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第19話:最終回


『魔導原生林ダンジョン』は、

時間の経過とともに凄まじい地獄絵図と化していた。


不眠不休の疲労、

降り注ぐ雨、急激な冷え込み、

そして暗闇から牙を剥く魔物の襲撃。


過酷な環境に耐えかね、

全体の半数以上のチームが次々とリタイアの信号弾を上げ、

失格となっていった。


二日目の昼過ぎ。


俺たちは進路を阻む最大の難所にぶつかっていた。


目の前にそびえ立つのは、底が見えないほど深い谷と、

向こう岸へと続く崩れかけた一本の細い丸太橋だ。


足元からは冷たい谷風が吹き荒れ、

渡るどころか立つことすら危うい。


「な、何よこれ……!? こんなのどうやって突破すればいいのよ!?」


メイビスが谷底を覗き込み、

青ざめた顔でツッコんだ。


「フッ……情けないですね、メイビス。足元をしっかり見れば……ひえぁっ!?」


カインが得意げにメガネを持ち上げたと思ったら、

濡れた岩に足を滑らせ、勢いよく谷底へと真っ逆さまに落ちていった。


「「「カインーーーっ!?」」」


メイビスとメルの悲鳴が谷間に響き渡る。


「大丈夫! 任せて!」


俺は崖の端へ跳ぶと、

そのまま谷底へ向かって飛び降りた。


落ちていくカインの服の首元を「そっと」掴んで空中で抱きかかえると、

反対側の崖の壁面をトン、トンと軽く蹴り上がり、

何事もなかったかのように元の場所へと着地した。


「ほら、カイン君。怪我はないかい?」


「ひ、ひぃぃ……た、助かりました……死ぬかと思いました……」


安堵で涙目になっているカインを地面に下ろすと、

俺は三人に向き直った。


「よし、橋を渡るのも大変そうだし……みんなを担いで、あっちの岸まで跳んじゃうね!」


「ちょっと待ちなさいイリス! この谷、百メートル以上はあるのよ! 跳べるわけ――きゃああああっ!?」


全員の荷物と三人まとめて抱え上げた俺は、

地面を静かに蹴って対岸へと大きく跳躍した。


風を切り、あっという間に対岸の芝生へ着地する。


「……ふう、無事に渡れたね!」


「な……なんで跳べちゃうのよ……」


メイビスは開いた口が塞がらない様子だったが、

安心したのかその場にへたり込んだ。


◇


過酷な環境により、

エリートと持て囃されていたチームすらも内紛を起こして脱落していく中、

俺たちは着実に歩みを進めていた。


だが、三日目に入る頃には、

三人とも疲労と睡眠不足で一歩も動けない状態になっていた。


「さあ! あと少しでゴールだよ! みんな、しっかり掴まっててね!」


俺は三人全員を落ちないように抱え、

背中には全員分の超巨大なリュックを背負って山道を走り出した。


「キャァァァァァっ!? 速い! 速すぎるわよイリスぅぅぅっ! 風圧がぁぁぁっ!」(メイビス)

「ひぃぃぃぃぃっ! でも全然揺れないぃぃぃっ!」(カイン)

「すやすや……むにゃむにゃ……お肉……美味しい……」(メル)


三人を絶対に落とさないよう、

首や腰に負担がかからないように力加減を気をつけて走る。


道中に現れるトラップや魔物も、

片手でそっと受け止めては優しく脇へ退かしながら、

破竹の勢いで突き進んでいった。


さらに、道中で動けなくなっている他のチームを見かけると、

俺は足を止めて声をかけた。


「大丈夫ですか? 水、どうぞ! あっちの岩陰なら風が防げますよ!」


「え……お、前……演習場を壊したあの……! なんで俺たちを助けるんだ……!?」


「だって、みんな頑張ってきた仲間じゃないですか。諦めないでくださいね!」


俺は励ましの言葉を残し、

再び風のように走り去っていく。


助けられた受験生たちは、

呆然とその背中を見送り、目頭を熱くした。


「恐ろしい奴なんかじゃない……あいつは……俺たちを救いに来たんだ……!」


いつしか噂はダンジョン全域へと広まっていた。


どんな極限状態でも疲れず、眠らず、

仲間を絶対に見捨てず、他人にまで手を差し伸べる存在。


当初抱かれていた恐怖や偏見は、

七十二時間の過酷なサバイバルを通じて、

頼もしすぎる守護者への信頼へと完全にひっくり返っていたのだ。


◇


そして――運命の七十二時間目が訪れた。


ダンジョンの出口である『栄光の門』。


そこには、試験官たちと、

すでに失格となった受験生たち、

そして学園の教員たちが詰めかけていた。


「制限時間まで、あと三分……! 現在の通過チームはわずか三チームのみ!」


試験官が時計を見つめ、緊張した声を上げる。


過酷すぎる試験内容により、

合格率はわずか数パーセントという惨状だった。


「やはり、今年の試験は厳しすぎたか……特にあの寄せ集めチームなどは、初日で全滅しているだろうな……」


教員たちが諦め顔で囁き合っていた、その時だった。


ズズズズズ……!


ダンジョンの奥から、猛烈な土煙を上げて接近してくる影があった。


「な、んだ!? 魔物の暴走(スタンピード)か!?」


試験官たちが慌てて武器を構える。

だが、土煙の中から現れたのは――。


「間に合ったぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」


全員分の超巨大リュックと、

仲間三人全員を身体に優しく抱えた、俺の姿だった!


俺はゴールラインの手前でピタリと停、抱えていたメイビス、カイン、メルを芝生の上にそっと降ろした。


「ゴール! 全員無事です!」


俺は晴れやかな笑顔で手を挙げた。


「……あ」


試験官の手から、ストップウォッチがポロリとこぼれ落ちた。


メイビス、カイン、メルの三人は、

傷一つなく、衰弱もせず、

俺のケアのおかげで全員ピンピンした状態で着地したのだ。


「イリス……っ!」


メイビスが目元を拭いながら、俺の首に抱きついてきた。



「アンタって本当に……最高のバカで, 最高の仲間よっ!!」(メイビス)


「イリスさん……! ありがとうございました……っ! 僕、最後まで諦めずにいられました……っ!」(カイン)


「イリス……お腹空いたけど、最高に楽しかったよ……!」(メル)


三人は俺を囲み、笑顔で喜びを分かち合った。


観客席から、そして失格となった他の受験生たちから、

一斉に割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。


「すげぇぇぇぇぇっ! 全員完走だぁぁぁぁっ!」


「イリス! お前最高だぞぉぉぉっ!」


「ありがとうイリス! 俺たちに水と場所を教えてくれてありがとうっ!」


惜しみない称賛の嵐が降り注ぐ。

俺は驚いたように周囲を見回したあと、

みんなの笑顔を見て静かに胸を撫で下ろした。


疲れることもないこの体だけれど、

みんなと繋がれた喜びで心はずっと温かかった。


遠くの塔の上から、

その光景を静かに見つめる老人がいた。

学長マザー・ボゼルだ。


「ほっほっほ……素晴らしい。実に素晴らしい立ち回りじゃ。圧倒的な強さを誇りながら、それに奢らず、周囲を慈しみ、最後まで全員を導いた……。合格じゃな、文句なしのな」


老人は満足そうに頷き、静かに姿を消したのだった。



最後まで読んでくださった読者の皆様、本当にありがとうございます!


本当はイリスとエレナのこれからの物語や、まだまだ書きたいエピソードがたくさんありました。

ですが、自分の力不足(文章表現や展開の組み立てなど)もあり、このような形で一度区切らせていただきます。本当に申し訳ございません。


これまでポイントやリアクションなどで応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

(評価をいただけた時は、本当に泣きそうになるくらい嬉しかったです!)

もっと文章力や執筆力を磨いて、また新しい物語(あるいはパワーアップした彼らの物語)をお届けできるよう精進します。


これからもファンとして応援していただけると嬉しいです。

本当にありがとうございました!!


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