光と影の朝
「床ドンしたらメシ持って来いっつってんだろクソガキ!何度言えば理解出来るんだよ、能無し!ほんと使えねえな」
「でもサラ、昨日は床を叩いたらチェスを持って来いって」
「は?死ねよカス。…消えろ、今消えろ死ね、死ね!!」
「サラ!」
指先から溢れ出す熱と衝撃が首筋をかすめる。腰を落とさなかったら本当に殺されていただろう。幼い頃からのことなので恐怖はないが、情けなくて仕方がない。割れてしまった皿とこぼれた水を片付けていると、母が見下すような視線を向けていた。
「全く…エマは本当にどん臭いわね。サラを怒らせてばかりじゃない、双子の姉妹なのに恥ずかしくないの?」
「…そうね。気をつけてるつもりなのだけど」
「ふん。サラが一人娘だったら王宮魔術師の娘だと言って自慢できたのに。貴方なんかただの地方公務員。
ほんと、あなた父さんと一緒に死ねばよかったのにね。」
ははは、と笑って心を閉ざすことには慣れている。なおも姉の暴れる声や、母の説教が続いていたが、そんなことはどうでもいい。そろそろ8時、勤めに出かけなくてはならない時間だ。くだらない地方公務員の仕事でも、やらなくてはならない仕事がある。
姉は光。そして私は、影だ。
よし、と気合いを入れてパンプスを履いたそのとき、電話が鳴った。こんな日の母や姉が出る訳がない。仕方なく受話器を取ると、聞き慣れた声が響き渡る。
「おはようございます!ミス・テイラー。ミス・サラ・テイラーはご在宅ですか?」
「オーウェン総務課長ですか?私、エマですが。姉がいかがなさいましたか?これからオフィスへ向かうところだったのですが」
「ああ、そうだったか…それはタイミングが悪かったなあ。
実は、第二王子からの申し出でね、ミス・サラを王宮へ呼び出して欲しいとの願いがあったんだ。彼女の『力』を見たいそうだ」
「『力』ですか…どのようなご用件で」
「ふふ、当ててごらん」
からかうような声。この人もまた魔力のキャリアであるくせに、意地が悪いというよりはお茶目だ。
「もしかして…近場に『ドラゴン』でも出ましたか?」
「さーあね。お姉さんには宮廷から遣いが行くように手配しておくから、君は職場に避難しておいで。今度こそコロされちゃうよ?」




