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脱リア充のススメ。~発達障がいの子に家庭教師をしていた陰キャの僕はいつの間にか生徒会長~  作者: 霧


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家庭教師

「お前高校生で家庭教師のバイトしてたのか、マジですげえな」


 リビングのローテーブルを四人で囲み、玉名ちゃんの言葉に目を丸くする二人に改めて

事情を説明した。


 僕のバイトが家庭教師だということ。もちろん高校生だから一般企業では募集していない。 

 高校生の家庭教師のバイトは、進路の決まった高三以外は家庭教師専門のマッチングアプリか、知り合いとの直接契約になる。


 未経験の僕がマッチングアプリで雇ってもらえるわけないので、自然後者になった。

時給は高めだけど、その分時間外労働も多い。


 教えるのに小学生の教科書を読み込む必要もあるし、問題を作ったりするなど授業の準

備もある。


 そういった準備は学校でもちまちまとやっていて、思いついた教え方や例えをノートに書き留めたりもする。


 基本は家でやるけど、時間がない時はこの前みたいに学校でやることもあった。


「どういう感じで知り合ったんだ?」


 古賀が興味津々という感じで質問してくる。家庭教師というバイトに興味があるのかもしれない。


「町の清掃活動に参加してた時、たまたま知り合って、ね」

「ああ、ああいうのめんどくさいけど参加しないといろいろうるさいからな」

「お兄ちゃん、めんどくさいなんて言ったらメ、だよ」


 愛佳ちゃんがぷりぷりと、兄をにらむ。やんちゃで活発な子だと思ったけど結構礼儀正しい面もあるらしい。


「……」


 静音ちゃんは僕たちが話している間、ずっと黙りこくっていた。


 古賀と目を合わせず、どこかきまり悪そうに体をもじもじさせる。

 気を使って古賀がいろいろと話しかけるものの、軽くうなずくか一言返事を返すだけだ。


 やがて場の空気から逃げ出すように、部屋の隅に置かれた自分の鞄に手を突っ込んでご

そごそと中身を取り出す。


「先生、『はじめて』の問題大変でした」


 細くて長い鉛筆とノートを、僕に差し出してくる。二人は完全に蚊帳の外だが気にする様子もない。


 普通の人には、静音ちゃんのことがそう見えてしまう。


「これは午後、君の家に行ったときにやろうかと思ってたんだけど……」

「いい。今やっても後でやっても、同じことですから」


 僕はやんわりと断ろうとするけれど、静音ちゃんはこういう時押しが強い。助けを求め

るため、古賀兄妹のほうをちらりと見る。


「静音ちゃん。せっかくうちに来てくれたんだし、静音ちゃんと遊びたいな」


 愛佳ちゃんの言葉に、こくりとうなずいた静音ちゃんは素直に鉛筆とノートをしまう。


「古賀、僕が家庭教師やってるってことは、クラスのみんなには内緒にしてくれる?」

「おう、まあ珍しいバイトだしな」


 古賀は事情があると察すると、深く追及してこないから助かる。


「それじゃあ」


 愛佳ちゃんがにこりと笑う。それだけで三人の視線が彼女に集まった。場の空気を支配する能力は、陽キャの妹らしい。


「お兄ちゃんたちの勉強もひと段落したみたいですし、四人で遊びましょうか。その前に」


 愛佳ちゃんがいったん部屋を出て、麦茶を片付けると今度は人数分のアイスコーヒーをお盆に乗せて戻ってきた。


「ありがとよ」

 古賀は真っ先に水滴の浮かんだ、黒い液体の入ったコップに口をつけた。

喉を潤しながら軽く談笑していると、不意に静音ちゃんがつぶやいた。


「コーヒーって、なんだかドブ水みたいな色ですよね」


 飲んでいる人を馬鹿にしたわけでも、入れてきた愛佳ちゃんをからかったわけでもない。


 ただ「情報」として静音ちゃんはつぶやいただけだ。声の調子も表情も淡々としたまま。

 だけど場の空気が、古賀を中心として軽く凍り付く。


 静音ちゃんは手を止めて、周囲に視線を巡らせる。その後。


「ご、ごめんなさい……」


 栗色の瞳に涙をにじませ、深く頭を下げた。


「静音ちゃんって、面白いよね~! こんな言い方する人、なかなかいないよ」

「あ、ああ。なかなか個性的な子だな」


 笑っている愛佳ちゃんに対し。古賀は、気に障りながらもどう反応していいか迷っている感じだ。


 こういうことはよくある。静音ちゃんには悪気はない。人の気持ちがわからないわけでもない。


 むしろ周囲に気を使ってばかりの子だ。


 それでも、彼女の言葉選びや感性が独特なせいで、周囲を怒らせるようなことを言ってしまう。


「あれ」が出そうな気がしたが、愛佳ちゃんが素早くフォローに回ってくれたおかげか今回は大丈夫だったようだ。


 少し間をおいてからトランプを持ってきた愛佳ちゃんの提案で、四人でも無理なくできる神経衰弱を行うことになる。


 修学旅行でもなんでも、多人数が集まるときはババ抜きがポピュラーだ。なのに人づきあいが得意そうな彼女が、あえて神経衰弱を選んだっていうことは。


 もう、知っているのだろう。


 床いっぱいに広げられたトランプを前に、僕ら四人が輪になって座った。


「西戸崎、手加減してやれよ」


 僕のとなりに座った古賀が肘で軽く小突きながら、そう呟く。



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