断罪の咎め十一は全部、わたくしが本の裏へ貼って隠した分です——裏打ちをやめました。冬を一度でお宅の本だけ反ります
【広間の席・咎め十一】
「第一。館の紙を、許可なく裏へ貼り、無駄にしたこと」
十一。ずいぶん数えましたのね。北側の三冊がもう反っていることは、一度も数えませんのに。
ヴェロニク・デュプレは、長卓の端で指を重ねた。正面ではフェリクス・モーブレーが紙を読み、その左右では親類たちが、よく整った同じ笑顔を並べている。あれを裏打ちするなら一人三枚、コンスタンス・モーブレーの笑顔だけはひび割れ防止に五枚。館の紙がいくらあっても足りない。
「はい」
返事をすると、親類の一人が鼻で笑った。モーブレー伯爵はそれを静粛への同意と受け取ったらしく、次の行へ目を落とす。仕事を早める方は、都合のよい解釈まで早い。
広間の北壁には、先月仕上げた献呈本の控えが積まれていた。金をかけた表紙はまっすぐ、箔押しの家紋もまっすぐ。その下で、三冊の背だけが、猫の爪ほどわずかに浮いている。
「第六。裁ち落とすべき書き損じを、綴じ場の棚へ溜めていたこと。館の見苦しい記録を残す行為だ」
書き損じには、日付と部屋と湿り具合が入っている。急かされて乾ききらなかった紙がどちらへ逃げたか、その逃げ足を何枚で押さえたか。見苦しい記録ではなく、たいへん働き者の記録ですけれど、表紙に金箔がなければ紙は紙、と。
「はい」
コンスタンスは肩掛けの端を直した。薄紫の刺繍へ指輪が引っかかり、金糸が一本だけ持ち上がる。
「書き損じを取っておくなんて。勿体ない」
その肩掛け一枚で裏打ち紙が千枚は買える。頁をお開きにならない方ほど、紙より肩がお高くつきますこと。
フェリクスは残りを淀みなく読み進めた。四年間に増えた咎めは十一。ヴェロニクが伯爵家付きの製本屋である父の代わりに綴じ場へ入り、納期のたびに増やしたらしい。咎めというものは便利だ。手を動かした者の数だけ育ち、命じた者の欄はいつでも空白になる。
「第十一。指示した仕上がりと異なる手順を、再三用いたこと。よって本日より、君を綴じ場の仕事から外す。十日後に引き渡しを済ませ、それ以降は手を触れるな」
「はい」
三度目で、フェリクスは紙を置いた。十一まで数え切った顔には、納期を一日縮めたときと同じ満足があった。
ヴェロニクは一礼し、席を離れた。扉へ向かう途中でも、北側の書棚が視界へ入る。三冊ではない。いちばん下の一冊も、もう背の端を持ち上げていた。
四冊。冬までなら、あと七枚。
もっとも、手を触れるなとのご命令である。十一も咎めを持つ娘が、十二番目を増やしてはいけない。
* * *
【十日後・綴じ場】
背へ指を当てると、革の下で紙が小さく押し返した。ヴェロニクはそこで手を止め、紙束の向きを半分だけ変える。窓際で乾いた紙は素直だが、床近くで一晩過ごした紙は、上品ぶっていても腹に湿りを抱えている。人も紙も、広間へ出る前だけはよく澄ました顔をする。
「なぜ枚数が違う」
新しい担当者が、開いた本と手本を見比べていた。彼の本には裏へ同じ紙が二枚ずつ、ヴェロニクの本には一枚、三枚、二枚。表だけなら、なるほど不揃いの罪人である。
ヴェロニクは一冊を閉じ、親指で背を押した。すぐ戻る。隣の一冊は、押してからひと呼吸遅れて戻る。そこへ薄い一枚を滑らせると、遅れが消えた。
「こちらは三枚、お使いくださいませ」
「全部二枚で揃えるように言われている」
「では、二枚で」
たいへん結構。紙の都合より指示の都合。冬になったら暖炉へ命令書をくべて、部屋の湿りにも「全部同じに」と申しつければよろしい。
昼になると、隅の台へ粥が運ばれた。引き渡しに来ただけの者は後回しだったらしく、表面には薄い膜が張っている。匙を入れると、冷えた粥は本日いちばん頑固な紙よりきれいに割れた。これは裏打ち四枚でも救えない。
フェリクスが綴じ場へ入ってきた。新しい担当者の本を一冊持ち上げ、ヴェロニクの手本と表紙を並べる。
「表が同じなら、仕上がりも同じだ。次からはこの手順で早めろ」
「承知しました」
新しい担当者は胸を張った。ヴェロニクは粥を飲み込み、預かった紙を寸法ごとに揃えた。切れ端、糊、革、書き損じ。館の物は館の物。彼女が自分で買い足し、綴りにも載せず裏へ忍ばせてきた薄紙だけは、空の箱へ戻す。
最後の一冊が口を開けて待っていた。右の紙は湿りが強く、二枚では春まで持たない。三枚なら持つ。指がいつもの箱へ伸びかけ、空の中を一度撫でた。
ヴェロニクは二枚だけ置いた。ご命令どおり、表は同じになった。
綴じ場を出る前、棚の背を端から端まで見た。必要な枚数が勝手に浮かぶ。六、四、九、三。見なければよろしいのに、目というものは退職の仕方を知らない。
ヴェロニクは扉を閉めた。数えた枚数は、誰にも渡さなかった。
* * *
【一月後・献呈先の書庫】
最後の運搬までが引き渡しです、とフェリクスは言った。なるほど、外された者の最後はよく伸びる。乾かぬ紙より伸びる。ヴェロニクは荷車から本を下ろし、献呈先の書庫へ一冊ずつ並べた。
濃紺の革、銀の箔、同じ高さの背。窓から射す午後の光の中では、どれも見事に同じだった。今日だけなら。
「数は合っていますか」
「十一冊です」
係は綴りへ印を付け、開き方を確かめて次の箱へ移った。ヴェロニクは何も言わない。頁を開いてくださいませ、背を押してくださいませ、春まで待ってくださいませ。頼まれていない言葉は、頼まれていない裏打ちより高くつく。
日が落ち、運搬の者たちが帰ったあとも、一冊だけ背が棚から浮いて見えた。昼には爪ほどだった隙間が、蝋燭の光を細く噛んでいる。北壁から三番目。ああもう、そういう顔をしてこちらを見るのは卑怯ですわ。
ヴェロニクは周囲を確かめた。係の机には鍵、窓の外には荷車、廊下の先には誰もいない。帰るなら今。たいへん正しい。正しさには背を押さえる指がないだけで。
一冊を抜いた。
革を傷めぬよう糸を外し、浮いた背を指でなぞる。左へ逃げた紙に合わせ、持参していた薄紙を一枚。もう一枚を半分だけ。多すぎれば重くなり、少なければ冬に負ける。指先が戻り方を確かめ、考えるより先に糊を取った。
何をしておりますの、わたくし。咎め十二、十三、十四。夜の書庫へ残る。頼まれていない紙を使う。ついでに一冊を助ける。十一で済ませてくださったフェリクスは寛大だったのかもしれない。
貼り直し、糸を戻し、表紙を閉じる。背を押すと、今度は指と同時に紙が戻った。ヴェロニクは一度だけ開き、頁が卓へ沿うのを見た。
見返しの隅は空白だった。いつもどおり、作った者の名はどこにもない。館の名だけが献辞の上で大きく踊っている。
ヴェロニクは書き損じへ日付を書き、吸収した狂いと薄紙の枚数を小さく残した。それを持ち帰る箱へ入れ、本は元の場所へ戻す。直したとも、残したとも告げなかった。
十一冊はまた同じ顔で並んだ。少なくとも、今夜は。
* * *
【冬入りの広間】
「なぜ一冊だけ違う」
冬の朝、呼び戻された広間で、フェリクスは机へ両手をついていた。背後の北壁では、献呈前に残した控えの本が、もう澄ました顔をやめている。背は浮き、表紙の端は持ち上がり、金の家紋が斜めに光っていた。
その中で、書庫から検めのため戻された一冊だけが、卓の上で平らに開いている。
「同じ材料、同じ表紙、同じ日に納めた。同じ手順だったはずだ」
最後だけ違います、と答えれば話は早い。早い話を好む方には、少し遅れて届くものの方がよろしい。
ヴェロニクは鞄から一枚を出した。卓へ置いたのは、それだけだった。端が欠けた書き損じ。日付、部屋、紙の向き、吸った湿り、加えた薄紙の枚数。四年分の箱から持ち出した、たった一枚。
コンスタンスが肩掛けを寄せる。
「こんな切れ端が、何だというの」
ヴェロニクは開いた一冊へ手を添えた。
「わたくしが貼って隠した分でございます」
フェリクスは書き損じを拾った。目が上から下へ動き、もう一度、開いている本へ戻る。
「では、ほかの本にも同じことをすればいい。必要な紙の数を伝え、直せ」
「必要な数は、一冊ごとに違います」
「ならば数えればいい」
広間の親類が小さく笑った。そうですとも、数えればよい。咎めは十一まで数えられた。紙も、冬も、指の戻りも、誰かが同じように数えると思っていらっしゃる。
ヴェロニクは書棚を見上げた。北側から順に、どの本へ何枚いるか。いつもなら、背を見た瞬間に数字が並ぶ。けれど今は、ひとつも拾わなかった。
四年間、朝いちばんに書棚を見た。食事より先に湿りを測り、急げと言われた日の歪みを夜に戻した。名も残さず、代価も載せず、家の本なら守るものだと指を動かした。
「わたくしは、四年、この家の冬を数えてまいりました」
声を張る必要はなかった。卓の一冊は開いている。書棚の本は開かない。その差だけで、広間には十分すぎるほど場所を取った。
「ですが、もう数えません」
書き損じから手を離す。紙一枚は卓に残り、ヴェロニクの指だけがこちらへ戻った。
ああ、軽い。四年分とは、裏へ貼っているあいだだけ重いものだったのですわね。
親類の笑い声が途切れた。コンスタンスは肩掛けの端を直したまま、反った本から目を逸らす。フェリクスの口元にも、広間の誰の顔にも、先ほどまでの笑顔は残っていなかった。
ヴェロニクは一礼した。今度こそ、北側の書棚を数えずに扉を出た。
* * *
【十日後・紙商の店先】
「開いてごらん」
サイラス・ペンローズは慰めを言わなかった。店先の作業台へ一冊置き、顎で示しただけである。紙商のくせに愛想を一枚も貼らない。たいへん好ましい。不必要な飾り紙は、剥がす手間まで請求したくなる。
ヴェロニクは本を開いた。途中で背が突っ張り、頁の右側が持ち上がる。もう少し力をかければ開くが、糸か紙が先に音を上げる戻り方だった。
サイラスさんは別の一冊を重ねた。今度は薄紙が入っている。けれど一律に厚く、中央だけが重い。ヴェロニクは背を押し、紙の遅れを指で拾った。
「こちらは二枚減らして、端へ半枚ずつですわ。こちらは逆に一枚。窓際へ置くなら、春前にもう一度——いえ、置き場所まで含めますと、月ごとに見た方が安く済みます。最初に一気に貼る方がお得に見えますけれど、見えるだけで、お得はたいてい裏側で行方不明になりますの」
「いくらだ」
「紙代と手間で、一冊につき——」
「月で言え」
月。そんな数え方をされたことはない。伯爵家では手間は娘の指から自然に湧くものだったから、値段を付ける欄そのものがなかった。空白の欄へ数字を書けと言われると、急に自分の指が上等な品に見えてくる。困りましたわ、十本しかありませんのに。
ヴェロニクが金額を口にすると、サイラスは本を裏返し、背をもう一度押した。
「若い頃、表だけ見て仕入れた本を、一冬で全部駄目にした」
それだけ言って、開いた頁をヴェロニクへ向ける。
「君の裏打ちに、月六十枚で足りるか」
足りる。足りるどころか、冷えた粥なら何杯買えるでしょう。いや、粥を基準にしてはいけない。あれは食事というより、匙の形をした忍耐試験だ。
「足ります。ですが紙代が上がれば、別にいただきますわ」
「そうしろ」
サイラスは綴りへ六十と書いた。慰めも、伯爵家への悪口も、気の毒だったという顔もない。開く本へ値が付き、開かせる手へ月の金額が付いた。ただそれだけで、ヴェロニクの空腹は急に礼儀を捨て、腹の奥で大きく鳴った。
「食べろ」
店の奥では、紙を運び終えた係たちが鍋を囲んでいた。豆と肉の煮込みから湯気が立ち、匙を入れればとろりと崩れる。割れない。冷えていない。裏打ち不要の完璧な仕上がり!
ヴェロニクへ渡された椀は、皆と同じ鍋からよそわれたものだった。手のひらへ熱が移り、向かいの者がパンをちぎって寄越す。
「明日、六冊見る」
「食べ終えてからにしてくださいませ、サイラスさん」
「五冊」
「減らせばよいという話ではございません」
鍋の向こうで肩が揺れた。サイラスは笑わず、煮込みをもう一匙、ヴェロニクの椀へ足した。
* * *
【春先・献呈の検め】
献呈先の係が表紙を開こうとすると、本は途中で止まった。もう一度、今度は両手で押す。頁は中央で山を作り、背の革が低く鳴った。
「ここまでです」
係は手を離した。机の上には、冬を越したモーブレー家の本が並んでいる。濃紺の革も銀の箔も美しい。美しいまま、開かない。飾り棚なら満点、本なら採点を辞退したい仕上がりだ。
フェリクスは一冊を引き寄せ、両手で押さえた。持ち上がる頁に手の甲の筋が浮く。コンスタンスは肩掛けを整え、卓の端に積まれた反った本を見ない。
(本など、表に上等な紙さえ貼れば——)
そこでフェリクスの目が、隣の一冊に止まった。
係がそれを開く。表紙は同じ濃紺、箔も同じ銀。しかし頁は抵抗せず、机の上へ静かに沿った。冬の夜、ヴェロニクが戻した一冊だった。
フェリクスの両手から力が抜けた。続きを口にする者はいない。開く一冊と開かない十冊が、代わりに全部言っていた。
係は見返しを確かめ、背を押し、もう一度最初から最後まで頁を送った。
「この一冊を直した綴じ師の名は」
「モーブレー家の綴じ場で——」
「家名ではなく、綴じ師の名です」
フェリクスの返事が止まる。コンスタンスの指が肩掛けの金糸を一本、さらに引き出した。
書庫の入口で検めを見ていたサイラスが、綴りを閉じた。
「以後の注文は、別の綴じ先へ回す」
「待て。新しい担当には改めて手順を——」
「開かない」
サイラスはそれ以上を足さなかった。係が注文札をモーブレー家の束から抜き、別の綴じ先へ渡す書類の上へ置く。紙の擦れる小さな音で、次の季節の注文が伯爵家から離れた。
ヴェロニクは入口近くで、その手続きを見ていた。勝手に口元が上がりそうになり、頬の内側を噛む。いけません、上品に。月六十枚を払ってくださる綴りの前ですもの。もっとも、心の中では両手を上げても誰にも請求されない。
係は開いている一冊を指した。
「名を記録します。ヴェロニク・デュプレでよろしいですか」
「はい」
今度の一語は、咎めを受け取るためではなかった。サイラスが注文札をヴェロニクの前へ滑らせる。
「三冊。月内」
「紙を見てからですわ、サイラスさん」
「見ろ」
ヴェロニクは札を受け取った。フェリクスの押さえた本ではなく、滑らかに開いた一冊の隣で。
* * *
【翌春・新しい綴じ場】
見返しの隅へペン先を置き、ヴェロニクは止まった。書く場所は小さい。けれど四年間ずっと空白だった場所より、今日はずいぶん広く見える。
ヴェロニク・デュプレ。
一画ずつ入れる。墨が紙へ沈み、誰の家名にも隠れず残った。背を押し、表紙を開く。頁は机へきれいに沿い、隅の名も一緒に現れる。
「できたか」
「いま、できましたわ」
サイラスは本を開き、閉じ、もう一度開いた。祝いの言葉はない。代わりに綴りへ支払額を書き、銀貨を数えてヴェロニクの箱へ入れる。六十枚に、追加の三冊分。紙より正直な音がした。
新しい綴じ場では、窓の位置も棚の高さもヴェロニクが決めた。床際へ紙を置かず、乾かす本には急げと怒鳴らず、急ぐ依頼には急ぐ値段を付ける。見栄も湿りも無料では吸わない。これぞ文明。これぞ綴り。人類は代価を発明した時点で、もう少し祝われてよろしい。
昼には奥の鍋から湯気が立った。豆と肉の煮込みに今日は根菜も入り、係たちが長卓へ椀を並べる。ヴェロニクは仕上げた本を高い棚へ避難させ、自分の椀を両手で包んだ。
「これですわ、綴じ場は温みが命ですのよ。冷えた床では、人のほうが先に反りますもの」
「食べろ」
「サイラスさんは月六十枚で単語まで節約なさいますのね」
「冷める」
それはいけない。煮込みに裏打ちはできないのである。
匙を入れたところで、表の戸を叩く音がした。係が出て、すぐ戻る。
「モーブレー伯爵がお見えです」
ヴェロニクは匙を置いた。煮込みの湯気は待ってくれない。用件が長ければ、伯爵へ冷えた分を請求したいところである。
門前にはフェリクスが一人で立っていた。以前より簡素な外套を着ていたが、声は広間にいた頃と変わらない。
「ヴェロニク。家へ戻れ」
「ご注文でございますか」
「注文ではない。君はもともとモーブレー家の綴じ場にいた。デュプレ家が代々務めた役目でもある。以前と同じように本を見ればいい」
以前と同じ。便利な言葉だ。値段の欄も、責任の欄も、急がせた者の名も、ぜんぶ白紙へ戻せる魔法の布。裏打ちに使えば一枚で館が包めそう。
「冬までに直すべき本がある。必要な紙は用意する」
「お引き受けいたしません」
「家の事情を知っているのは君だけだ。新しい者へ教えるだけでもいい。費用なら話し合う」
費用は話し合う。仕事は戻れ。責任は知っている者が持て。たいへん見事な綴じ方である。すべてヴェロニクの背へ縫い付けるつもりだ。
彼女は署名を入れたばかりの本を抱いた。開けば、見返しの隅に自分の名がある。指はそこで一度だけ止まり、門の向こうへ本を向けた。
「こちらの名をご覧になりますか」
「今は家の本の話をしている」
「ええ。ですから、お返事は同じです」
ヴェロニクはフェリクスをまっすぐ見た。
「わたくしが貼って隠した分でございます」
フェリクスの視線が、本の隅の名へ落ちた。以前の役目も家名も、その小さな文字を覆わない。
ヴェロニクは一礼し、門を閉めた。費用も、冬も、反った本も、こちら側へは入れなかった。
綴じ場へ戻ると、煮込みにはまだ湯気があった。サイラスが椀を鍋のそばへ移しておいたらしい。たいへん高く買っていただいている気もするし、単に冷めた料理を嫌っているだけかもしれない。そのあたりは紙より読みにくいので、勘定へ入れないことにする。
表から、献呈先の係が新しい本を受け取りに来た。見返しを開き、隅の署名を確かめる。
「ヴェロニク・デュプレさん、この一冊を開いてください」
名を呼ばれ、ヴェロニクは本へ手をかけた。
表紙が開く。頁は春の卓へ、まっすぐ沿った。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
またどこかでお目にかかれましたら。




