常識と狂気も紙一重
「うあぁぁ…………疲れた……………」
現実世界に戻って来て最初に思ったのは、脳の疲労が半端じゃねえ。身体は多少凝ったくらいだからストレッチすれば問題ないが、それ以上に情報量が多すぎたな。あれが日常だとは思わんが一瞬で考えることが山のようにある。
慣れてくれば多少は効率化出来そうだし、スキルの使い方も含めてある程度のパターン化はしないとな。
さて、と。
「…………風呂入って寝よう」
マジ疲れた以上の感想が出てこねえわ。
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翌朝。目覚めたシンは大学生になってから初の連休に喜びを爆発させながら、朝食の支度をしていた。
朝食は食パンをカリッとオーブンで焼き上げ、目玉焼きとベーコンを乗せたトースト。そろそろレパートリーを増やすか…と思いながら、豆もマシンのメーカーも拘らない中の下といったところのコーヒーを啜る。
シンはボーッとしながらタブレット端末でSNSを流し読みしていると、ふとクランの事について思い出す。
「魔王の凱歌っと………すぐヒットしたな」
えーと、『レギオン最凶クラン。命惜しくば触れるべからず』………酷い言われようだな。実際、あの強さを見たら妥当な評価だとも思うが。
メンバー一覧は…クランハウスにあった写真と同じ人たちだな。全員笑顔で写真に写…おっさんの笑顔こっわ!?下手くそすぎるだろ…確かにこれは凶悪だわ。
後は…『魔界における魔王の凱歌の功績』。そうそう、こういうので良いんだよ。さてさて、一体どんな輝かしい功績を…。
・ユニークモンスター『魔を統べる者・ドレッドノート』の単独による討伐。
・レイドイベントにて、ボスのHPをクラン全体で六割消し飛ばした。
・全世界対抗イベント「三界戦戯」においてクランで表彰台とトロフィーを独占しての圧勝を齎す。
・くたばれ悪魔ども。
こりゃあかん。ユニークモンスターの単独討伐は意味が分からんし、レイドイベントなんかこの人たちだけで勝てたんじゃないの?最後に関してはただの怨恨だし。
ふぅー…トーストおいしい。
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「よーし、今日も張り切っていきますかー」
さっきのは見なかった事にして、レギオン2日目。今日の目標は装備の更新と常識を学ぶことだな。そうと決まればベッドから起きて―――。
「あ、おはようございますシンくん。同じベッドで寝てたんですね、なんだか恥ずかしいです」
「お、おう。おはようイロハ。…………………」
「どうかしましたか?」
レギオンくんさぁ、感情表現まで表情に反映するのはやめてくれないかなぁ?イロハがちょっと顔を赤くしてるせいで俺まで恥ずかしくなるじゃん。
「いや、何でもない…。じゃあ行くか。紹介したい奴がいるんだ」
「?分かりました。紹介されるのは私たちの方だと思いますけどね」
「そりゃそうだ」
一度気持ちをリセットして一階へ向かうと、そこにはリルルとグッさんと見覚えのある人とない人が。いや、正確に言えば全員見覚えはあるんだが、実際に見たことがあるかないかだな。
「おはようございますミキさん」
「お、はよう〜………ごめんもう落ちるね」
「えぇ………」
「勘弁してやってくれ。ミキは徹夜で君たちの部屋を作ってくれていたんだから。もういっぱいいっぱいだと思うよ。ということでおはよう二人とも。まあ私も予定があって長くは居られないけどね」
「おはようございますマスターさん!昨日はお世話になりました!」
「いやー、イロハちゃんは飲み込みは速いから教え甲斐があったよ。それでこっちのみんなが」
マスターの後ろに控える人たち。写真に写っていた全員ではないけど、全員写真に写っていた人だ。
つまり俺らの先輩にして最凶と呼ばれる怪物たち…の割にはオーラがないけど。
「ども、自分はロビンっす。ジョブは“ハンター”ってやつで、クランでは斥候を担当してるっす。たぶん自分のが年下なんで敬語とかいらないんで、おなしゃっす」
まず自己紹介をしたのはパーカーを着たラフな格好の少年。ロビンと名乗った彼は至って普通の出立ちであり、装備なども身に付けていないからか凶悪な印象は全く見受けられない。
加えて年齢などこの世界では関係ないと分かっていながらも、後輩気質とでも言うべき話し方と空気感は好印象すら覚えさせるほどだ。
残るは男女が一人ずつ。先に口を開いたのは女性の方だった。
「じゃあ次は私の番かな?私の名前はミス・パイス。変な名前だけどみんなはミサって呼ぶからそう呼んでねー。ジョブは《鍛治師》だけどユニークスキルで色々変わっちゃってるからそれについては今度教えるね」
ミス・パイス。プレイヤーから“装備市場をぶち壊した悪魔”と呼ばれる、レギオンの鍛治師でも最高レベルの鍛治師。実力は本物だが、彼女の愉快犯的な性格に被害を受けた者は数知れず。魔界のプレイヤーに聞けば10人中10人が凶悪だと答えるだろう。
そして最後に残った人物。イロハが写真を見てプロゲーマーだと話していた男だ。
「僕はMrrrrrrrQ。みんなはタクって呼ぶからそれが一番分かりやすいかな。ジョブは《重装戦士》でポジションはメインタンク。受けと避けどっちもいけるよ。これからよろしく」
ガッチガチの鎧を着込んだ彼は、レギオンでもトップクラスのタンク。人間性は極めて穏やかで、ミキを偽善者とするならミスタークは“本物の善人”とまで言われるほど。
しかし彼も最凶の一員。もちろんそれは彼自身ではなく、問題は装備の方にあった。詳しい説明は省くが、彼のメイン装備である小盾の特殊効果によって敵対するプレイヤー達を恐怖の渦に沈めて来た。
「SiNです、よろしくお願いします」
「Irohaです!ゲーム初心者ですが暖かい目で見守っていただけると幸いです!よろしくお願いします!」
「これはご丁寧にどうも。なんか、君は魔界に似つかわしくないね」
「男だらけでむさ苦しい魔界に久々の女の子だぁ…!お姉さんは嬉しいぞぉ!よーし、二人の装備張り切って作っちゃうぞー!」
「あ、気にしなくていいっすよ。ミサさん大体あんな感じなんで。んじゃ自分は周回行ってくるっす」
シンがこの状況で思ったことはひとつだけ。
このクラン、自由だなぁ……。
シンくんはとんでもない偏食家です。一ヵ月間同じ献立を3食続けても飽きません。
なので現在冷蔵庫には卵とベーコンのストックが引くほどあります。




