第十六話「星の戦士」.1
首に突きつけられた刃に、アナトの顔が引きつっていた。
目の前に迫る明確な恐怖が、陽気な彼女に命の危機を理解させていた。持っていた武器は取り落とし、涙をためた目が潤んでいる。
――アナトが、危ない。
思考が静まっていく。熱く火照っていたはずの頭は冷え、溢れ出ていた脳内麻薬はどこかへ消し飛ぶ。興奮は恐怖へと移り変わり、開き切っていた瞳孔が閉じていく。
それまでクリアだったはずの視界が、奇妙なまでに色を失っていった。
「あぁあ、そこで武器を離してしまうのは、お前の弱さだ、ハンターナイト」
「フィオガ、ダメ!」
直後、重力制御で軽くなっている機体に横方向の荷重がかかった。
七十五キロ。それがこのアーマーガンナー単体の重量だが、アクシャハラ・リアクターの発するエネルギーは、機体重量を軽減させる効果がある。
量子化、重量軽減、防御機能、様々な特性をこなせるからこそ、アクシャハラ・リアクターは数世代先の進んだシステムなのだ。
同時に、その軽さが弱点にもなりえる。
「――ゴッ、ホッ!」
機体を軽くして、加速力を重視したことで吹き飛ばされやすくなる。
今までの状態がファーストスタイルだとしたら、それは防御重視の機体だった。他のアーマーガンナーに比べれば圧倒的に速いかもしれないけれど、それはあくまで他に比べれば程度。
速度に特化したものには勝てない。同時に機体を軽量化させれば、重量のある敵の攻撃には吹き飛ばされやすくなる。
『アーマー損傷状況、報告』
【損傷個所軽微。自己修復で問題ありません。どちらかというと、あなたへの内部衝撃のほうが問題です。装甲は薄く、軽くした分、あなたへの負担は大きくなっています】
『なら、大丈夫。ボクが絶えればいいだけの話だろう』
瓦礫の中から身を起こし、ボクをぶっ飛ばした尻尾を見る。ガッソーは自分に付いた土埃を払い落としながら、緩慢な動きで起き上がった。
その鱗の間から見える牙と歯肉は、こちらをあざ笑う。
「ハンターナイトになるなら、まず最初に捨てるべきは甘えだ。市民を守る高潔な騎士様だとでも思っていたか? 違うなぁ。あいつらは狩猟騎士。狩りをすることにのみ生を見出し、狩ることでのみ銭を稼ぐ。盗賊と同類の浅ましい奴らさ」
『海賊が言うじゃないか』
「表示される文字に感情が見えないな。余裕がないか?」
妙なところで鋭い。あまり、長話したくない。
「賞金稼ぎなんて結局犯罪者がいなけりゃ力を持て余すゴロツキだ。むしろ需要を生み出してやってる俺たちに感謝してほしいくらいだがな」
『屁理屈こねるな害獣のくせに』
「言ってくれるな。だが害獣だから知恵も回る。なぁそう思うだろ、お嬢ちゃん」
「うぅ……」
アナトの頬を、ガッソーの冷たい手が掴んだ。苦しげな彼女の顔を見ると、怒りがこみ上げる。父さんと母さんを失った、あの日の怒りだ。
――その手を、離せ。
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