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5.平和によって得れないもの


お荷物という言葉にイライラしながら私は海斗と二人で歩く。

見渡す限り草原が広がっているのでたぶん田舎の方だろうけど、村とか近くにないかしら。


「ところで、聞きたいことがあるが」

「あ? なによ?」


ついつい語気が強くなっちゃった。でも、怒らせたのは海斗だから仕方ない。

機嫌悪く返事しても海斗は涼しい顔のままだ。


「俺は死んだらどうなるんだ? 元の世界に帰れるのか?」


この質問はなんとも答えづらい。実は勇者達も転生した時、大女神マザーに同じような質問をしていたのを覚えている。


「……海斗がこの世界で死んだら魂は天界へ行く、魂は大女神マザーによって管理され再び転生させるか、それとも元の世界に返す事が出来るんだけど……天界は勇者達によって支配されたし、大女神マザーの状況もわかんない。つまり死んだとしても元の世界に帰れる可能性は極端に低いわ」


「なるほど……安易に死ぬことは出来ないわけか」


―――その後、海斗は黙ってしまった。

それもそうだ、いきなり召喚されて勇者を倒せと言われ、失敗しても元の世界に帰れる保証もない。なんだか申し訳なく感じる……。


「……それで、その勇者とやらが天界にいるのは分かったがどうやって天界にいけばいいんだ?」

「うっ! ゆ、勇者はとても強いから先ずはレベルを上げる必要があるわ。あと、装備も整えないといけないし」


やっば、海斗ったら胡散臭そうに私のことを見てる。

そう言えばすっかり忘れてたけど、どうやったら戻れるのかしら。なんかこうテレポート的な能力とか私に与えられた力は無いの?


「お前、天界への戻り方知らないだろ?」

「……ごめん、わからない。―――だっていきなり襲われたんだから仕方ないじゃない! 私だってあの時は大変だったのよ! いきなり人間界まで落ちちゃうし!」

「はぁ、少しは女神らしいところなど無いのか?」


カッチーン。

いいわよ、見てなさい。人間には出来ない女神の能力を見せてやる!


「女神らしいところですって? そこまで言うなら女神の力を見せてあげるわ!」


私は豊作の女神セミリア。例えば足元に生えている雑草だって私の力でぐんぐん葉を伸ばすことが出来る。


雑草に手を伸ばし、狙いを定めて意識を集中させる。

小さな植物だったら祈りを捧げるまでもない。


そしてもう一つ、背中に生えている羽。これがあれば飛行能力も可能、その気になればすごい速さで移動出来るんだから!


私は屈伸すると足に力を入れて思いっきり大地を蹴って同時に背中の羽を広げる。さぁ大空を駆けめぐるわよ―――


「で? それがお前の言う女神の力という訳か」

「えっ?」


私は自分の力を疑ってしまった。

成長を促した雑草は5cmほど伸び、飛行に至っては2mほど浮き上がっただけだった。

必死に羽をバタつかせても進むことは出来ず、ついには滞空を維持できず尻餅をついて落ちてしまった。


「いたた、って嘘っ……! まさか天界が支配されたから女神の力も弱まってる!? こ、これじゃ本当にお荷物になっちゃうじゃない……」


ふえーん、どうしよう。全然女神らしくなくて泣けてきたわ。海斗なんて私の泣く姿見て呆れた様子だし―――もうやだ平和だった頃の天界に帰りたいよぉ。


「ひっく。ぜ、全然やぐにただなくて、、ごめんださい」

「はぁ……勇者達のせいで力が出ないのはわかったからもう泣くな。それにお前がいないと勇者達を止めることは出来んしな」

「……あ、ありがどう」


海斗は私を慰めてくれた。態度とか冷たいし何考えてるかわかんないし会った時から図々しいけど、本当は優しい人なのね。

ちょっと見直しちゃったじゃない。よっ、いい男!!


「まぁ、お荷物であることは変わらんがな」


―――やっぱこいつ殺すわ。



※  ※  ※  ※  ※



しばらく歩くと私の気持ちも落ち着いてきた。

やっぱり平和な人間界を歩いているからだろうか、日差しが心地良い。


それにしても、平和すぎるわ。

そろそろスライムとか弱っちい魔物が現れても良いころなのに、全く襲って来ないわね。


―――はぁ、なんかお腹も空いてきたわ。

天界では食の女神のいる神殿で自由に食事が取れたけど、人間界での食事になると私の口に合うのかしら。


ん? そんなどうでもいい事を考えていると前の方から人が歩いてきた。風貌を見る限り、恰幅のいいおばさんのようね。

せっかくだし、ちょっとこの辺りの情報を聞いてみましょう。


「こんにちわ」

「あらこんにちわ、こんな所でデートでもしてるの?」

「いえいえ、誰がこんなデリカシーのない奴なんかと……ところで、少し聞きたい事がありますが近くに村とかありますか?」

「ええ、ちょっと離れてるけどここから真っ直ぐ歩くと私の住んでる村に着くわ」


やった! 色々あったから少し落ち着きたい。やっぱ情報は聞いてみるものね。

それにしても、このおばさん武器も持たずによく一人で歩いて来たわね。


「あ、あのー……一人でここまで来てよく無事でしたね」

「ええ、天気も良かったし散歩ついでに山菜を取ろうと思って」

「いや、いくら平和になったからと言って魔物に襲われたら危ないじゃないですか?」

「ん? 何言ってるの? 魔物なら勇者様達によって一匹残らず駆逐されたじゃない」


―――え? 魔物が駆逐?

それも勇者達にってどう言うこと?


「魔物がいなくなったお陰で盗賊の撲滅をするために国が力を入れることが出来たから、のさばってた盗賊達も魔物と一緒に壊滅したじゃない」


「あ、ありがとうございます。な、なら本当にこの世界は平和になったんですね」

「あはは、そうよ。そんなの常識じゃない! 変な子ねー」


―――嘘でしょ?


「……おい、もう行くぞ」

「う、うん」


おばさんは「村に寄っておいで」と言いながら笑顔で手を振り私達と別れた。

私はさっきのおばさんの言葉にショックを受けた。それは不安や焦燥も入り混じった感情に近い。


―――たぶん海斗も気付いている。


魔族も魔物も盗賊もいない平和な世界って事は、倒す相手が勇者達以外いない。


それってつまり―――経験値が入らないからレベルを上げるすべがないってことだ。

勇者達を倒すほどの力を持つ者を召喚したとしても、強くならなきゃ勝てるはずがない。


海斗の召喚に成功し天界を救えると思っていた私の心は今にも折れそうになっていた。

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