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第九章

第九章 ~過去と影~


新之助は青龍を倒し、俺は朱雀を倒す事が出来た。新之助は白虎や甚八、ちびや市太郎に勇気をもらい打ち負かす事が出来たのだ。そして俺も、この時代の人々からの笑顔と励ましに勇気をもらった。俺たちは誰かしらの力によって支えられているという事を実感しながら歩き続けた。きっと大上歳善はこの林を抜けた奥にいる。体は傷だらけであったが、足取りは決して重くはなかった。

少し歩くと、開けた明るい場所へとたどり着いた。そして目の前には威厳を感じる佇まいのお堂が建っていた。


新之助 「きっとこの中に菊姫様が囚われているに違いあるまい。どうする、せいきち?正面から攻め込むか?」


せいきち 「そうだな…。これまでの刺客の他に、もうこざかしい罠や敵もいないだろう。きっと大上も、ここまで来たのならば、後は正々堂々と戦う覚悟だろう。」


甚八 「準備はいいですか?」


新之助 「あぁ、行こう!」


一人一人が改めて気を引き締め、お堂の仏殿へと入っていった。一歩踏み入れると、そこは先ほどまでの雰囲気とは別物で、まるで神の聖域にでも入り込んだような神聖な空気に包まれていた。そして目の前には、神々しく光輝く観音菩薩像が俺たちを見下ろしていた。


せいきち 「ここは…いったい…」


外の光を遮断し、無数のろうそくの灯りだけで照らされた部屋は怪しげであり、神秘的にも感じる。そして、その灯りで浮かび上がる観音菩薩像の足元に忍装束を纏った大上の姿があった。


大上 「よくぞここまで参った。お主らなら必ずや来ると思っていた。」


せいきち 「お菊殿はどこに居る!無事なのかっ?」


大上 「安心せい。奥の間におる。」


新之助 「悪あがきはもうお終いだ!菊姫は返してもらうぞっ!」


大上 「新之助も来たのか。少しは剣の腕を磨いてきたのか?坂田八雲を倒した程度では、儂に触れる事も出来んぞ。」


新之助 「ふざけやがって!だったら一発お見舞いしてやるよっ!くらいやがれっ!」


新之助は大上の挑発に乗ってしまい、後ろ姿の無防備な大上に突っ込んでいってしまった。


せいきち 「よせっ!新之助!」


新之助 『神道一刀流、神道突牙・・・ざ・・・うっっ!?』


まるで時が止まったかのように、新之助の素早い動きが止まった。そして、新之助の足元には、一滴また一滴と、真っ赤な血が床を悲痛に染めていった。いったい何が起こったのか分からなかったが、新之助が倒れた瞬間に、その理由は明らかとなった。

大上は背を向けたままの状態から一瞬で抜刀し、背後に迫る新之助の腹を貫いていたのだ!まるで背中に目があるかのように、確実な間合いであった。


新之助 「うそ…だ…ろ…」


せいきち・甚八 『新之助ーっ!!』


大上 「だから言ったであろう、儂に触れる事も出来んとな。」


せいきち 「甚八!早く手当てをしてやってくれ!」


大上 「神道一刀流も極めた人間からしてみれば、新之助の動きを見切る事など容易い事。自分の力を過信し相手の力量を見落とせば命取りになるぞ。」


せいきち 「あんたに神道一刀流の何が分かると言うのだ!確かに新之助はあんたの無防備な姿に油断してしまった。ただそれだけの事だっ!」


大上 「・・・ならば、試してみるが良い…お主の神道一刀流とやらを!」


俺は渾身の力で大上に飛び掛かっていった。


せいきち 『風伯一刀斬!』


大上 「甘いぞ!せいきち!風伯一刀斬!!」


せいきち 「なにっ!?」


『ガキーンッ!』


なんと大上は、俺と同じ神道一刀流を使い弾き返してきたのだ。


せいきち 「なぜ、あんたがこの技を…」


大上 「言ったであろう、神道一刀流を極めた人間とな!」


せいきち 「まさかっ…あんたは忍の頭領ではなかったのか!?それに、神道一刀流は限られた者にしか受け継がれなかったはず…」


大上 「その通りじゃ。だが儂は神道一刀流を受け継いだ。何故だか分かるか?」


せいきち 「・・・」


大上 「儂がまだ若き侍だった頃、家康公が天下人となり、豊臣家末裔の家臣であった儂は徳川家への忠誠の証として徳川家家臣と相成った。」


【儂は城内警護役として下働きをさせられる毎日を過ごしていた。来る日も来る日も、儂は天守に居る家康公を下から見上げる事しか出来んかった。ある日こと、家康公が離れにある稽古場に入るという事で、警護役の儂が道場の警護に任命された。道場は高い垣で囲まれており、身分の低いわしらは中に入る事すら許されんかった。だが、徳川への忠誠心がまだ低くかった儂は、どうしてもこの目で家康公の強さを見たかった…。そして、垣の周りを歩いている時に、唯一の隙間がある所を見付けたのだ。覗き見が見付かれば処罰は免れん事は分かっていた。だが、儂は死罪覚悟の上で覗いてしまったのだ。すると、家康公は広い中庭に置かれた数本の巻藁に囲まれ、据物斬りをする所であった。儂はまばたきをするのも忘れるくらい見入っていた。そしてその瞬間はいきなり訪れた。一瞬にして全ての巻藁を真っ二つに斬ったかと想うと、高く飛び上がり刀を一振打ち付けると、なんと巻藁は木っ端微塵に砕け散ってしまったのだ。儂はその姿に一目で惚れてしまった。それからは、家康公に憧れ、ひたすら追い続けるように修行に精を出した。ずっと目に焼き付いて離れんかったのだ。そしてある日、城内で日頃の鍛練を披露するための練習試合が開かれた。もちろんその場には家康公も観覧する訳だ。これは儂にとって好都合であった。やっと家康公に会えるのだからな。儂はひたすら試合に勝ち続け最後まで残った。そして、最終試合で家康公の太刀筋を真似て見せたのだ…。


家康公 「お主、名を何と申す?」


大上 「大上歳善でございます。」


家康公 「して、お主のその太刀筋の流派は何処で学んだのだ?」


大上 「恐れながら申し上げます!私は警護役を仰せつかりながら、先日の上様が道場での稽古を盗み見してしまいました。申し訳ございません!ですが、上様の太刀筋を見て私は一目で惚れ込んでしまい、毎日上様のような武士になれるよう今日まで修行に励んで参りました。死罪は覚悟の上、どうかお願いでございます、私目にあの流派を教えては頂けないでしょうか!」


家臣 「貴様!盗み見とは不届至極!許されん所業なるぞ!奴を捕らえよ!」


家康公 「待てっ!…大上歳善よ、盗み見るとは褒められんが、だが、お主の太刀筋は見事であった。お主には剣術の才能がある。それを潰してしまうのは勿体ない。警護役とならば尚更の事だ。幕府の為、そして庶民の為に尽くすのであれば、余の元へ参れ。直々に教えてしんぜよ!」


大上 「ありがとうございます!」


それからは家康公の指導を受け、神道一刀流の腕を磨く修行の毎日であった。そして儂はとうとう神道一刀流を手にしたのだ。だが、それと同時に家康公はこの世を去ってしまった…。結局、儂は家康公を越える事は出来んかった。だが儂は家康公を尊敬し感謝しておる。このまま徳川幕府の一人として人生を全うするはずじゃった。だがそんなある日、偶然にも宝物庫で見付けてしまったのだ。信長公から代々引き継がれて、我、豊臣家末裔の家宝である、そう…あの軍配をだ!天下分け目の戦にて敗れ、志し半ばで散っていった仲間たちの顔が甦ってきたのだ。そこに現れたのが…お主、せいきちじゃ!お主は玄武との戦いで儂と同じ神道一刀流を使っていた。儂の目にはお主があの家康公の面影にそっくりに見えた。だが、あの時のお主の神道一刀流では到底、儂の敵ではない。そしてお主が突如姿を消し、期を改めて軍配を奪い返す手立てを実行した時、またお主が現れた!軍配を取り返し、さらには幕府内部から崩壊させ政権までも手中に入れる手立てが…せいきち!お主のせいで水の泡じゃ!唯一、城内に忍ばせた家来の"八雲"と"和久"も下手を打ち、軍配すら取り返せなかった。だが儂は何よりもお主の神道一刀流が強くなっていた事に驚きを感じたのだ。そんな家康公の面影を持ったお主を見ていたらのぉ、儂の武士としての魂が震え始めてきたのだ。

『もう一度、徳川と戦いたい!そして、今こそ主君に錦を飾らせたい!』とな。

だから菊姫を拐い、ここまでお主を誘導したのだ。お主からは家康公の魂を感じる。お主を倒し、今こそ家康公を超えてみせるっ!】


せいきち 「お前の言い分は分かった。だがな、いつまでも過去に囚われてんじゃねぇよ!俺は戦がどんなものだか知らねぇけど、散っていった仲間が望んでいるのは復讐なんかではないと思うぞ。生き残った者が幸せに生き、そして散っていった者をいつまでも忘れずに供養してやる事の方がよっぽど大切なんじゃねぇか?別に一番じゃなくたっていいじゃねぇか!」


大上 「ひよっこのお主には分かるまい。戦人の魂がどれほど熱いものなのかをっ!勝負だっ!せいきちっ!!」


大上は真っ向から凄ましい早さで飛び込んできた。忍であり武士である大上は、歳や空白の時を感じさせない動きであった。俺もすかさず防御し、大上の刃を弾こうとしたが、忍としての武道も心得ている大上は殴打や蹴打の猛攻を仕掛けてくる。何度も殴られ、何度も蹴られ、かろうじて太刀を防ぐ事で致命傷を逃れていた。


大上 「どうした、せいきち?お主の神道一刀流では手も足も出んか?」


せいきち 「ふざけんな!このやろー!」


俺は高く飛び上がり、雷公一刀斬を仕掛けた!すると、確かに俺は大上の頭上を目掛けて飛んだはずなのに大上の姿が見えなくなってしまった。


大上 「雷公一刀斬とは、このようにやるのだ!」


せいきち 「はっ…!?」


『ズバーンッ!!』


せいきち 「ぐあぁぁぁ!」


俺が先に飛んだはずなのに、大上はさらに上へと飛び上がり俺を待ち受けていたのだ。とっさに刀を盾にして直撃は防げたものの、大上の放つ雷公一刀斬の破壊力は凄まじく、俺は床を突き破り地面に全身を叩き付けた。

床から這い上がると、そこには大上が待ち構え、俺の髪を鷲掴みにすると刃を首元へ押し付けてきたのだ。


大上 「まだお主は本当の神道一刀流を知らないらしいな。儂はお主の中に眠る家康公の力を見たいのだ。今のままのお主を斬ったとて、家康公に勝ったとは言えん。本気を出してもらわなくてはなぁ。奥の間に来るがよい!」


大上は俺から手を離すと、一人、奥の部屋へと消えていった。俺も後を追うように起き上がろうとしたが、激しい痛みで思うように体が動かない。早く大上を倒さなくてはお菊どころか、新之助の命も危ない。俺は気持ちを震い立たせ身体を引きずるように歩き出した。


新之助 「甚八、済まぬが俺も奥の間に行く。肩を貸してくれ。」


甚八 「兄貴、今は動かない方がいいですよ。いくら急所は外れているとはいえ、動けば出血が酷くなります!」


新之助 「大丈夫だ…。何があったって、最後まであいつを見届けなけりゃならないんだ。あいつは俺らの仲間であり…友達なんだ…」


甚八 「・・・、分かりました。私も兄貴たちの一番舎弟ですから!」


新之助 「馬鹿言え…甚八も一緒に戦った仲間であり、大切な友達だ!」


甚八 「兄貴っ…うぅぅ…ありがとうございます。」


新之助 「泣いてる暇ねぇぞ。さぁ、早いとこ肩を貸してくれ。行くぞ!せいきちに続け!」


甚八 「はい!兄貴っ!」



第九章 ~過去と影~

終わり


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