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29.鉱石モンスター大進軍!中級①

「武器を強化したいんですよね」



 某日、ANO内のブティック『リリィ・ローズ』にて。

 ナギサは店主であるジュンにそう言った。ナギサの相棒であるソウハは彼より少し離れた場所で店内の商品を眺めている。



「うん。いいと思うけど……って、なんでそんな話をワタシに?」


「いや、ドウルの武具の販売や強化をしてくれるショップが各エリアにあることは分かったんですけど、このゲームってジュンさんみたいにプレイヤーもゲーム内の道具を作れるわけじゃないですか」


「そうね」


「で、その方が質の良い物が出来るって聞いたんですよ。……そういう人って知り合いにいません?ジュンさんってCランクプレイヤーですし顔も広いんじゃないかなーと思って」


「あー、そういうことね」



 武器の強化はナギサが是非とも行っておきたいことだった。

 先日、ジェシカと呼ばれた騎士型ドウルとの戦いの際にソウハの刀が相手のスキルの攻撃に耐えきれなかったのか破壊されたことがあった。更にまた別の日はシューマの放ったスキルによって消滅。これまでのバトルやミッションでも大きく刃こぼれしたことが何回かあった。

 初期装備のまま戦うのはそろそろ限界だ。コインにも余裕が出てきたしこの辺で武器を強化したいと思っていたのだ。



「残念だけど、知り合いにまだ武具の生成を行える人はいないわね」



 ジュンより先にそう答えたのはカウンターに座っていた彼のドウル、フランだ。今日の衣服はナギサが初めて出会った時と同じ、黒を基調としたゴシックロリィタのドレスだ。彼女が一番気に入っている衣服がこれらしい。



「ええ。そんな人がいる話は聞いたことがないわ。でも刀剣系の武器の強化を専門にしているNPDの鍛冶屋なら知ってるわよ」


「刀剣系武器の強化……いいですね。是非お願いします」


「じゃあ地図情報を送るわね」



 そう言ってジュンは自分のアクロデバイスを操作。するとすぐにナギサのデバイスから通知音が鳴る。

 確認するとそこには『サウスエリア 113-5』という住所が送られてきた。この情報をデバイスのマップ機能に入力すればそこに辿り着けるはずだ。



「わたしの武器もそこで作ってもらったの。腕は確かよ」


「ありがとうございます!……おーい、ソウハ。行くよ」


「分かりました」



 それじゃ、とナギサとソウハは店内にいる2人に軽く会釈をしてから店を出ようとする。ドアを開けたところで、一人の男性とうっかりぶつかりそうになった。



「あっ、すみません。……って、あれ?」


「……ナギサ?」



 その男性とはシューマだった。やっほーですわ!と彼の背中からシャルディもひょっこりと顔を出す。



「何しに来たの?」


「服を買いに来たに決まってるだろう。ここは服屋だろ?」



 何当たり前のことを聞いてるんだと言った顔でシューマが答える。

 恥ずかしげもなくゲームキャラのフルグラフィックTシャツを着て学校に来るこいつでも衣服に拘りあるのか、とナギサは少し意外に思った。



「一応言っておくが、俺の服じゃない。こいつのだ」



 そんなナギサの心の声でも聴いたのか、シューマは背後にいるシャルディを親指で差す。



「先日ナギサさんとソウハさんの写真を見てからワタシもオシャレな格好をしてみたいと思いましてね。一度ここには来てみたかったんですのよ」


「この店の服はオススメですよ」



 シャルディに対してそう返すソウハ。この前色々と着替えさせられた体験を良く思っているらしい。



「それは楽しみですわね。ワタシもあの写真のナギサさんの様に可愛くなってシューマ様を悩殺してやりますわよ!おほほほほ!」


「えっ。目標って僕なの!?」



 “あの写真”というと掲示板にアップされたリリィ・ローズの宣伝用写真のことだ。

 その時のナギサは軽い化粧にセーラー服。所謂女装であった。あの写真の反響は結構良く、掲示板でも「これ本当に男?」と疑われたり、褒められたりしていた。アリュビオンを歩いているとたまに「セーラー服の人?」と声を掛けられる。

 正直恥ずかしい、恥ずかしいが、なんだか悪い気分ではなかった。まさか何かに目覚め始めている……?



「誰がお前なんぞに悩殺されるものか……どうしたナギサ、ボーっとして」


「いや、何も……」



 それじゃあな、とシューマはナギサと入れ替わるようにして店内へと入った。

 ……そういえばアイツの口から女装に関してコメントを貰ってなかったな。『ハンサム度で自分に勝てないから女装したのか』みたいなことは言われたけど。



「いらっしゃいま――あら!ワタシ好みのイケメン!ちょっとこの服着てみて!いや、着て!拒否権は無いわ!貴方の意見は求めない!!」


「な、なんだ!?……やめ、やめてください!やめろ!!服を脱がそうとするな!!」


「ジュンが暴走している!くっ、人を無理矢理着替えさせたい欲求が最近溜まっていたの!?」


「シューマ様が脱がされておられる!?いいですわお兄さん!やれやれー!ワタシも手伝いますわー!!」


「お前は来るんじゃない!!リターン!!」


「おらー!良いではないか良いではない――」



 店内から友人の悲鳴が混ざった叫び声の数々が聞こえてきた。

 どうやら脱がされているらしい。外まで声が漏れているが大丈夫かこの店。



「……ナギサ君、アレは」


「気にしちゃ駄目だ」



 ナギサは決して後ろを振り返ることなくデバイスを操作してサウスエリアへ移動する。

 とりあえず今関わろうとすると確実に巻き込まれるだろうから。











「……客か?珍しいな。俺の店の存在に気付ける奴がいるとは」



 マップの場所に辿り着いたナギサ達をそう言って出迎えたのは、まるでドワーフのような姿をしたNPDだった。中世西洋風の街並みにドワーフとは如何にもファンタジーチックな絵面で、ナギサはちょっとだけ気分が高揚する。

 この店はマップに詳細が載っていなかった。通常、ショップなどの施設はマップに分かりやすくアイコンが表示されているものなのだが。

 そういえば掲示板で『マップに載ってない店もある』という書き込みを見たことがある。どうやらここもその一つなのだろう。店がある位置も大通りではなく、路地を抜けた先にある小さな工房のような場所だった。



「ジュンさんってプレイヤーから紹介されたんです」


「ジュン?……ああ、アイツ達か。ってことは、ここがどういう武器を専門に扱ってるか聞いてるのか?」


「刀剣系武器の専門だとか」



 ソウハが答えると、ドワーフはソウハの腰に携えてある刀を一瞥した。



「刀使いか。いいだろう、さて、どんな武器をお望みだい?」


「固くて強いのがいいです」


「アバウト過ぎるわ。ちょっとその刀、見せてみろ」



 そう言われてソウハが刀をドワーフに手渡す。ドワーフは刀を鞘から抜き、何度か調べた後鞘に戻してからソウハに返す。

 そして言った。



「これ初期装備か?よくこんなポンコツを使い続けてられたな。えーっと、固くて強い奴だったか?ってことは強度の高い物が欲しいのか」


「まあ、そうですね。一度相手の攻撃を受け止め切った瞬間に折れたことがあって。それに僕達の使うスキルにパワー特化の物があるので、その力に耐えきれるだけの耐久性は欲しいと言いますか……」


「なるほどな。素材はどれくらいある?デバイスを見せてくれるか」



 ナギサはアクロスデバイスを操作して、アイテム一覧から『素材』の欄を開いて見せる。

 ドワーフはそれらをじっくりと眺めた。



「機械兵の外装、リザードマンの剣の破片、ファイアラプトルの牙…………ふむ」


「良い武器作れます?」


「全然駄目だな」



 そっけなくそう返すドワーフ。モンスターの素材なら結構集まっていると思っていたナギサは残念そうに肩を落とす。



「何も作れないわけじゃない。けどこの程度の素材なら他の店でも同じようなのが作れるぞ。わざわざ俺の店に来たんだから、良質な武器が欲しいんだろ?」


「そうですね……。何の素材があればいいんですか?」


「とりあえず強度を高めたいなら、最低限ダイアウルフの外皮とアイアンゴーレムの欠片が必要だな。この2つが手に入るモンスターが同時に出てくるミッションもあった筈だ」



 どれも聞いたことがない素材だ。Fランクプレイヤーの自分が挑戦しているクエストでは手に入らないのだろうか。

 とりあえず、新しいミッションに挑戦しなくてはならないらしい。これも武器強化のためだ。頑張らねば。











「『鉱石モンスター大進軍!初級』で低確率ドロップ……中級と上級では通常ドロップねぇ」



 ナギサは一旦セントラルエリアへと移動し、ミッションカウンターの近くに立ったまま、指定された素材が手に入るクエストの一覧を眺めていた。

 ダイアウルフとアイアンゴーレム。この2体が同時に出現するクエストはこの『鉱石モンスター大進軍!』しかないらしい。

 初級はどのミッションもそうだが手に入る素材のドロップ率が低い。どうせなら一気に数を集めたいところだ。別に今日1日で素材を集めないといけないわけではないのだが。



「上級はまだ無理としても中級はどうだろうな……。一人でいけるかな」


「……別に私達だけで挑戦しなくてもいいのでは?他の人に手伝ってもらうとか」


「あ、その手があったか」



 ナギサは現在ログインしているフレンドを確認する。カエデはログアウト中。確か『土曜日は基本的に昼から夜までバイトを入れている』と言っていたのでしばらくはインしてこない。

 シューマは……現在ログイン中だが、まだ店で遊ばれているに違いない。邪魔をしては悪い。うん、放っておく。

 同じく店にいるジュンを呼ぶのは申し訳ないし……と、もう一人ログインしているフレンドがいた。前にフレンド登録した少女、ミナミだ。

 今連絡しても大丈夫だろうか?とメッセージを送信する。



『ミナミさん久しぶり!いきなりだけど、ちょっと手伝ってほしいミッションがあって、今大丈夫?』



 こんな感じで良いかな、と一度メッセージ内容を確認してから送信。すると30秒ほどで返信があった。早い。



『久しぶり!今は暇だから大丈夫だよ。ミッションってことはターミナルに行けばいいのかな?』


『うん。今ターミナルにいる』


『今すぐ向かうね!ちょっとだけ待ってて!』



 そんなやり取りを繰り返してから2,3分してからミナミがターミナルのミッションカウンター付近に現れた。隣には生真面目そうな堀の深い顔をした青年……ミナミの相棒のプロトもいる。

 ミナミはナギサの顔を見てから手を振ってそちらへと向かう。



「ナギサさん、ソウハちゃん、久しぶり!元気してた?」


「元気ですよ。2人も相変わらずお元気そうで」



 女性陣が再会を喜ぶようにハイタッチ。ナギサとプロトはそれを微笑ましそうに眺める。

 プロトがナギサに向かって口を開いた。



「ミッションを手伝ってほしいとのことだったが、一体どんな内容なんだ?」


「えーっとね、これ」



 ナギサはデバイスから『ミッション一覧』のページを開く。ミッションの受注自体はミッションカウンターからしか出来ないが、ミッションの一覧と内容の確認だけならアクロスデバイスからも可能だ。



「鉱石モンスター大進軍!……中級か。うむ……オレ達だけでは少し不安だな」


「アタシ達のランクもまだFだしね……。誰かもう一人くらいは欲しいよね」


「うーん、でももう頼めるフレンドいないしなぁ。ミナミさんのフレンドとか誰かいない?」



 ナギサの問いにミナミが答える。



「別にフレンドに頼まなくても、そんなのその辺に歩いてる人に声かければいいだけじゃない?」



 ミナミはそう言って後ろを振り返る。確かにANOの中心的存在ともいえるターミナルのミッションカウンター付近というだけあってプレイヤーとドウルの姿は見られるが、知らない人に頼むのはナギサ的にも少し勇気が必要な行為なので避けていた。



「アタシ声かけてくるね!」



 ナギサの返答も聞かずミナミが駆け出した。活発な女の子だ。知らない人にも物怖じせず話しかけに行ける彼女のスキルは営業とかで食っていけるな……とナギサは思う。

 するとミナミはすぐに誰か他のプレイヤーを連れて小走りで駆けてきた。プレイヤーである男性の隣にはそのドウルも一緒だ。

 紺のワンピースを着た、横に跳ねた長い黒髪の女の子。その頭には犬のような耳がちょこんと生えている。



「……あの人達って」


「……見たことありますね」



 更にその隣には茶色い髪の男性。ナギサとソウハはその2人に確実に見覚えがあった。男性もまさかナギサがいるとは思わなかったようで、驚いた様子を見せる。

 ミナミが明るい顔で彼を紹介する。



「いやー、偶然見かけちゃってさー。確かナギサさん、この前この人とバトルしてたよね?」


「……な、なんでお前が」



 忘れもしない。初ログイン時に自分を騙してアンティルールのバトルを仕掛けたプレイヤー。

 名前は……名前は…………。



「えーっと……カズナリさん?」


「モトカズだよ!」


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