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20.連携に難のある者達

 崩れたビル街、ひび割れた道路。まるで世紀末の都市のようなフィールドを駆ける者達の姿があった。

 全長2mほどの機械の巨人が6体。彼らは一人の少女と男性……ソウハとアーメスを狙っていた。逃げる2人を赤く大きな一つ目で捕捉し、両手のバルカン砲から無数の弾丸を放つ。ソウハが先頭を走り、何歩か歩幅の離れた位置にアーメスが続いた。ソウハの方がスピードのステータス値が高いため、2人の速度には差がある。

 彼女達は正面を向いて走っているにも関わらず、バルカン砲による攻撃を避けて見せた。それどころか銃弾が放たれる前からバルカン砲の向きをあらかじめ知っていたかのように回避行動を開始していた。



『右、右、……左』



 それもそのはず。自らのドウルと感覚を共有している状態にあるナギサとカエデが自分の視界で機械兵達の動きを読み、それによって自身のドウルに次の行動を指示していたからだ。


 仮想空間アリュビオンで受けることの出来るミッション『機械兵討伐 初級』を受領したナギサ達はこうして現在、荒廃した都市を舞台に数体の機械兵を相手に戦っている最中だ。

 最初はもっと多くの数の機械兵がバラバラにフィールドに存在していたのだが、何体かは既に破壊されており、残りの数はこうしてソウハとアーメスを追うようにして集まっている。



 無数の弾丸がソウハとアーメスの傍を掠めて空しく虚空を飛んでいく。

 そしてソウハは一瞬だけ振り返り、右手に握りしめている刀を後方へと飛ばした。一直線に飛んで行った刀は機械兵の一体の大きな一つ目……メインカメラに突き刺さり、カメラが爆ぜる。


 視界を失った機械兵はよろめき、あらぬ方向へとバルカン砲を放った。その内の何発かが他の機械兵に命中し、装甲を削る。


 アーメスがソウハに向かってグッと親指を突き立てた。



「ナイスだぜソウハ!」


「それほどでも」



 お次は刀を取り戻して追撃を――と考えたところで、ナギサとカエデの存在する空間に通信が入る。

 ナギサにとってはもう聞き慣れた声……友人であるシューマのものだ。



『ナギサ、カエデちゃん。そこを動くな』


『だ、そうだよ。ソウハ、アーメスさん。ステイ』


「了解です」


「さて、逃げるのはここまでだな」


『やれやれ、ボクらが一気に片付けようと思ったのに』



 前進しようとする2人を声で制する。そして――。



「おブッパですわああああああァ!!」



 遠く離れたところからやたらと気合の入った、シューマのドウルであるシャルディの叫びが聞こえた。

 それと同時に声のした方向から一筋の閃光が走り、ソウハを追い詰めようとしていた機械兵に命中。3機ほどが爆発音と共に消滅し、スキルによる攻撃が地面を抉った。


 少し離れた場所で倒れている建物に登ったシャルディが魔銃を構えたまま静止していた。一角銃を放った後の副作用である硬直時間だろう。スキル発動から1秒が経ったため、硬直状態が解けたのかシャルディは片腕を下ろす。


 そして建物から飛び降り、残った機械兵に向けて魔銃を構え直しながらソウハ達の元へ駆ける。



「お待たせしました!お待たせしすぎたかもしれませんわね!ビューティフルソルジャー・白銀の魔弾シャ――」


『いいから早く走れ』


「名乗りキャンセルとは意地悪な御方ですわ。

さてお二人とも、誘導ご苦労!今加勢しますわね!」


「ありがとうございます!」



 ソウハは再び駆け、先ほど機械兵へと突き刺した刀を拾おうとする。


 ――が。そこに刀は無かった。


 確か先ほど放った刀は自分に最も近づいていた機械兵に刺さり、その後地面に落下。そしてその機械兵は先ほどシャルディの一角銃を食らって爆散。更に刀が落ちた地面は一角銃の攻撃によって抉れている。


 つまり……。



『ふ、吹き飛んだー!?』


「ええっ」



 ナギサが驚愕の声を上げ、ソウハが少しだけ狼狽える。

 仲間が破壊されても流石は感情を持たないロボット。機械兵はカチャリ、とバルカン砲を構え直してソウハとアーメスへ乱れ撃った。



『っとぉ!油断した!避けて!右右右右!!』


「そんなに何回も言わなくても分かってます!」


『じゃあ左!右!A!B!』


「コマンド入力してんじゃねえよ!こんな時に小ボケかましてる場合か!?」



 一瞬有利に見えたかと思いきや早々に形勢逆転。動きの止まったソウハとアーメスの隙を突く形で攻撃してきた機械兵達から、また彼女達は逃げることになった。

 ナギサが通信機能を使ってシューマへと叫ぶ。



『何してくれてんじゃい!ソウハの刀無くなっちゃったんだけど!

 というかあの刀、折れたり吹き飛んだり扱いが雑過ぎやしませんかねぇ!?』


『はぁ?知ったことか。勝手に放り投げたお前のドウルが悪い』


『ぐっ……それはそうなんだけど……。

 僕達が今セットしてる攻撃スキルの3つ中2つが刀剣スキルなんだよ。刀が無いと火力不足で敵への有効打が――』


『3つ中2つ?じゃあ残ってる1つを使えばいいだろうが』


『1つじゃ足りないの!』


『知らん。そんなに剣が使いたいならこの前みたくアーメス君に借りろ。

というか俺達が来たからにはもうお前たちの出番なんぞ必要無い。精々狙われないように隠れたらどうだ?フハ』



 ムカつく高笑いが聞こえてくる予感がしたのでそこで通信を無理矢理切る。

 あの野郎、何か適当に添えるだけでもいいから一言くらい謝罪の言葉があってもいいだろう。助けに来てくれたのはありがたい。だが、やはり態度が気に入らない。


 悪い奴ではないのは分かっているのだが――。



「みなさーん!今行きますわー!」



 そして数m離れたところからシャルディが走ってきた。ただその走る速度は残念ながら遅い。鎧を着ているアーメスよりもやや遅いくらいだ。



(”お前たちの出番なんぞ必要ない”とか抜かした割には来るの遅いな……)



 それもそのはず。シャルディはほぼ全てのステータスが攻撃と運に特化した能筋型。つまり紙装甲で鈍足である。

 装備している武器である魔銃は遠距離武器ではあるが、スキル無しでは射程にも限界がある。機械兵達に攻撃する距離に到達するにはやや時間がかかりそうだ。


 その時だった。機械兵の内の1体、頭に角の様なアンテナを生やした指揮官らしき機体がソウハの方を向くと、胸部装甲が輝いた。

 おそらく必殺技の合図だ。指揮官機の攻撃を避けるように、他の機械兵達が散らばる。


 必殺技には1,2秒のチャージが必要なようで、ナギサとソウハはそれを見抜いて回避行動に移ろうとする。


 そして胸部装甲から熱線が放たれた。攻撃範囲の広い赤い光線が大気の層を焼いて奔る。よし、ギリギリ間に合う、とナギサは1つのスキルを発動させてソウハに回避を指示しようとする。


 “高速化”。一定時間ドウルのスピードを上げる、愛用のスキルだ。ソウハもナギサがそれを発動させようとするのは分かっていたので落ち着いて回避しようとする、が――。



「高そ――――あれ?」



 指揮官機の放った熱線はいきなり軌道がソウハからズラされ、何故か少し離れた方へと向かった。

 そして指揮官機や他の機械兵のいない筈の方向から放たれた魔法攻撃が、それの後を追うようにして飛んでいく。

 何々、何事?と一瞬困惑するナギサとソウハは、少し離れた場所でアーメスの悲鳴を聞いた。



「ぐわああああああ!!これだけの攻撃は流石に耐えられねえええ!!」








 指揮官機の胸部装甲が輝いたのとほぼ同じタイミング。2人のマスターが思考していた。



(お、これは必殺技の合図。必殺技からソウハちゃんをカッコよく助けてあげれば、ボクの先輩としての株が上がるぞ!人生の先輩としても、ANOの先輩としても!)



 そう考えるのはアーメスのマスターであるカエデ。



(あれは必殺技の合図か?……一応シャルディのせいで奴らの武器は壊れたわけだしな。助けてやるとするか)



 そう考えるのは、実は先ほどソウハの武器を吹き飛ばしたことに若干の負い目を感じていたシューマ。

 そして――2人同時にドウルのスキルを発動させた。



『あー!勝手に守ってしまう!ナイトだから!先輩だから!“アイアース・シールド”!』


『シャルディ、あの指揮官機を狙え!“ミリオンバレット”!』



 アーメスの盾が変形し、そしてシャルディの銃口から魔力の弾丸が“ミリオン”の名を表すかのように無数に放たれた。

 アイアース・シールドは周りの飛び道具による攻撃を一手に引き受ける代わりに防御力を大きく向上させるスキルだ。幸い残り体力にも余裕がある、指揮官機の必殺技くらいなら余裕で耐えられる。


 ミリオンバレットは弾丸を連続発射させる銃系SRスキル。Rスキルのバルカンショットに比べてチャージに時間はかかるが威力と速度は更に向上している。しかも装備時は『銃系スキルによる威力を上昇させる』というボーナス付きだ。

 指揮官機の破壊は出来なくとも、大きく体勢を崩させ、ソウハ達が体勢を立て直す余裕を作ることは可能だろう。


 そんな2人が互いのことなど露知らずスキルを発動させたことに真っ先に気付いたのは、スキル発動直後のドウル達だった。



「あっカエデ!今アイアースは不味い!」


「シューマ様!このままじゃワタシ達の攻撃は敵じゃなくてあっちに――」


『え?』


『ん?』



 シューマとカエデが同時にスキルを発動させたことにお互いが気付いた時にはもう遅かった。

 指揮官機より放たれた熱線がアイアース・シールドへと向かい――それに続いてシャルディが放った幾多の魔弾が後を追う。


 敵を倒すためにスキルを使ったシューマ。敵の攻撃を受けるためにスキルを使ったカエデ。2人の目論見はもう片方が発動させたスキルのせいで台無しとなった。



『『……何してくれとんじゃあああああああ!!』』


「えーっと……とりあえず草ァ!ですわ」


「ぐわああああああ!!これだけの攻撃は流石に耐えられねえええ!!」


『何やってんだ2人と…………わー!囲まれた!』


「不味いですね……!」



 響く2人の男女の声。とりあえず笑うシャルディ。想定外の追加攻撃を浴びせられて体勢を大きく崩すアーメス。

 そしてそんな2人に一瞬気をとられた隙に武器も持たないままの状態で機械兵に囲まれるソウハ。

 バルカン砲の砲塔達がソウハを囲う。このままでは不味いとナギサは1枚のスキルカードに触れてそれを発動させた。



『一体だけでも破壊しなきゃな。”ファイアボール”――』



 ソウハの目の前にサッカーボールほどの大きさの火球が出現する。

 それは重力に従うようにして地面に落下。そしてソウハはそれを足でポンと蹴り上げ――。



『「”シュート”!」』



 掛け声と共にそれを正面の機械兵へと蹴り飛ばす。

 弾丸の如き勢いで発射されたそれは機械兵を大きくのけぞらせ、地面へと伏せさせることに成功した。そして大ダメージを食らった機械兵が爆散する。



 

 <ファイアボール・シュート>

 レアリティ:R

 チャージ時間:小

 分類:魔法

 ・発生させたファイアボールを敵目掛けて蹴ることで叩きつける。

 このスキルは魔法攻撃力ではなく物理攻撃力の数値で威力の計算を行う。


 


「改めて、お待たせしましたわ!」


「さっきは無様なとこ見せちまったな。こっから反撃だ」



 直後、遠方から発射された魔弾と宙を舞うひし形の盾が残りの機械兵を襲った。機械兵達は体勢を崩し、ソウハへの攻撃は不発に終わる。

 そして崩れた包囲網から現れたシャルディとアーメスがソウハの横に並び立つ。アーメスは自らが携えていた剣をソウハに手渡した。



「使いな。武器、無いんだろ?」


「ありがとうございます。……ナギサ君!」


『ああ、”スクランブル・エッジ”!』



 ナギサによるスキルが発動されると、ソウハは複雑な軌道を描くように地面を駆け、四方八方から機械兵3機に連続の斬撃を叩き込んだ。

 金属と金属のぶつかり合う音が幾度も聞こえ、機械兵の装甲が破損していく。内一機は右腕が切り取られ、腕ごと爆発。見事にこちらの有利な状況に持ち込めたナギサが2人の仲間に通信を送る。



『2人とも!このまま一気に決めれるかな!』


『余裕だ。”必殺の美脚”』


『さっきの汚名挽回だ!”シールドブーメラン”!』


『汚名は挽回しないで!返上して先輩!』



 シャルディの飛び蹴りとアーメスのシールド投擲攻撃がそれぞれ2機の機械兵へと命中。先ほどの攻撃でかなりのダメージを負っていた機械兵のHPがついに0になり、爆発して消滅する。

 そしてソウハの斬撃が指揮官機を襲い、怯んだ隙にナギサが最後のスキルを発動させる。



『これでフィニッシュだ!”ザンテツスラッシャー”!』


「はあああああああ!!」



 ソウハの握る剣が鈍く輝く。

 自身の防御力を攻撃力に変換して放つザンテツスラッシャーが発動されたのだ。指揮官機はバルカン砲を構えてソウハを撃とうとするが、それよりも先に振るわれた剣の攻撃の方が早かった。


 指揮官機も他の機械兵同様に爆散。全ての敵を撃破したことで、ナギサの視界に"MISSION CLEAR!"というポップな字体の文字が表示された。

 ふぅ、とナギサが一息。



『クリアタイムも中々短いし報酬にも期待できそうかな。初級ミッションとはいえ3人もいると結構楽だね』


『本当ならもう少し縮められたはずだけどな』



 シューマがナギサの言葉に反応してそう呟く。その声には若干不服そうな感情が感じられた。



『俺達の攻撃が邪魔されていなければなぁ。あそこで誰かがスキルを使っていなければなぁ』


『にゃにぃ!?』



 通信をわざとカエデにも繋いでいたのか、その言葉に反応してカエデが怒ったように言う。



『大体それはこっちの台詞だよ!ボクがアイアース使う前に君が攻撃スキルなんて発動するからアーメスが傷付いちゃったじゃん!もしやられてたらボクだけミッション報酬減ってたんだぞ!

 飛び道具のスキルを使う時は一回連絡しろぉ!』


『スキルを撃つときは連絡しろ?フン、それこそ俺の台詞だな。大体そのスキル、味方の攻撃まで誘導するなんて聞いてないぞ?

 連絡不足はそっちの方だ。俺達は悪くない』


『まあまあ、2人とも、とりあえず勝ったからいいじゃん――』


『『よくない!』』



 ――なーんか、まだイマイチ纏まり無いなぁ僕達って。出会って間もないから当然なんだろうけど。


 2人の怒声を聞きながらナギサは遠くを見るようにして思った。

 そしてミッションフィールドに残されたドウル達はやれやれだ、というように互いに目を合わせて笑うのだった。

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