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11.アリュビオンを歩こう -青髪剣士と腐れ大学生、オシャレをする

「よーし、次はあずみさんと野村あまねのデュエット曲を――」


「烏龍茶が無くなったのでドリンク入れてきます」


「あ、行ってらっしゃい……」



 そうだね。30分だからこまめに飲まないと勿体ないよね。

 ナギサは一人でマイクを握りしめ、お次は恥ずかしいくらい電波な歌詞のラブソングを熱唱し始めた。








 そんなこんなで30分はあっという間に過ぎ、最初は「仮想世界でカラオケってどういうことだよ」と思っていたナギサもなんだかんだで楽しんでいた。

 清算を終えようと階段を降りてカウンターへと向かう。ソウハも「行きはエレベーターだったので帰りは階段がいいです」と言っていた。


 カウンターには店員がいなかったのでナギサは店員呼び出しボタン……ならぬ、店員呼び出しベルをチリンチリンと鳴らした。ここは世界観に合わせるのか。

 奥から「少々お待ちくださーい」と、受付の時に対応してくれたエルフの店員とは違う声がした。



「やはり30分では歌い足りないな。次はフリータイムで行かないか?」


「でも今のアタシ金欠なんだよな……。バトルなりクエストやるなりして、もっとコインを稼がないと」



 そんな時、ナギサの後ろから同じくカラオケに来ていたらしい2人の声が聞こえた。一人は活発そうな少女の声、もう一人は堅物そうな印象を受ける青年の声。

 ナギサはそれらの声に勿論聞き覚えがあった。振り向く。



「あれ?ナギサさんだ」


「ミナミさん?それに隣は……」



 それは本日のフリーバトルでナギサとソウハを打ち負かしたミナミの姿だった。

 そして隣に立つのは、赤を基調としたラインの入った警察の制服のような衣装を身に纏い、どこか堀りの深い顔をした、髪を短く切りそろえた真面目そうな青年。



「……えっ、誰?」







「まさかこんなに早く再会するなんてねー。しかも同じカラオケ店に行ってて、ほぼ同時に出てくるなんて凄い偶然じゃないか?……あ、そうそう。なんなんだあのプロフィール文、思わず笑っちゃったよ」


「あはは……。とりあえず何か書いておこうかなと思ってね……。それにしてもゲームの世界でカラオケに行くとは思わなかったなぁ」


「アタシも最初は驚いたよ。でも自分のドウルと歌うのって楽しくない?プロト、凄くいい声で歌うんだよ!」


「ははっ、それは確かに。うちのソウハも綺麗な声で歌うんだ。今日初めて聞いたけどビックリしたよ」



 あっという間に再会を果たしたナギサとミナミはお互い色々と話しながらアリュビオン・セントラルエリアを歩いていた。2人の後ろにはソウハとプロトが並んで歩いている。

 堀りの深い顔をした青年の正体はミナミのドウル、マスクドポリス・プロトの通常時の姿だった。どうやらバトル時のみにあのようなサイボーグ戦士の姿に変わるらしい。


 2人とも自身のマスター以外とはバトル以外の時にどう話せばいいのか分からないのか、黙って後をついていく。



「でもちょっとビックリしたな。彼女、最初に入れた曲が10年以上前に僕が好きだったヒーロー番組の主題歌で……」



 “ヒーロー”という言葉にミナミの眉がピクリと反応する。

 そして目を輝かせながらナギサへと顔を向けた。



「ヒーロー番組!一体なんなんだ!アタシだったら大体分かるぞ!」


「え、えっと……。剣撃戦隊サムライVってやつで……」


「サムライV!アタシも大好きだ!」



 そうか、バトル中での『武器を使って戦うヒーローもカッコいいけど~』という台詞やプロトの姿からして、彼女は大の特撮好きか。そもそもプロフィールの自己紹介文にそう書いてあったしな。


 ナギサは彼女の勢いに若干押されながらも話を合わせる。自分の好きな作品の話題でもあるし。



「か、カッコいいよね!僕が一番初めに見たヒーロー番組で……というかミナミさん、あれ見たことあるんだ?僕が6歳の時の番組だったけど」


「アタシはその時3歳くらいでリアタイしてた時の記憶はないんだよね。小学生になってからBlu-rayで見直したんだ」


「へー、そうなんだ」



 そんな会話を交わす2人の前に、突如現れた何者かがいた。



「あっらー!可愛いお嬢ちゃんに男の子!後ろのドウル達も超素敵じゃなーい!ちょっとうちの店、寄っていかなーい!?」



 それは非常にガタイの良い体格と、胸元の空いたセクシーなシャツを華麗に着こなした、お兄さん――いや、オネエさんであった。






  ◆






 何故自分たちはこんなところにいるのか。


 そんなことを考えながら、4人はオネエさんに半ば無理矢理連れてこられた感じでやってきた、1階建てのオシャレな洋風の建物の中にいた。

 どこか高級さを感じる看板には”リリィ・ローズ”と書かれてある。 店頭のショーウィンドウには煌びやかなドレスやスーツが並べられており、ブティックらしき施設であることは理解できた。



「うちのマスターが申し訳ありませんでした」



 そして店に連れてこられるなり、店の中にいたゴスロリの女性に深々と頭を下げられた。薄桃色の長い髪が大きく垂れる。



「客を呼んでくる、と言って出ていったから呼び込みでもしてきたのかと思えば、その辺にいたプレイヤーを無理矢理連れてきたぁ?これじゃ拉致行為でしょ」


「いやぁ~、外に出た瞬間良い感じの若いコ達が目についたものでつい……」


「まずは彼らに謝りなさい」


「……ごめんなさいね皆」


「い、いえ、別に気にしてないですよ」


「そうそう、アタシ達も別に用事とか無かったし……」



 ゴスロリさん――おそらくオネエさんのドウル――に促されるまま申し訳なさそうに頭を下げるオネエさん。

 顔を上げると、自らの名を名乗った。



「ワタシはジュン。貴方達と同じドウルマスターで、この店 “リリィ・ローズ”の店長よ。こっちはドウルのフランソワ」


「フランソワ。フランで結構よ」



 フランと紹介されたドウルがもう一度ペコリ、と頭を下げる。その後すぐにナギサの隣にいたソウハが「ソウハです」と頭を下げた。



「僕はナギサです。で、さっき挨拶したのが僕のドウルのソウハ」


「アタシはミナミ」


「ミナミの相棒のマスクドポリス・プロトだ。長いからプロトでいいぞ」


「ナギサくんにミナミちゃんにソウハちゃんにプロトくんね。……ごめんなさいね。あまりにもワタシ好みの外見だったものだから攫っちゃった」


「攫っちゃったって……」



 驚くミナミに対して舌をペロリと出しながらも申し訳なさそうに頭を下げるジュン。隣でフランが再び「ジュンがすみません」と頭を下げる。

 このままだと謝られ続けそうな気がするので話題を作らねば、とナギサが口を開く。



「自分の店を持ってるプレイヤーがいるとは聞いてましたけど、本当にいるなんてビックリしましたよ」


「今日開店したばかりなのよ。店を構えるだけの資金がようやく集まってね」


「お店ってどうやって持つんですか?」



 ミナミの問いにフランが答える。



「ターミナルに土地と店舗の貸し出しをしているNPDがいる。その人に頼めばいい」


「NPD?」


「ノンプレイヤードウル。ナギサ君たちに馴染みの深い言葉で言うならNPCですね」


 そうか、ターミナルやカラオケ店で受け付けをしていた人たちはNPDというのか……とナギサとミナミは今更自分達がお世話になっている存在の名前に気付いた。

 続けてジュンが補足するように説明する。



「お金を貸してくれたり、両替してくれる銀行のような施設もあるわ。ワタシはお金の貸し借りがあんまり好きじゃないから自腹でこの土地を借りて……いや、購入したの」


「……ちなみにどれくらいしたか聞いても?」


「土地代だけで500万コインね」


「うわぁ」



 ゲームを始めたての自分としては考えられない値段だ。

 現実世界の土地代と比べればそう高くないかもしれないが……。



「ブティックってことは服をどこかから輸入してるんですか?」


「いいえ、基本的にうちは……」



 ジュンは自らのデバイスを操作し始めた。その手に握られているデバイスはナギサ達の物とは違い、宝石のようなアクセサリーでデコレーションされている。

 するとジュンのデバイスから一着のドレスが飛び出した。彼はそれをヒラヒラと目の前の4人に見せる。



「ワタシが作ったものを売ってま~す!」


「作る?」


「ええ。ミッションで獲得した素材を使って自分の好きな衣服を作っては売ってるのよ。あとはお客様からいただいた素材を元に好きな衣服を作ってあげるサービスも始めるつもり」


「へぇ~、そんなこと出来たんだなぁ……」



 話を聞くとANOではドウルだけでなくプレイヤーにも”隠しステータス”が存在するらしく、その中の”裁縫”のステータス値が高いと衣服やアクセサリーを簡単に作れるようだ。


 各ステータスの初期値はプレイヤーの現実世界での技術で決定され、ANO内でステータスに応じた行動をとっていくうちに上がるらしい。

 ちなみに確認方法は無い。つまり「気が付いたら上がっているものだと思ってください」だ。



「というわけで初めてのお客さん1号から4号!何か買っていかない!?」



 屈託のない笑顔でそう言うジュン。隣でフランが「勝手に連れてきて買い物させるなんて悪質……」と呟く。

 ナギサもミナミも(強引に連れてこられた形とはいえ)せっかくなので何か自分かドウル用に買って行こう……と思ったのだが。



「コインがあんまり無いんです……」


「右に同じ……」



 2人は申し訳なさそうに自分のデバイスをジュンとフランに見せる。

 ナギサの所持コインは1300。ミナミの所持コインは630。直前にカラオケに行ったのが実はかなり響いていた。

 それを見たジュンは別に驚くことなくこう言った。



「冗談よ。別に何か無理にでも買っていってもらおうなんて思ってないわ。でもせっかくだから色々見ていって!というか、色々着せるわ!貴方達2人とも良いスタイルしてるもの!そ、れ、と――」



 2人の後ろで立っているソウハとプロトの方へとジュンの視線が映る。うん?と2人揃って軽く首を傾げた。



「そこのドウル諸君も、オシャレを楽しんじゃいなさい!ANOのお店では人間相手だけじゃなくてドウル相手にも商売をしてるんだから!」








 そんなわけで、ナギサ達は色々な服を見て回ることになった。

 フラン曰く「開店記念セール中」ということだが、先ほど申した通り2人はコインを全然持ってないのでそこまで高い物は買えない。

 だが自由に試着して楽しんでいってもらえれば、とジュンが言うのでお言葉に甘えて何か似合いそうなものは無いかと探している。


 そもそもドウルが服を着替えてもバトル時に邪魔になる格好とかあるのでは……、と疑問に思ったが、「戦闘時のコスチュームと普段のコスチュームは別々に設定できるのよ?デバイスからでもドウルの着せ替えは出来るわ」とジュンから説明を受けた。



「ナギサ君ナギサ君。凄いものを見つけましたよ」


「……うわお」



 ソウハが抱えて持ってきたのは、背中のパックリと空いた異常に露出度の高い服だった。確かにこれは凄い。

 値段は……げっ、0が4つも。こんなに布面積が小さいのに?服ってよく分からん……。素材が良いのか?



「というか、それ着たいの……?」


「いえ、なんだか凄いなーと思って持ってきただけです」


「……ふむ、オシャレと言われてもよく分からんな。オレにこれ以外の格好なんて似合うのか?」



 そう言うのはプロトだ。常に警察官風の格好をしている彼は他の服を着ている自分の姿がイメージ出来ないのだろう。そもそもの名前が「マスクドポリス」だ。

 そんなプロトにフランが近付く。


「そんなことないわ。例えばこれなんてどう?上に着てるやつをちょっと貸して」


 フランは1枚の青いレザージャケットをプロトに手渡し、プロトに制服を脱ぐよう指示する。言われるがままに制服を脱いで白いシャツ姿になったプロトは手渡された青のレザージャケットを羽織った。

 そして手近なところにあった姿見にプロトを連れていく。



「……ほう!自分で言うのもなんだが、カッコいいな!」


「でしょう?色々試してみるといいわよ」



 プロトの声色はなんだか嬉しそうだった。中々イケてるなオレ……と続けて呟く。

 そんなプロトを眺めて、ミナミがフフっと笑う。戦いではいつもカッコよく活躍してくれている相棒が、服を着て楽しんでいる光景がなんだか微笑ましかった。



「貴女は?何かしてみたい格好とか無い?スラっとした体形だから何でも似合いそうよ」



 お次はソウハがジュンに問われ、ふむ……と考える。



「よく分かりません。何かオススメはありませんか?」


「ふふっ、じゃあ可愛い洋服なんてどう?その着物も似合ってるけど、洋服も似合うと思うわ」


「なあフラン、今度は帽子とかないか?」


「あるわよ。こっちへどうぞ」



 こうしてドウル3体とジュンはその場を離れて別の衣装を見に行った。その場にはナギサとミナミが取り残される。

 さて、自分達はこれからどうすればいいのだ。特に着たい服も無いが……。そうナギサが思っていると、ミナミが口を開いた。



「なんかドウルも人間も変わんないね」


「そうだね。飲食して、歌を歌って、オシャレして……。なんだかソウハと過ごしてると女の子の友達が出来たみたいで楽しいよ」



 そう言ってからナギサは気付く。

 一緒にご飯を食べて、カラオケに行って、ショッピング……。あれ?これいわゆる「デート」ってやつでは?

 彼女いない歴=年齢の自分にとって初めての体験では?……なるほど、多くのプレイヤーがこのゲームに夢中になるわけだ……!



「アタシさ、このゲーム始めた理由って”同じ話が出来る友達がほしかったから“なんだ」



 ミナミが続けて口を開いた。



「別に現実で友達がいないわけじゃないんだ。でもヒーローの話が出来る友達っていなくてさ……。そんな時、このゲームの広告を見つけたよ。アタシの記憶を元に誕生する相棒……そいつとなら、ヒーローの話で盛り上がれるんじゃないかって」


「…………」


「正解だったよ。プロトは特撮ヒーローみたいにカッコいい外見で、それにアタシと同じヒーロー好きだ。このゲームの抽選に選ばれて本当に良かった!」


「そうなんだ。それは良いね。僕は友人に誘われてなんとなくだけど……」



 でも。

 彼女と一緒に過ごす時間はとても楽しい。そんな恥ずかしいことを口にしようとした瞬間だった。



「ナギサ君」



 ふと、ソウハの声がしたので振り返る。

 そこには……。



「あの、あんまり慣れない格好なので似合ってるかどうか不安なのですが……。どうですか?」



 少しだけ恥ずかしそうな顔で花柄のワンピースの端をつまみながら立っているソウハがいた。

 大丈夫、似合ってるよ。着物だけじゃなくてワンピース姿も良いね。お金に余裕が出来たら君用に洋服でも買おうか?

 そんな褒め言葉を言おうとしたナギサだったが、咄嗟に口をついて出た言葉とはこうだった。



「カワイイーーーー!!」



 急な大声に驚いたのかソウハの方が少し跳ねた。ミナミもおとなしそうなナギサからはあまりイメージできない声色に驚き「何事!?」と口にする。



「うちの子、めっちゃカワイイーーーー!!」


「……君、そんな声出せたのか」



 余計に恥ずかしがって何も言えないソウハの後ろで、テンガロンハットを被ったプロトが呆然と呟いた。










「あらお似合い!キリっとした眉してるからこういうカッコいい衣装絶対に似合うと思ったのよ!」


「な、なんか照れるな……。でもいいねこの服!一昨年放送されてたドライザー・ゼロツーに出てくる敵組織の”唯我毒尊”の幹部、ポイズンの人間体がこんな格好してたよ!」



 灰色っぽいシャツに黒いライダースジャケットを羽織り、クールに決めるミナミ。それを見たジュンが両手をパン、と鳴らして褒め称える。


 値段はやはりそれなりにするのだが、ゲーム内で金銭を稼ぐ方法がそれなりにあるので、決して手が届かない存在というわけでもなかった。

 聞けばミナミの通う高校はアルバイトが禁止らしく、「服を買うほどお金に余裕無いけど、ANOの中なら色んな服着れるかも」と楽しそうな顔で言っていた。


 そんな自身のマスターの格好にプロトも興味を示したのか、「中々カッコいいじゃないか」と褒める。



「でもナギサさんには負けるよ。最初はどうかと思ったけど、それめちゃくちゃ似合ってるな!」


「一目見た時から絶対これが似合うって思ったのよ!貴方、化粧とか覚える気は無い?磨けば光るわ!」


「わたしもそう思うわ。ジュンは変な性格だけど見る目はあるのよ」


「ははは……。それはどうも……」



 恥ずかしそうにナギサが笑う。笑うというよりは、笑うしかないと言うべきか。

 彼の着ている服は確かに似合っていた。鏡で自分を見た時「これが……自分?」と唸るほどに。だがやはり猛烈に恥ずかしい。

 これが……これが、セーラー服でなければ。



「可愛いですよナギサ君」



 ワンピース姿のソウハがパチパチと拍手。

 君の方が可愛いよと言うほどの心の余裕は残念ながら無かった。








「親から買ってもらった以外の服とかだいぶ久しぶりに着ましたよ……。楽しかったです」


「貴方くらいの年の男性でそれは珍しいわね……」


「アタシもプロトも楽しかったよ!ありがとうなジュンさん!」



 それからしばらくジュンとフランの着せ替え人形にされていたナギサ達はそろそろ店を後にしようとしていた。



「リアルでも服を作るのは興味あるんだけど、女物の服って作っても着せる相手がいないのよね。でもANOなら安心!いつもこんな綺麗な女の子が隣にいるから着せ替え放題!」


「正直たまに迷惑してるけどね。あと、わたしはこの衣装が一番好きだし」


「まあまあ、そう言わずに。なんだかんだでフランも楽しそうにしてる時あるじゃない」


「ま、否定はしないわ」


「それに、現実で自分のお店を持つのは大変だし、売り物の洋服を沢山作るのなんてもっと苦労するけど、その辺はゲームだから楽なのよね。自分のお店を持つのって夢だったから嬉しいわ」



 感慨深そうに言うジュン。

 ANOにはバトルだけじゃなくてこういった楽しみもあるのか、とナギサとミナミは再確認した。

 あ、そうだ。とジュンが自分のデバイスを取り出す。



「お二人さん、良かったらフレンド登録しない?ここで会ったのも何かの縁だし、ね」


「縁?ジュンが無理矢理攫っただけでしょ」


「んもう、フランったら。いつまでそれ言うの?」



 気にしてないですから、とナギサとミナミは自分のデバイスを取り出し、ジュンからのフレンド申請を受け取る。




 PLAYER_NAME:ジュン

 ID:Jun☆

 DOUL:フランソワ

 RANK:C

 MESSAGE:

 セントラルエリアC地区にリリィ・ローズという名前でブティックを開きました♪

 赤い屋根が目印!開店記念でしばらくセールやってるので是非来てね☆




「「ランクC!?」」



 ナギサとミナミが驚愕の声を上げる。

 ランクCといえば現時点でのANOの最高プレイヤーランクで、そこに到達しているプレイヤーは数人しかいないと言われている。言われてみれば土地代500万コインと店を構えるだけの財力を持っている時点で並みのプレイヤーではないと思っていたが……。



「いやー、お金や素材を貯めるためにバトルやミッションをこなし続けてたらいつの間にかね……。気が付けばワタシ達を知っている他のプレイヤーから怖がられるようになっちゃって、ちょっと複雑な気分よ」



 目の前の陽気なお兄さん……じゃなかった、お姉さんが凄腕プレイヤーだったとは。

 するとソウハが口を開いた。



「つまり……貴女達を倒すことを目標にすればトップに近付けるってことですかね?」


「ソウハ!?」



 それを挑発と受け取ったのか、フランが口を開く。



「わたし達を倒す?……ふぅん、面白いじゃない」


「ふふっ、随分と熱いハートを持ってるのねぇ」


「いつかANOのトップに立った友達を打ち負かすのがナギサ君の野望ですから」


「野望って」



 それに、そんな話はこの前したけど本気で受け取らなくても……とは思ったが、トッププレイヤーになることに興味が無いわけではないので否定しきれない。



「つまり結局はトッププレイヤーになりたいのね?それならまずワタシ達は超えていくべきでしょうね。ただ……目標とするならワタシ達よりももっと強いプレイヤーとドウルがいるわ」


「まだ上がいるのか?」



 プロトが聞くと、ジュンとフランが揃って頷いた。



「ええ。同じくランクCの女性、アサミちゃんとそのドウル。おそらく彼女達が現時点でのトップよ。ワタシ達も何度かバトルしたけど、未だに一度も勝ててないわ」


「この世界の頂点を極めたいならまずは彼女達に勝つこと。お友達にもそう言っておいてあげて」


「現時点でのトップ……」



 そんなに凄い人がいるのか。どういう戦いをするのか一度見ておきたいな、とナギサは思った。

 ジュンとフランを始めとしたランクCプレイヤーに近付くにはまだまだ経験が足り無さそうだ。それでもいつかは彼らに近付けると信じて、今は地道な努力を続けていこう。






  ◆






「オシャレしたくなったらいつでもいらっしゃい!あとANOで困ったことがあったらいつでも相談してね!力になるわ!」


「今日はジュンに付き合ってくれてありがとね」



 ナギサ達はそう言うジュンとフランに見送られて店を後にした。


 ――こうしてたまに遊ぶくらいのコインは常に持っておきたいな。


 オシャレに娯楽施設に、コインの使い道は多岐に渡ることを今日初めて知った。こうしてソウハや他のプレイヤー達と遊ぶのは悪くない。

 ANOはバトルだけじゃないのだ。



「――それじゃあアタシはここで失礼するよ。またね、ナギサさん、ソウハちゃん」



 そう言って、ミナミは自分のデバイスを操作してログアウト処理を開始する。

 その隣でプロトが軽く頭を下げた。これまでの挙動から察するに彼は真面目な性格らしい。



「またミナミと遊んでやってくれ。勿論、バトルも大歓迎だ。ソウハ君、またいつか戦おう」


「ええ、次は負けません」


「じゃ、またねミナミさん」


「うん!またね!」



 ソウハとナギサは光と共に消えていく2人を見送ると、また歩き出した。



「ナギサ君」


「何?」


「今日は楽しい一日ですね」


「……そうだね!」



 ――次はどこに行こうか?他にはどんな施設があるのかなぁ。

 ――あれはなんでしょう?建物の真ん中に大きな蟹がいますよ。


 あちこちに見える建物を指さしながら、歩き続ける。

 この世界にはまだ自分達の知らない驚きと発見が一杯あるに違いない。これからもこの世界を見て回ってみよう。そう思いながらナギサはソウハと過ごすこの時間の楽しさを感じていた。










 そしてその日の最後はふらりと立ち寄ったカジノ施設で1300コインを一気に擦り減らした。

 5連続で玉が赤に入るわけが無いだろう。イカサマに決まっている。

 ……そう思わなきゃやってられない。



「だからあそこで黒にしとけばいいと言ったんです私は!」



 おとなしいソウハが珍しく声を荒げてナギサを叱る。あれに賭けたお金で一体どれだけの中華まんが!ソフトクリームが!食べられると!と責め続ける。

 ナギサは「ごめん……本当ごめん……」と申し訳なさそうに呟きながら、下を向いて歩く。


 そしてそれを少し遠くから見つめる一人の人物がいた。



「あの人って……」



 それはボブヘアーの髪型の女性だった。

 先日の講義でナギサの隣に座っていた女子生徒である。



「どうかしたか、カエデ?」



 カエデと呼ばれた女性の隣に立っていた長身の赤髪の男性が声を掛ける。

 鎧ではなく赤黒いジャケットを羽織っているが、その顔と声はナギサがANOにログインした初日にスタジアムで戦っていた、青銅の鎧の騎士と同じだ。



「ふっふっふ……ゲーム仲間、ゲットだぜ」


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