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FILE.11

3月22日


会議が始まる前の会議室では開始までの時間に各省庁の者たちがそれぞれの情報についてすり合わせを行っているが今回はいつもよりもやけに慌ただしい空気が漂っている。その空気の中で伊東総理もまた自分の秘書官や官僚の者から話を聞いたりしていて若干疲れ気味、ここ連日会議に次ぐ会議のラッシュで流石に閣僚・官僚ともに疲れがたまり気味で職務にも支障も出ていたため一旦みんな休もうとした矢先にこの緊急会議である。少しぐらい楽をさせてもらいたいが現実はそう甘くないと悟る。


「総理、今回の議題ですがこの報告は本当なのですか?にわかには信じられないのですが」

「山田君か、防衛省の報告だと本当らしい・・・とは言え私も最初聞いた時は信じられなかったがな」


ため息をつきながら総理が答える。対する山田法務大臣はまだ半信半疑のようで西郷防衛大臣に確認を取りに行った。他にも文部省と農林省がお互いに話していたり経産省の者が旧外務省、国交省の方々に何か相談していたりと会議前なのに既に会議のような状況になっている。


「しかし流石にあれは私でも驚きましたな、総理」

「本当ですよ、田中さん、次から次へと・・・本当勘弁してほしいものです」


隣に座った田中官房長に話しかけられてそう返す。今回の議題は例の未確定地点に関することだがその中で特に彼らの関心が向いたのはそこで知性を持った存在を見つけたことだ、既に今までも様々な報告は受けていたが今回は程度が違い過ぎる。ちなみに存在という言葉を使ったのは生命体がどうか分からなかったからだがそれとは関係なしに対話が出来る存在など今までいないと思っていたばかりにその混乱も大きい。


「それで話は変わるのですがあのお方たちはあのままでいいのですか?」

「折角気にしないようにしていたのに余計な事を言わないでくださいよ・・・」


この慌ただしい会議室で全く気にせずくつろいでいるものが総理から見て右の方に二柱ほどいた。どちらも白装束を着ている少女と随分と中性的な青年?・・・アマテラス様とその弟のはずのツクヨミ様である。今回の報を聞きオブザーバーとしてわざわざ足を運んでくれたらしいのだがそれでもくつろぎすぎである。両者共にどこから持ってきたのか温かい茶を飲みながら会議が始まるのを待っている。その前に今では茶葉などの品も市場には出回っていないのだがどこで手に入れたのだろうか・・・本当に謎である。

なんやかんやあったが参加者も揃いようやく会議が始まる。最初に話題に上がったのは調査隊が遭遇したという生体管制機構と呼ばれる存在についてだ、話を聞くところによると対象の人格を数値化、機械への移植を通してのプログラム化して造られた存在だと説明されているが何が何だがさっぱりである。調査隊の者の会話から日本語を会得するほどの知能に一種の人格を持ち合わせているためシステムとしてか一個人の生命体として扱っていいのかが分からない、いやそもそもこの世界に生命体は存在しないという前提ならシステムの一種と考えてもいいはずなのだが、造られた過程的にはどうしても判断しづらい。


「そういう訳でしてアマテラス様の意見を聞きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「あ~うん、こういうタイプがあったか~」


頷きながら納得顔なアマテラス様だが流石にそれでは困るので説明してもらう、まず扱いについてだが今のところはシステムとして扱って問題ないらしい、理由としては魂魄の有無という観点から見ると有しているとは思えないというのが主に上げられる。肉体を捨て乗り換えた時には保ってはいたのだろうがあまりにも長い時を過ごし過ぎた影響により次第にすり減らし人格に関しても一個人の独立した人格からシステム上の人格へと変化しているだろうと説明される。まるで意味が分からない・・・まぁ、もともと謎の部分が多かったのでそれでいいならこの際多くのことは考えない事で全員意見が一致した。もし問題があれば当人から直接意見してくるだろう、随分と他人任せと思えるがそれほど高い思考能力を有していることである。

一番の懸念事項が一応の解決を見せたのでそのまま次の議題である未確定地点の本格的な科学調査についての話し合いに移る。この議題を出したのは文科省の林大臣だった。防衛省経由で届いた情報をもとに研究機関などに分析を行わせている文科省だがやはり現物を見たいという要請が多く来ており対応に苦慮しているらしい。確かに現地での調査の方が効率は上がるだろうが何分自衛隊の輸送力にも限界がある。送るとしても少数になるだろうしそうなると知識に幅広く複数の専門学に精通しているような人物を送る必要がある。そんな人材はそう多くはいないだろうからこれまた難しい問題である。どうしたものかと悩んでいる一同にアマテラス様が調査隊にオモイカネ様を同行させてみたらどうかと提案してくる。なんか神様社会の方でやらかしたらしくその罰を考えていたのでその一環として丁度いいらしい、確かオモイカネ様は知恵の神として知られ学問の神としても崇められていることから適任ではある。そういう事ならとその提案に乗らせてもらうことにした一同、肝心の人材については田中官房長が一人だけあてがあるといっていたので任せることにした。そのあとは比較的順調に進み会議も終盤に差しかかった時、最後の議題を防衛省の方から出される。


「え~最後の議題なのですが現地の隊員を通して生体管制機構のアンティアさんから我が国の元首と話をしたいという提案が来ております」

「!!!」


これはまた面倒なものが来た、それよりも何故それを早く言わなかったと伊東総理が問いただすが西郷防衛大臣も報告が会議の直前にきた事を中心に説明する。それは置いときこれは少々対応に困る、話をするにもまさか電話で済ませるという訳にもいかないだろうからこちらから出向く必要がありそうだが国の状況が逼迫している中で総理が国外へ行くのはあまり感心できるようなことではない。そのことを心配していると西郷大臣が思い出したように許可が得られれば向こうからこちらへ出向く用意がある旨を追加で報告してくる。だからそういう大事なことは早くしろと・・・変なところで杜撰な気がするが大丈夫か?防衛省・・・その前にシステムなのに持ち場離れていいんだとも思ったりする。

そう言う事なら断る理由もないため会談を許可する。ついでに会談相手の来訪に合わせて今回の調査に向かわせた隊員には休暇という名目で本土への帰国を指示して置く、聞くところによると調査に当たってなんか危険な目にあったようなのでその労いの気持ちを込めての指示である。

最後の議題も無事に片付きみんなが解散している中、田中官房長は丁度退室しようとしていた林大臣を呼び止める。少し話が出来ないかという事だったので昼も近かったこともあり国会食堂で席に着く二人と一柱・・・ツクヨミ様が同席である。田中官房長は塩おにぎりと緑茶、林大臣はお茶漬けを注文してツクヨミ様はセルフサービスの水を注ぐ中で田中官房長がおもむろに口を開く。


「前に相談を受けていた月の件なんだがな」


官房長の話にあ~と思い出すように林大臣が返事をする。正直言って今の今まですっかり忘れていた、確か谷の奴に半ば押し付けられて困ったので田中さんに任せたんだっけなと心の中で呟く林大臣に田中官房長が話を続ける。あの後すぐ偶然夜のジョギング中に知り合ったツクヨミ様に電話で経緯を踏まえて相談していてくれていたのだそうだ。色々とツッコミを入れたい衝動に駆られる林であったがそこは気にしたら負けかと何とか踏ん張る。

それで肝心な月の件についてだがもう面倒だからそのまま使っちゃえばいいじゃんという結果に落ち着いたのだそうだ、あえて言えば恒星や惑星に衛星の総称としてつかえばいいのではと提案してくる。例に挙げるとすれば多くの品種を持つ牛を“ウシ”と大衆が話すような感じであろうか総称というか愛称の方が近い。それなら問題もそこまで大きくないかなと思う林大臣だがそこで各恒・惑・衛星にそれぞれの名称をつけなければならない必要性に気付く、確か星の命名は国際機関が執り行っていたはず・・・あれ?これ日本で新しく設立させないといけないのでは・・・などと色々思案している大臣を見ながら食事を済ませた田中官房長が席を立つ、既にツクヨミ様は帰っているのでここに居ても仕方ないためこれから未確定地点に派遣する調査員候補者に会いに行つもりである。昼食代を林大臣に付けとくのを忘れていない事を確認した後秘書官にヘリの手配をしておくように電話する田中官房長、奢らせられるはめになった林大臣の声が響くのはそれからしばらくしてのことである。

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