第七話 自己紹介
いやぁ長い長い休息を経て、改めて自分のペースで始めようかなと・・・
ひつまぶしにどうぞ。
道中3人で談笑しながら車を走らせること25分。市内へ到着し、正憲が車を停める。
車を降りた絵梨花と葵が頭を下げる。
「ありがとうございました」
「ごゆっくり」
正憲に見送られ、絵梨花と二人で会場へ向かう。入り口付近まで来たところで、既に誠司が立っていた。横には・・・車椅子の女の子?
「吉金さん」
「どうも」
「お疲れ様です」
「こちらの方は・・・?」
「俺の妹だ」
昨日の話の・・・。背筋がしっかり伸びており、端正な顔立ちから非常に気品が溢れている。
「初めまして、吉金 蓮花と申します」
「初めまして、高田絵梨花です」
「白咲葵です」
挨拶もしっかりしている。上品な子だ。・・・しかし、誠司にあまり似ていないような・・・。
「蓮治に言われてな。もし可能なら連れてきてやってくれと」
「そうだったんですね」
「わかりました。一緒に行きましょう」
4人で並んで歩き、レストラン内に入る。一階は一般客が1~2団体ほど。さすがに月曜日とあっては人も少ない。
葵達は入り口横のエレベーターを使い、二階に上がった。エレベーターが広い。
二階に着くと、そこは非常に静かな空間だった。従業員が待っており、会場へ案内される。静かなスペースのさらに奥に通され、個室のような部屋へ案内された。
個室のドアを開けると、蓮治が既にいた。テーブルに並べられた料理の写真を撮っている。
「お、みんな来たか。お疲れ」
「お疲れ様です」
絵梨花がそう言うと、座席にそれぞれ名前が書いてあるプレートを確認し、それぞれの位置に座るよう促した。
中華料理屋のような円卓に、上座へ蓮治、両サイドへ絵梨花と葵、正面に吉金兄妹が座っている形だ。
時刻は18時53分。開始まで若干早いが、蓮治が切り出した。
「ちょっと早いけど、もう集まったし・・・始めようか」
「わかりました」
ドキドキしてきた。眼の前に並んでいる料理も・・・美味しそうである。
蓮治が話し始める。
「今日は記念すべき優秀な従業員の採用記念に、歓迎会を開催致しました。2時間飲み放題で、食べ物は手元にあるパッドから送信してもらえれば追加できます。まぁ、できたら先にテーブルの上のものを食べてからでお願いします。OK?」
その言葉に一同うなずく。
「とりあえず乾杯しよう。それぞれパッドから飲み物を選んでくれ」
各々一斉にパッドで飲み物を注文し始める。みんなが注文し終わったあと、それを確認した蓮治が再度切り出す。
「・・・よし、まずは飲みものが届くまでに・・・今日は集まってくれてありがとう。週の初めだが、今日くらいしか時間が取れなかった。申し訳ない」
「いえいえ」
「構わない」
「ありがとう。今日はお互いの自己紹介も兼ねて、存分に楽しんでくれ」
「はい」
「酒は飲んでも飲まれるな、だぞ~大人衆」
そういうと蓮治は絵梨花を覗き込む。絵梨花は恥ずかしそうに顔を伏せる。
「・・・?」
過去何かあったのだろうか。
(もしかして絵梨花さんって・・・酔ったら大変なのかな)
「葵ちゃんは未成年だから恐らくお酒の表記は無かったかな」
「あ、はい」
「OK。存分に食事を楽しんでくれ。誠司と蓮花ちゃんもな」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
そうこうしている内に飲み物が届く。各手元に配られると、各々がその飲み物を手に取る。
「さて・・・今日は歓迎会です。顔自体は皆さん知ってるとは思いますが、一番知りたいのは腹の底。お互いがどんな人間なのか知っておきましょう。さて・・・ジ・オールの隆盛を願って、乾杯」
ソーシャルディスタンス。お互いのグラスは鳴らさず、少し眼前に掲げる程度で済ます。葵が頼んだのはオレンジジュース。
無難?うるさい。オレンジジュースを一口、クイッと喉へ流す。驚くほど濃厚で、子供の頃に宮崎で飲んだマンゴージュースに近いとろみがある。おいしい。
「よっしゃ食うぞ~。ここの料理死ぬほどうまいからな」
蓮治が眼の前の料理を物色し始める。内容は様々だ。中華料理、フレンチ、日本食・・・様々な種類の料理が回るテーブルに並べてある。
選り好みしやすいようにということだろうか。ここまでバラエティに富めるのものなのか。
適当に眼の前にある料理を皿に取る。エビチリだ。
「・・・うわ、おいしい」
美味しい。とにかく美味しい。チリソースもさることながら、エビの味も濃い。
「そのエビはな、車海老ってのが使われてる。味が甘くて濃いんだ」
蓮治が説明してくれる。何度ここへ来てるのだろうか。
蓮治が飲んでいるのはレモンサワー。男の人ってビールの印象が強かったけど、そんなことは無いのだろうか。
絵梨花が飲んでいるのはビール。逆じゃない?
「どれが食べたい?」
誠司が蓮花に聞いている。蓮花は種類の多さに迷っているようだ。
誠司はビール。蓮花は巨峰ソーダ。
「うーん、ハンバーグ!」
「よし、取ってやろう」
絵梨花の眼の前にあったハンバーグを欲しがる蓮花。それに気付いた絵梨花はゆっくりと回してあげる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
回ってきたハンバーグを皿に取り、蓮花に渡す。待ってましたと言わんばかり蓮花がフォークとナイフを使い、ハンバーグを切る。
そして小さく切ったハンバーグを小さい口いっぱいに頬張ると、恍惚の笑みを浮かべた。
(かわいい・・・)
「美味しいか?」
「美味しい!」
微笑ましい光景だ。本来なら親子のような年齢差だが、仲の良さが兄妹感を醸し出している。
「うまい・・・!うまい・・・!」
蓮治は必死に頬張っている。忙しい身だろうし、普段からまともな食事も摂っていないのかもしれない。
「諸君」
「!」
蓮治が急に喋り始める。
「聞きたいことがあるなら良い機会だ。自由に質問してくれ」
「・・・まぁ俺は先日十分聞いたからな。一つ言うとすれば・・・今日妹を招待してくれてありがとう。正直こういった料理を振る舞える機会はほとんど無いから・・・素直に嬉しい」
「どいたま」
どういたしましての略かな?30歳手前の割には言葉使いが若い。28歳はまだ若いのか・・・?
「白咲さんは何故この仕事を?」
誠司が不意に問う。誠司と違って金に目がくらんで・・・とは言えない。
「え? あ~・・・おもしろそうだったから・・・ですかね」
「この仕事が?すごいな」
「肝座ってるでしょ。伸びるよこの子」
どういう方面に伸びるのだろうか。そりゃまぁ確かに最初話聞いた時は驚いたけど・・・。
「えりちゃんから話を聞いたとは思うけど、本来あの面接の段階でほとんどの人間が逃げる」
「そ、そうなんですかね」
「関わりたくないんだ。人間ってのは『普通の平和』を望むからな」
「まぁ・・・確かに」
「素質あるぜ」
「やめてください」
軽く蓮治を睨む。蓮治はニヤニヤしながらよくわからない大きなお肉を頬張る。うますぎて泣きそうとか言いながら食べ進める。
ふと気になった。
「そういえば・・・社長はなぜこの会社を立ち上げようと思ったんですか?」
「ん? ん~、そうだな・・・大きな理由としては、この力の余るところを、表の世界には見えない部分で活かしたかったからかね」
「直感からって感じですか?」
「すぐではないよ。まずは体の使い方からだったしな」
「使い方? ・・・先日お聞きやつですかね?」
ふと蓮治が誠司の方を向く。
「とにかく最初は普通に生活できるように努力することになる。それに慣れたらようやく次の段階だな」
「次の段階?」
「これからどうしていくのか、どうなるのか」
「・・・仕事とか・・・人間関係とか?」
「そういうことだな。単に力仕事をしても、圧倒的パワーのせいで周りと変な差が出てしまって居づらくなったり、事務作業でもエンターキーを強く叩きすぎてキーボード壊したりとかな」
なんとなくわかる。普通の人間でも、異常にエンターキーを押す力が強い人は案外多い。
「まぁその当たりも慣れていけば問題ないんだ。だがまぁ、想像してしまうとな・・・面倒というか、やれば慣れるのに、人間ってのはめんどくさがりなもんでな」
「はぁ・・・」
「表の世界から逃げるか、俺のように活かした仕事を見つけるか、だいたいこの2択になってしまうんだ」
「なるほど」
「もちろん開花している人の中にも、普通の企業に就いて、普通に生活出来ている人もいる。そういう人は素晴らしいな。尊敬の対象だ」
誠司もこの言葉には頷く。
「誠司さんは開花してからはどうされてたんですか?」
「元々ボクサーで世界チャンピオンを目指していたからな。俺にはその道しか無かったのにこうなってしまったから・・・妹の前では言えないような仕事をよくしていた」
誠司が申し訳無さそうに蓮花の方を見る。蓮花はまだハンバーグを食べていた。
「なるほど・・・他に道は無かったってことですかね・・・」
「少なくとも、俺には思い浮かばなかった」
「いいんです」
不意に蓮花が喋りだした。
「お兄ちゃんが私のために悪いことをしていたのは知っています。でも、それが全て私のためなんだと知ると、私は何も言えませんでした。というよりも、嬉しかったんです。血の繋がってない私にここまで良くしてくれるなんて」
「・・・」
「足がまた動けるようになるまではお兄ちゃんに甘えっぱなしです。私の方が申し訳ないくらいです」
なんて出来た妹。泣きそう。
「素晴らしい妹さんだな」
「だろ。泣きそうだよ」
私も。
「家族愛に理由は無いってことだな。見てて気持ちが良い。しっかり仕事こなしてくれたら・・・休みでも取って旅行にでも連れていってやってくれ」
「いいのか?」
「もちろん」
「・・・すまない」
「旅行! 私ね、ハウステンボスへ行きたい!」
「ハウステンボス! いいね!」
蓮治が大きく共感する。
「それはどこにあるんだ?」
「長崎県ですよ。ここからだと・・・車で6~7時間くらいかな」
「なるほど。まぁ時間さえあれば距離は問題ないな」
「気をつけろよ。女の子のパワーに振り回されんように」
「? あぁ、わかった」
葵は蓮治の言った言葉の意味がわかった。先程正憲に教えてもらったからだ。
そんなことより先程から絵梨花が話に入ってきていない。
ふと見てみると、うつむき、カチャカチャと小さい音を立てながらステーキを口に運んでいた。前髪で顔が見えない。
(そんなにおいしいんだろうか・・・)
テーブルを回し、ステーキを取ってみる。柔らかい。トングでつまんだだけで、自らの重力で千切れそうになるくらい柔らかい。
「おっとっと・・・」
おっさんかよ。落ちそうになるステーキを皿でキャッチしながら自分でツッコんでいた。
ナイフで切ってみる。もはや切ってない、撫でている。撫でるだけで切れるのだ。口に運ぶ。無くなりました。
とんでもなくあまい脂の味と、鼻から抜ける、味付けされた肉の風味がたまらなかった。噛まずに無くなったので訴えようと思います。
「高森牛っつってな。A5ランクのシャトーブリアンってやつだ。名前くらいは聞いたことあるかな?」
聞いたことあるようなないような。でもなんか強そう。
「えりちゃん!」
「ふぁいっ!」
不意に絵梨花を呼ぶ蓮治。急な問いかけに呂律が回らずよくわからない返事になる絵梨花。よく見ると絵梨花の顔は真っ赤だった。
「もう終わりな」
「え!嫌です!まだ飲みまふ!」
「だーめ。真っ赤じゃん顔」
「嫌だ!飲む!」
もはや駄々っ子である。いや、でもグラスの半分も行ってない。弱すぎではなかろうか。自分もそれくらい弱いかもしれないからそこまで強く言えないが。
「よ、酔ってるんですか?」
「酔ってらい!ステーキが美味しいろぉ~」
完全に酔っている。あの量でここまでキレイに酔えるものなのだろうか。
「止めるのが遅かったか・・・アルコール控えめにしてもらったんだがな」
「しかし蓮治、このビール強くないか」
「まぁな。この店の特製でな、ウォッカと割って作ってある」
「なるほど・・・どうりできついと思ったわけだ」
「えりちゃん、ここのビールが大好きでな。ただ・・・そんなに酒が強くないから今回は弱めにしてもらったんだが、それでもダメだったか・・・」
「いや、とは言っても・・・これは結構きついぞ」
「それな。正直俺でも一杯飲むのきついぜ。酒好きの一品って感じ」
そう言ってる間にもステーキを貪り続けている。もはや見ていておもしろい。
「えりちゃん、今水頼んだから、来たら飲んでな」
「飲み物ならここにありまふ!」
「飲み物とかじゃないのよ。アルコールを出しなさい」
「やだ!」
なんかもう可愛い。あのカッコ可愛い先輩が、ただ可愛くなっている。
すると絵梨花がビールの残りを一気に飲んだ。
「あー」
「だ、大丈夫なんですか!」
「ん? 倒れるよ」
その瞬間絵梨花は倒れた。絵に書いたような、見事な倒れ方である。
「うわぁ!き、救急車!」
すると準備してたかのようにタンカがやってくる。段取り良すぎない?
「まぁえりちゃんが倒れるのはいつものことだからな」
「い、いつもなんですか・・・」
もしかして正憲が来なかったのは、これが面倒だからでは・・・。
「とうわけで皆さん、食事は楽しめたでしょうか?ハプニングが起きましたのでこれにて閉幕と致します」
・・・は?もしかして蓮治が最初急いでご飯食べてたのって・・・。
「まさか蓮治・・・お前が急ぐように食ってたのは・・・」
「人聞きの悪い。今回は持ち帰り可だから許してくれ。あと・・・こんなこと先に言えんだろう」
「・・・まぁな」
学べということだろうか。次に活かそう。
腰がね、痛くて痛くて。
マッサージチェアに座って1時間くらいやってみたんですが、効きますね~あれ。
毎日行きたいくらいですよほんと。




