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FILE.13

3月30日 国会議事堂


日本の立法を担当する国会の舞台であるこの建物の一室では今、日本の転換期となるだろう法案の審議が執り行われておりいよいよ本会議の議長によって採決の時を迎えようとしていた。


「これより『日本国内での道州制の導入における地方制度関連法案』の採決を・・・」


議長が言葉を並べていき採決が行われる。結果は賛成6割の反対4割で成立であったが党の内訳で見ると賛成は伊東総理が入る自主党である与党と無所属の議員で反対が民支党と共栄党を筆頭とした野党という構図でほとんど数に物を言わせた形となった。

この法案によって晴れて日本は道州制を導入することになりその領域を北洋道・北海道・海山道・東洋道・東海道・西洋道・京央道・陰陽道・南海道・西海道・南洋道の十個の道に分けてその下に都府県が置かれることになる。他にもこれに先立って北海道の下に新たに県が置かれ小笠原諸島・伊豆諸島が東京から分離したりなど既存の行政制度にもメスが入れられた。

本当ならこの件はもう少し時間をかけたかったがとうとう厚労省を筆頭に業務の処理能力が間に合わなくなり不本意ながら急いで可決した形になり内閣側も不安を残す結果になってしまった。だがそんな当事者の気持ちなど気にもせずに野党側はやれ強行採決だの審議不足だのと批判祭に酔っていたりで内閣側も更に不安を募らせる状況、審議不足に関しては確かに審議総時間24時間という短さを本人たちも自覚していて何も言えないのが痛い、強行採決批判については国会の風物詩となりつつあるのでもうあきらめた。

そんなこともありながら今日も日本の存続をかけて必死に多くの者たちが動いている。環境省の十五夜 吉奈大臣もその一人である。彼女は北海道のとある耕作放棄地で視察を行っていた。


「ここ一帯は200haにも及ぶ耕作放棄地でありましたが環境省の推進している農地環境再生プログラムのおかげで今ではその規模も1%にまで縮小されており農地として復活するのも間もなくと思われます」

「思ったより早い進行ですね・・・問題は無いのですか?」


話を聞いていた十五夜大臣がそう感想を述べる。日本の逼迫する食料事情を少しでも改善しようと耕作放棄地の再利用を促すために農地の再生を行っている環境省だが今のところは上手く運んでいるようだ。ところで何故農林水産省ではなく環境省が耕作放棄地の再生を請け負っているのかというとこれは環境省が独自に開発していた環境再生技術が影響している。地震や台風、噴火をはじめとしてそれから派生して起こる津波や洪水に降灰など災害のオンパレードである日本ではそれらによって環境の変化や破壊も顕著である。それを危険視した環境省が速やかに再生を図れるように計画・開発されたのがこの環境再生技術である。この技術は一つの技術によって形作られているわけではなく複合的な技術の結晶というべきものでその運用方法は塩害や砂漠の緑地化をはじめ汚染物質の除去など多岐にわたる。今回の耕作放棄地の再生もその応用に当たる物であり多様に想定された事態の一つに過ぎない。


「問題と言えるかはわかりませんがここの作業はほとんどそれらの技術に精通している者の指導で自衛隊やボランティアの大勢の方達で行われていますのでこれを全国規模で行うとなると質の低下は避けられないと思います」

「それは本省の方でも危惧しておりマニュアル化をはじめとして大衆化を図る方針ですが・・・やはりそういう面で問題になりますか」


話を聞き再び思案顔になる。ここの再生方法の説明を考えてもまず重機で土地を掘り起こしシュレッダーやプレスで土ごと裁断、粉砕した後に加熱処理で種子や微生物を死滅させたものを元に戻しそこに土壌を活性化させる微生物などを散布するというかなり力技の面がある。日本の耕作放棄地の面積は合わせて40万ha以上と広大だ、コスト面から見ても全ての土地で行う訳にもいかない。こういうところはまだまだ未熟の域を出ない上に仮に今ある耕作放棄地を全て復活させても転移前の日本の食事環境に戻るには遠く及ばないのがまた何とも言えない。


「やっぱ農地が少ないと出来ることも限られるわねぇ、農林省の方は農地の増加とかはしないのかな?森を切り開けばまだ少しは増やせそうだけど・・・」

「森を切り開くのは最近制定された『日本国領域総面積内での緑地率の安定化に関する法律』に抵触しかねないので難しいと思われます。やるとしたら畜産業に従事している者が保有する土地の農地転換が関の山です。それもコストの問題がありますしそれに土地開発は中長期的視野で行うものであり短期的視野で行うには向いておりませんし災害を引き起こす可能性もあるので危険では?」


そんなことを話す大臣であったが後ろで控えていた秘書官に指摘される。確かにその当時は良かれと思われていたことが少し経つととんでもない事態を引き起こす要因になったりとする例は少なくない、開発というのは入念に計画を練って不備があればその都度手を入れなければならない面倒なものである。

そうはいってももう少し森林部分を利用してもいい気がするのだが、森林7割農地2割という数値はあくまで理想値であって絶対ではないのだし防衛省もなんでこんな面倒な法律をつくったのだろうか?

そんな疑問を思いつつも十五夜大臣は視察に会談と予定を消化していく、環境省だけで見てもまだまだ課題は山積みだがよくよく考えれば日本が転移してからまだ1か月ちょっとしかたっていないのである。そう思えばまだ対応は早い方とも言えるかもしれない。

北海道での予定を全て済まして帰路についている最中、十五夜大臣はほんのわずかな休息の時の間にそんなことを考えながら瞼を閉じてまどろみの中に意識を落とした。


「おいおい、なんか静かだと思ったが死屍累々だな、こりゃ」


大学の同期である林に呼ばれ文部科学省がある中央合同庁舎第7号館にやってきた谷 久本経産大臣は庁舎の中で精魂果てた文科の奴らを見て思わず声を漏らした。文科の方はそこまで仕事は無かったと思ったが何があったのだろうか、そう思いつつも別にやってやれることは無いのでそのまま林に呼ばれていた会議室の部屋に足を踏み入れる。中には文科省大臣の林のほかに山田法務大臣や榎本国交大臣、安部復興大臣に山之上総務大臣、井上探査大臣(正式に外務省から改名、外務案件は総務省に新設された外務庁に移管された)がいた。


「おう、谷、ようやく来たか」

「呼んでおいて凄い言い草だな、おい」


お互いに軽口をたたきながら席に座った後早速本題に入る。


「お前が来る前に山田さん達と少し話し合っていたんだがな」

「おう、それで?」


急に真剣な眼差しで話始める林をみて気を引き締める。

今回の話が浮かんだのは日ノ出領域外で発見した未確定地点がきっかけだったらしい、彼の地で調査している自衛隊の報告を見て文科の一部の者はその技術力に驚き期待を膨らませたらしくその技術の解明と吸収、ゆくゆくは新たな技術開発の足掛かりにしようと大きくはないが確かにそういう動きがあるみたいだ。これは谷も経産省で似たような事があるので理解はできた、何しろ貿易業を主要としていた日本の経済は既にボロボロでいくら内需が高くても世界経済を相手取り大きくなった日本企業の利益を賄うには小さすぎる。今は計画経済によって持たせているが日本が危機を乗り越えた後日本という小さな市場を巡って企業間の競争が激化するのは眼に見えている。競争を勝ち抜くために必要なのは何か、様々な要素が考えられるが恐らく技術力が重要となってくるだろう。既にその兆候は見えていて各企業相手を抜くために秘密裏に技術研究に力を入れている。


「まぁ、そんな感じで息巻いているわけだがそんな中にあの古代技術、おまけに今の日本の技術力をはるかに超えた超技術の塊であるあの街が出てきた訳だ。民間で競争するにはまだいいさ、刺激になるし何より日本経済にプラスになる。けど国家、各省庁間として考えるともうここいらが限界だと考えている」

「林、それを今この状況でぶち込むわけか?復興開拓政策や道州制以上の爆弾だぞ、それに省庁間の利権やメンツもある。はっきり言って夢物語だ」


林大臣の言いたいことを察したのか谷大臣が彼の言葉を遮る。クローバル化が進んでいた国際社会で日本は生き残りをかけて成長戦略として技術開発や研究に力を注いでいた。政府や省庁がバックとなって民間を支援したり、時には自分たちで進めたりと技術立国の意地にかけて進めていた中で問題が起きた。別々の省庁で似たような研究・開発を進めている事例が出てきたのだ、中には全く同じ研究内容を別の省庁同士がそれぞれやっているものまであった。そんな事を放置しておけば当然起こるのは予算の増加や税金の無駄などの問題である。当時技術政策の関連予算の大半を占めていた文部科学省の林大臣はこれを問題視し政策の遂行を一本化することを提案した結果、かなりあれな事に発展してしまい結局当時はそのままお流れになった。

そんな過去を知っている谷大臣はことさら懐疑的な態度をとる。だが林大臣の意思は固いようで一歩も引く様子はない、そんな二人のやり取りを見ていた安部復興大臣が話に割って入る。


「お二方少し落ち着いて、クールダウンです。谷大臣、おっしゃりたいことは分かりますが今後の事を考えると林大臣の言う通り必要な事と思います。特に復興開拓政策では日本の総力が必要とされます。これは技術面でも同じでこのままそれぞれがバラバラのままで余計なリソースを裂くわけにもいかないでしょう?」

「安部さんの言う通りだな、正直言って法務省の方でも技術向上による規制緩和案などがタブったりして手を焼いている」掩護するように山田法務大臣が話す。

「国交省でも無人航行技術の開発で防衛省と対立していてとっとと終わらせたいので丁度いい機会だとは思うのだがなぁ」榎本国交大臣が遠い目をしながら呟く。

「今後は自衛隊のほかにうちの省も動く、もしかしたら今回のような古代文明を見つけるかもしれん。その時を担当がバラバラになったり奪い合ったりされるのは御免だな」今後を見据えて井上探査大臣が発言する。

「うちも何だかんだで他の皆さんの技術の恩恵を受けていますからねぇ、これで効率が上がるのなら安いものかと」最後に山之上総務大臣がしめた。


ここまで言われると流石の谷大臣もあまりいう訳にはいかない。だがそれでもかなり問題があるのは確かでそのことは他の大臣方も承知のようで・・・


「農林省は分野が分野ですから協力したがらないでしょうなぁ・・・」と山田大臣

「環境省も十五夜さんは賛成してくれるかもしれませんが官僚がどう出るか」追加で話す安部大臣

「防衛省なんか受け持っている役割の関係上難しいのではないですかねぇ・・・」頭を掻きながら榎本大臣

「そもそもやるとして杉本さんが許してくれますかね?あのひと結構気難しいですから」予算面で心配する山之上大臣

「一先ず田中さん辺りに話を通しておいたらいいのではないでしょうか?」この際深く考えることをやめた谷大臣

「あ、それじゃあ俺の方で話を通しておくか、政策面ではうちの省が筆頭だし」携帯を取り出しながら話す林大臣


会議はまだまだ長くなりそうだ・・・

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