4.面倒な奴
「いえいえ、あなたは何を言っているのですか? これはあなたに与えられた使命なのですよ! それもせずに帰るなんて出来ません」
ヤバい、ヤバい。なんか私が思ってたのと違う反応してる。
普通もっと色々聞いてくるもんでしょ、なのにいきなり元の世界に帰るってどう言う事よ?
「……そもそもお前が女神かどうかも怪しい」
は? 何言ってんのこいつ?
しかも初対面の私に向かって『お前』ってどんだけ図々しいんだよ。
「あ、あなたが信じないのであれば構いません。ですが、私が女神である事は事実です。受け入れなさい」
込み上げてくる怒りを何とか抑えてつつ、海斗に女神である事を伝えた。
これでもかと言わんばかりに背中の羽も広げて見せつけてやったわ。
「……仮にお前が女神だとしてだ。なぜ俺は洞穴で転生させられているんだ? 女神であればもっと小綺麗な場所で転生出来ただろう?」
「うぐっ!? そ、それは……」
痛いところを突かれてしまった。思わず海斗から目線を逸らしてしまう。
そんな私をよそに海斗は捲し立てるように言葉を続ける。
「服も汚れているし、それが俺を迎え入れる服装なのか?」
私は自分の纏っている衣を改めて見下ろした。よく見ると至る所に土の汚れが付着している。
洞窟の中で寝そべってたし、召喚する前に簡単に衣を手で払っただけだったから、ちゃんと落としきれてなかったみたい。
「おほほほ……これは失礼」
苦笑いをしつつ慌てて衣についている汚れを振り払った。そんな私を海斗は相変わらず冷たい目で見る。
「それにだ、俺が倒すべき相手の名前を聞く限りそいつらも転生者だろ? 転生者を倒す者が転生者など理解できん」
くぅー!!! これじゃ言い返せないじゃない!
ど、どうしよう。なにか言わなきゃ!
「そ、それにはとても深い理由がありまして……」
「女神のくせに言い訳もあるんだな」
言い訳に女神関係ねぇだろ!
私だって一つや二つ……いや、それ以上悩み事とかあるっつーの!
「それに腐っても女神だ。俺の力なしでもなんとか出来ないのか? 俺以外の奴を転生させればいいだろう?」
「しょ、召喚は一度しか出来ないのです!」
こいつやたら聞いてくるな。ってか、腐っても女神ってなんだよ!
落ち着けセミリア、イラッとしないイラッとしない………。
「それで、どうやったら帰れるんだ?」
「そ、それはー……わかりません」
「なに? 帰る方法も分からずに召喚したのか? ますます疑わしい」
ああ、もうどうしよう。帰りたいって言っても帰らせる方法なんて知らないし、そもそも一回しか召喚出来ないのにどうしたらいいのよ。
「じ、実は魔王を倒す為に召喚した勇者達がいましたが魔王討伐後、勇者達によって私たちの住む天界が襲われました。海斗にはその勇者達を倒してほしく召喚しました……」
もうここは女神の威厳とか無視して正直に話した方がいいわね。どのみち、かなり疑われてるし……。
「なるほど、ではお前はその勇者から逃げ延びて召喚の力を与えられた末端の女神と言うわけか」
「末端の女神ってなによ! 私は豊作の女神、ちゃんとした役割はあるわ!」
「だが、勇者達を倒す事は出来ないから俺を召喚した。そう言う事だろ?」
「そ、それは……そうだけど」
彼の言葉に我慢出来ず言い返してしまったけど、事実である上それ以上言い返せなかった。
「……その勇者とやらを倒せば、俺は帰れるんだな?」
「たぶん天界が解放されるから元の世界に帰れるはずよ」
「そうか………」
海斗はそのまましばらく目を閉じて黙ってしまった。顎に手を当てて何か考えているみたい。そして、小さなため息をつくとゆっくり目を開けて私を見た。
「なら仕方ない。その勇者とやらをさっさと倒しに行くか」
「あの……あ、ありがとう……」
「勘違いするな、お前の為じゃない俺の為にやるんだ」
海斗は洞窟の出口に向かって歩き出した。私も彼の背中の後について行く。
洞窟の中にしばらく居たからか外に出るととても眩しく、私は手で日差しを隠した。
人間界に降り立つのは初めてだけど、上は青く澄み渡った空、下は緑の草原は生き生きと地に根を生やしている。
天界で人間界を見ていた時に存在していた、魔王の支配による淀んだ空気はどこにも見られない。
これこそ人間が望む平和な世界だろう。
そんな綺麗な世界を体で感じながら、海斗と一緒に歩いて行く。
海斗を横目で見ると相変わらず無表情のままだ。
最初はとっつきにくい奴かと思ったけど、正直に話したら助けてくれるみたいだし。意外とけっこう良い奴なのかも。
もしかしたら最初は冷めてるけど仲良くなったらけっこう喋ってくるタイプかも。
素直になれないシャイボーイとか?
よく見たらそこそこ顔は悪くないわね。でも所詮は人間、こんな綺麗な女神が目の前にいるんだからいつの間にか恋心を芽生えさせてしまうかも。
でもダメ、人間と女神の恋愛なんてご法度よ。
まして異界から呼び寄せた転生者なんて大女神も許してくれないわ。
ふふふ、なんて罪な女なのかしら。
まぁそんなクールぶってるボーイでも私はけっこう好きよ。
「……おい」
「ん? なーに? どーかした?」
海斗について勝手に妄想していた私はニヤニヤしながら返事を返した。
女神と言っても女。まして、禁じられた関係とかその手の話は大好きだ。
「なんでお前がついてくるんだ?」
「あーそれは勇者達を止めるには私の力が必要って言われたからよ」
「止める? 俺が勇者を倒すだけではダメなのか?」
「そ、そうみたい。たぶん海斗が勇者達を弱めてくれたら私が止める力を発動できる……とか?」
大女神の言っていた『勇者を止めるには私が必要』と言う意味はまだ理解出来ない。
天界を支配した勇者達に私一人じゃ太刀打ち出来ないのは明白だ。
だとするとやっぱり勇者達を止めるには海斗の力が必要になる………はず。
「はぁー……そうか、なら仕方ない」
「どうしたの? 大きなため息なんてついて」
「勇者を倒すにはまだしもお荷物も一緒についてくるとは、面倒な話だと思ってな」
「誰がお荷物よ!!!!」
―――前言撤回。
私やっぱ海斗の事嫌いだわ。




