7 ※残酷・ネタばれ注意
……恨みの声が革命広場を席巻しています。数百年に渡り民衆の上に君臨し、虐げてきた憎い王家。その最後を見届けようと集まった人々が、広場の中心に置かれた器具へと視線を注ぎます。
地味で薄幸な王妃リディアーヌ、つまり私が、最後の最後に目立つシーンです。心して臨まねばなりません。
見物する人々の中にロラン様はいるでしょうか? 私を助けに来てくれる? 私はもう一度だけでも、最後にロラン様に会いたいでしょうか?
いいえ――いいえ。
むしろここに、あの人にはいてほしくない。このあと自分がどうなるかと思うと、彼には絶対に見られたくないのです。ロラン様の記憶に残る私の姿がそれでは、とても耐えられないでしょう。
だから彼の姿を捜しません。いないと思っていたいのです。
階段へと踏みだす私の足は震えています。
うそみたいです、自分がもうすぐ死ぬなんて。怖いです。怖くてたまりません。
「ああ……」
何度も悪夢に出て来たあの器械が、とうとう本当に目の前に現われました。
大きく肩で息をし、つばを飲み込みます。怖くてたまりませんから、何か楽しいことでも考えましょう。……だめです、無理です。紛れるはずがありません。
すでに髪は短く切られていました。露わになったこの首が、あの器械に嵌められます。
誰だって自分の命は惜しいです。私も本当は死ぬのは嫌です、怖いです。ロラン様にも恨み事を言いたくなってきました。後悔しないと決めたはずなのに、揺らいでしまいそうです。
処刑台の床についた、赤黒い染みが見えました。
全身の血が沸騰するような、またその反対に、全て絞り取られてしまったかのような、おかしな感覚に襲われています。熱いのか冷たいのか、もうよくわからない。
あまりの恐怖でこれが現実なのかどうか、段々わからなくなってきました。私、本当にしぬんでしょうか? いいえ、これは夢です。現実のはずがありません。
現実からの逃避を望んだ私が最後に思うこと。
(マリウスの腕の中で死んだエポニーヌは、最後に何を考えたかしら。たとえ死ぬ前でも、愛する人を救えて、腕にも抱かれて幸せだった?)
『愛する人を守って死ねたら幸せ』。
そんなのは綺麗事でしょうか。どうしようもないほど哀れな自分を慰めるための、ただの思い込み? 哀しい自己欺瞞ですか?
(……だけどね。もしも、もしもそれが)
その綺麗事こそ真実だったら? エポニーヌが幸せだったなら。
きっと、私も――。
偉大な文豪に尽きぬ敬意を。




