和菓子職人
開店時から賑わうカフェ・ルミエールに珍しい客が現れた。
近所の木村菓子店の親方とその店で修行する若い女性職人の奈津美である。
「あら、木村さん、いらっしゃいませ」
洋子が頭を下げると、親方は少し恥ずかしそうな顔。
「はい、親方がどうしても、マカロンが食べたいと言うので、私もご相伴です」
奈津美はうれしそうな顔をする。
「いやね、マカロンはこれで案外好きなんですよ」
木村親方は、相好を崩した。
「そうですねえ、和菓子で言えば、最中に近いですかねえ、あえて言えばですが」
洋子もうれしそうな顔になる。
そこから菓子談義が始まった。
「これで、親方、案外洋菓子も好きなんです」奈津美
「へえ・・・意外・・・」洋子
「いやね、和菓子職人だってね、いろんな味を知らないとさ」木村
「あら、私も和菓子大好きですよ、木村さんの作る餡も完璧で大好きです」洋子
「いや、洋子さんに、そう言われると、照れちゃいますよ」木村
「親方、顔赤いです、妬けます」奈津美
「そこでね」
木村は少し顔を赤らめながら、何か話があるようだ。
「はい・・・何でしょう」
洋子は木村の次の言葉を待つ。
「この奈津美を、少し洋菓子の修行をさせてはいただけませんか」
「基礎はできています、私が保証します」
木村の話は、奈津美をカフェ・ルミエールで修行させることだった。
「そうですか・・・それは・・・」
洋子は少し奈津美の手を見た。
そしてすぐに返事。
「わかりました、人手もたりないところでした、助かります、お待ちしています」
にっこりと笑う。
「いやーーー少し心配だったけれど、安心しました」
奈津美は、ホッとした顔。
「私もね、たまには和菓子も作りたくてね、それも親方に教わりに行こうかしら」
「和菓子と緑茶も、メニューに加えたいと考えていた時でしたし」
洋子から、少し意外な言葉も飛び出した。
「それでね」
洋子は二人にウィンク。
キッチンから、香ばしい匂いとともに、日曜日限定アルバイトの史が現れた。
そして、二人の前に「淹れたてのほうじ茶」を置く。
「ほう・・・寸前にほうじたんだ・・・これは美味い・・・」親方
「う・・・美味しすぎ・・・」奈津美
奈津美の顔が赤らんだのは、ほうじ茶だけが理由ではない。
何よりその視線を史から離すことが出来ないのである。




