他所に、基地内に緊急放送が流れる。
《緊急警報。緊急警報。
各士官は直ちにブリーフィングルームへ集合せよ。》
ーーブリーフィングルーム。
スクリーンにはケアン基地とルーティア基地を東西に広がった地図が映されている。
ジェイソン・モリス少将のもとに、主要士官が集まる。
「敵軍隊に動きあり。
総数はおよそ三個大隊。ルーティア基地のほぼ全軍だ。
カリビア市を通過し、現在カリビア山脈より十キロメートルまで進軍している。
今のところ敵部隊の分散は確認されていない。」
ジャスティン・ネルソン中将がスクリーンに割って入る。
「敵第八艦隊も僅かだが、動きを察知した。」
モリスは続ける。
「敵の侵攻作戦が始まったと考えて間違いないだろう。
敵の推定進軍ルートだ。」
スクリーンに矢印で二ルートが示される。
「先の作戦会議の通り、敵の進軍ルートは
前回我々が取ったカリビア山脈越境ルート。
及び、ヴァレン峠迂回ルート。」
一人の士官が質問する。
「敵が我々と同様カリビア山脈を越えるルートを取るでしょうか?」
モリスも頷く。
「確かに、先の作戦で我が軍がカリビア山脈攻略に失敗した例がある。
それ故、カリビア山脈を避けてヴァレン峠を選ぶ可能性は高いだろう。」
ネルソンも加える。
「その上、第八艦隊の揚陸部隊も加わる事は間違いない。
南北二方面同時侵攻ともなれば、敢えてヴァレン峠からのルートで距離を取るのが自然ではある。」
また一人の士官が質問する。
「ヴァレン峠ルートであれば、テイラー准将の南軍を頼る事は出来ないのですか?」
モリスは首を振る。
「現状南軍はかろうじての均衡を保った状態だ。」
室内は重い空気に包まれる。
モリスは沈んだ空気を、打破するかのように壁に手を打つ。
「悲観ばかりしていても仕方ない!」
そして、ニヤリと笑みを浮かべる。
「それに我々には備えがある。
敵が驚きおののく取って置きの戦術がな。」
一同が”白いオオカミ群れ作戦”を思い出し、気持ちを上げだす。
「そうだ、今度の作戦じゃみんながホワイトファングなんだ!」
モリスは強く頷く。
「うむ。
本作戦では北部の砲兵以外は長距離砲撃機は置かん。
山脈だろうが、峠だろうが越えてきた敵機を各個撃破していく。
遭遇した相手がホイワトファングだと知れば、おのずと進軍速度も下がる。」
そして、チャーリー・トンプソン大佐に目をやる。
「北部海岸線の指揮をトンプソンが、南部を私が指揮する。
防衛戦だ。
敵の心が折れるまで、来た者を撃破し続ければいい!」
モリスが高く右腕を突き出す。
「「「おぉ!」」」
呼応して、皆も右腕を突き出す。
両軍の思惑が錯綜する。
戦端が開かれるのは、もうすぐそこまで迫っていた。




