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作戦会議・1


 翌日。カインは自分で言っていた通り、(やしき)中の人々、特にあの場に居合わせた面々に謝罪して回ったようだった。

 

 彼は真摯(しんし)に頭を下げ、迷惑をかけたことを詫び、望むならばすべての事情を話す、と告げた。

 そんなカインの謝罪を受け、ある者は首を傾げ、ある者はぽかんとし、ある者は笑い飛ばして彼の肩を勢いよくばしばしと叩いた。そして言った――「自分たちは何も迷惑に思っていない、気にするな」と。そんな彼らの様子に、カインは目を見開き。やがて顔を(ほころ)ばせて、ありがとう、と小さくつぶやいたのだった。



 ……そんな情報を知らせに来たアランの前で、彼の小さく愛らしい主君――リテアは、先ほどから頭を抱えてあああ、だのううう、だの(うめ)きながら、足をばたばたさせていた。


「お嬢さま、リテアお嬢さま。……姫様!」

「へぇあ!? なっ、何かしらアラン」

「まったく。(わし)の話を聞いておられましたかな姫様? ですから、カイン殿の謝罪回りは一区切りついたようですと、ご連絡に来たのですよ」

「あ、ああそうだったわね、ありがとうアラン。……そしてその呼び方はやめてちょうだい、なんだか恥ずかしいわ」

「おお、これは失敬。ところで」


 リテアに向かって、アランはにやぁと笑って見せる。


「その様子ですと、昨夜はカイン殿と何かございましたかな?」

「ひぃあ!?」


 途端、リテアはおかしな悲鳴をあげる。それを見てますますにやにや笑いを深めるアランに、彼女は「アラン!」と小さく叫び声を上げた。


「いや、失敬、失敬。カイン殿と上手くいっているようで、儂も安心しました。……ところで」


 と、アランがにやにや笑いを収め、真面目な顔に戻る。


「カイン殿の過去、儂もお聞きしました。……過酷な環境で、お育ちになったのですなあ」

「……ええ、そうね」


 リテアは、小さく目を伏せた。

 昨日、カインの昔話を聞いたときに感じた痛みは、今でもリテアの胸の内にある。そして、激しく燃え(たぎ)るような、周囲に対する怒りも。


 ……ああ、けれど、それにしても、だ!


 昨日に起こった出来事――つまりはリテアが怒り狂っている最中、カインが腕を引いて、それから――彼の身体の(たくま)しさと、耳元にかかる息遣いが――ああ、ああ、なんてこと!!

 

 突然ボンッと音を立てる勢いで顔を赤くし、また足をばたばたさせ始めた彼女をちょっと呆れた目で見つめながら、「姫様、ひーめーさーまー。では、皆の者を集めて来てもよろしいですかなー?」とアランは声をかけ、やっとの思いで返事をした主君の部屋を辞し。

 (あらかじ)め指示されていた通り、これから行う予定の作戦会議に必要な数名を集めに行ったのだった。






 数時間後。

 書斎には、やっとのことで落ち着きを取り戻したリテアとカイン、アランとウルス、そして使用人の取りまとめ役である若者が数名――と、そんな彼らに無理矢理ついてきたユーグが、一堂に会していた。


「まあユーグ。貴方は別に、ここに集まらなくても良かったのよ?」

「いいえ姉上! だって、今からあいつらのことについて、作戦会議をするのでしょう? 僕だって邸の一員なんです、父上と母上の子どもなんです! 僕、頼まれたってここから出ていきませんからね!」


 むん、と腰に手を当て、そんな風に姉に訴えるユーグを見て、「まあ確かに、坊ちゃんも居た方が、色々と手っ取り早いかもしれませんなあ」とアランが言う。それでも、リテアはしばらく迷うように視線をさまよわせていたが、「……まあ、そうね。分かりました、同席を許可しましょう」と、渋々といった様子でそう言った。


「……あいつらって、昨日の2人組のことかい?」


 少し遠慮がちに、カインがそう発言する。そんなカインに、リテアは「はい」と頷いた。


「そうですね、カイン様にはそこからお話しなければ。……あのお二方――金髪の男性が、グレイズ叔父様。私たちの母の、弟にあたります。そして茶髪の男性が」

「アギゼ殿、ですな。こちらはもう少し遠縁でして。旦那様、つまりはお嬢さま方の父君のいとこにあたります」

「ふぅん、成程。2人とも貴族なのかな? 確か、そんなことを(わめ)いていたように思うけど」

「まあ、そうであればあそこまで落ちぶれてはいないでしょうなあ。グレイズ殿は実家から勘当、アギゼ殿は父君の代までは貴族でしたが、既に没落しております。グレイズ殿はまだしも、アギゼ殿の方は、貴族として暮らしたことは一度も無いでしょう」

「成程……」


と、そこでカインは、自分の傍らに立つユーグの方に顔を向ける。彼はいつもはにこにこと微笑んでいる頬を引きつらせ、「うぅ、気持ち悪ぅ」と呟いていた。


「……少し、気になっていたんだけど。金髪男……グレイズ、といったかな? 彼は、ユーグ君に対して異常な執着を見せていたよね。それに、リテアさんを見るあの2人の目は、ユーグ君のとは逆の意味で尋常じゃなかった。まるで憎しみをぶつけるような……。何か、事情があるのかい?」

「おお、流石(さすが)ですなカイン殿。あの短時間で、そこまで見抜くとは」


 アランが感心したようにそんなことを言う。そしてリテアに、「儂から話しても宜しいですかな」と確認を取る。了承を得ると、アランは少し声を潜めてこう言った。


「あまり、大きな声では言い難いことなのですが。……グレイズ殿は、どうやら姉君――つまりはお嬢さま方の母君であるスーリヤ様に、崇拝というか恋情というか、まあ、そのような感情をお持ちだったようで。ユーグ坊ちゃんはそれはもう、スーリヤ様と瓜二つですから。……まあ、そういう事でしょうなあ」

「うわぁ」


 思わずそんな声が出てしまった口を、カインは慌てて閉じる。だって、そんなことってあるだろうか。実の姉にそんな……と思いながら傍らの義弟の顔を見て、


(……いやまあ、うーん、分からなくもない……? いやでもやっぱりおかしいよな、うん)


 と思いながら、だいぶ慣れてきた彼の美貌から、そっと目をそらした。


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