8.見えた希望
魔物も存在せず、武器や防具も商売を行っておらず、巨大な魔法陣も各地で出来ている。
魔王を倒してからこんな事がすぐに出来るというのもおかしな話だ。でも、10年経っていたのであればこれらの事は説明出来る。
人間界に来てから大女神に一度問いかけたが事があるが、反応は返って来なかったという事はやはり既に天界は――――
――――いやいや、ここで諦めちゃダメだ。
勇者達を止める事が出来れば天界はきっと復活する。でも、肝心の勇者達ってどこにいるのよ。
人間界で魔法陣を作ったのが口木戸紗恵なら、所在を掴めるかもしれないわね。一応ダメ元で聞いてみるか……。
「あのーその勇者達って今どこにいるのか分かりませんよね? 特に魔法使いとか?」
「え? 勇者様達の所在だって? あんたらそんな事も知らないのかい?」
ああでた、またこのパターンね。はいはい知らないですよ。
んで、今度は何かしら? 世界を救ったからもうこの世界にはいないとか?
「勇者様と魔法使い様は一緒に旧魔王城に暮らしてる、賢者様は大聖堂のある街カーディナでシスターになられたし、戦士様はコルマンドの闘技場にいるじゃないか。常識なのに知らないなんて珍しいな」
―――え、嘘?
まさか全員の居場所がわかってるなんて事あるの?
やったわ! これで一気に打倒勇者に近づけた!!
「……おい、気付いたか?」
「へ? なに?」
私は嬉しさのあまり頭が回っていなかったのかもしれない。
海斗は何か気付いているようだけど、一体何かしら?
「コルマンドは俺たちの次の目的地、そしてそこには戦士がいる。さらに、奴は闘技場にいると言うことはつまり……」
―――あ! これってもしかして!!!
「闘技場でレベル上げが出来る!!」
「ああ」
なんてことなの! 風向きが一気に変わったわ!
まさか初っ端からこんなにいい情報が手に入るなんてツイてるわ!!
「ははは、常識を教えてそんなに喜んで貰えるとは思わなかったよ。アンタら変わってるな」
「あ、あははは……どうもありがとうございます……」
ああそうか、どのみちこの世界では常識だから遅かれ早かれ知ることになるか。
でも、まぁこれで一歩前進って言うか、一歩どころじゃなく百歩ぐらい進んでる気がするわ!!
「おい、行くぞ」
「え? もう行くの? ちょっと疲れたから明日にしようよ。勇者達はその場所にいるってわかったし」
「いや、既に時間が経っている。早くしなければ……」
まさか海斗がこんなにやる気になるなんてすごいわ。
闘技場で早速レベルを上げたいのかしら。
でも、さっきからキョロキョロ何か探してるみたい。
海斗は足早に街の中を歩いて行く。私も少し駆け足で彼の後を追った。
でも、こっちの方向って魔法陣のある西側じゃない気がするけど―――
「ああ、あった! 見つけたぞ!」
「えっ……ここって……」
辿り着いたのは道具屋だった。
―――なんだか嫌な予感がする。
「毒消し草を10個くれ」
「はいよ、お客さん!」
「いや、そっちを探してたんかい!!」
私は盛大にツッコミを入れつつ、海斗に文句を言いながらしぶしぶ毒消し草の代金を払った。
「時間的に店じまいする可能性があったから急ぐ必要があった。さて、宿屋に行くとしよう、そこで聞きたい事がある」
「う、うん……わかった」
宿屋に着くと部屋で体を清めると、夕食時に海斗と一階の食堂で合流した。
「薬草は食えたもんじゃなかったが、毒消し草も不味いな……だが、食えない訳でなさそうだ」
海斗は口一杯に毒消し草を頬張るとモシャモシャ食べていた。
ってか、元々食用じゃないっての。もしかしてサラダとかなら食べるかも、今度作ってみようかな。
「ところで、聞きたいことってなに?」
「ああ、勇者達の情報がもう少し欲しいと思ってな。結局のところ誰がどの役職なのかイマイチ分からん」
確かにそうね、勇者達の名前は海斗を召喚した時に伝えたけど具体的な事は伝えてないわ。
私はコホンと咳払いして、背筋を伸ばす。
「先ず魔法陣の時に出てきた名前の口木戸紗恵、この子は魔法使いになるわ。多彩な魔法攻撃を使用する。
次に賢者の喜瀬刹那、勇者達のサポートや回復を担当、戦闘力はそこまで無いはずよ。
そして、戦士の鬼場翔、戦闘力も高いけど勇者の盾も務めてたわ。
最後に曳野光輝、勇者ね。全ての能力が高くて弱点が無いわ」
「……なるほど。となれば勇者以外は弱点は存在するのか?」
「弱点はあるわ。魔法使いと賢者の後衛は近接に弱く、戦士は魔法に弱い。先ずは後衛のどっちかから倒したいところだけど」
口元に手を当てて海斗は黙った。
一緒に旅をして少しはわかる、この仕草は何か考えている時だ。
「……闘技場に行くなら戦士からでいい。他の奴らを倒してから戻ってくるのも手間になるしな」
「で、でも、もしやられちゃったら元の世界に帰れないかもしれないんだよ? ここはもっと慎重に行動した方がいいよ」
なんだかすごく不安になってきた。効率よく行きたい気持ちもわかるが、やられてしまったらそれでおしまいだ。
「安心しろ。勇者以外負けるわけない、むろん勇者にも勝つつもりだ」
「う、うん。わかった……」
今は海斗を信じるしかない。勇者達を倒せる能力を海斗は持ってるんだ。
弱点も伝えたし、勝算があるから負けないって言ってるはず。
―――でも、なんだろう。
勇者達と対峙すると思うと不安に感じる。
次の日。
私と海斗はコルマンドへ向かうため魔法陣に再び入った。今回も体が捻れ下に引っ張られる感覚が襲う。
くぅぅぅぅ!!
相変わらず気持ちが悪い……魔法陣から出ると頭がクラクラする。
今回も気付けば目の前には街の入口があった。
おそらく、人々の集う大きな街には入口あたりに魔法陣を作り、村や町などは中間地点に設置しているのかもしれない。
さすが闘技場がある街なだけにとても広い。ここなら海斗の装備も整えられるそうね。
街を巡りたい気持ちもあるけど、先ずは闘技場に行ってみる。入口から真っ直ぐ行った先に大きな建物が見える、そこに違いない。
闘技場にいる鬼場翔は間違いなくチャンピオンの立ち位置にいるはず。
地道にレベルを上げつつ、鬼場の情報も手に入れられるなら一石二鳥よ。
「次のトーナメントの参加者が決まったらしぞ!」
「誰に賭ける?」
「やっぱ今回もチャンピオン一択だろ?」
「―――腕や声をやられたらしい」
闘技場へと向かう群衆から様々な声が聞こえてくる。
その中でチャンピオンという言葉に、反応した私は耳に意識を集中させた。
「そうだな、やっぱチャンピオン一択だよな」
「ああ、チャンピオンのテオドニ以外、賭ける奴なんているのか?」
「ははは、確かにテオドニ以外は見当たらねぇな!!」
―――『テオドニ』って誰?
闘技場のチャンピオンは聞いた事も無い名前だ。
この時、私は簡単に鬼場へたどり着けると思っていた。
―――だが、後に待ち受ける真実の事など今はまだ知る由もなかった。




