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決めた事

トマトは目を開けた。


あくびを噛み殺したデカくて赤い顔の閻魔大王と目が合った。


「久しぶり、閻魔様。」


矢部倉坂(やべくらざか)マト、いや、今はトマトと呼ぶべきか。犬となって新たに増えた罪状は魔王殺害だが、状況から見て無罪に近いな。」


閻魔大王は巨大な杓を片手に、こちらを見下ろした。


俺は自分の体を見た。


「うわっ!? 」


なんと、上半身はトイプードルで、下半身は人間の足だった。


「あと、もう少し死ぬのが遅ければ、完全に魂は犬の形であっただろう。」


「俺は、死んだのか? 」


「いや、まだ死んではいない。」


「、、、いやいやいやいや、死んだ筈だろ!? 」


「お前に選択肢をやろう。」


「は? 」


「貴様が人間の方の世界での肉体は、仮死状態となっている。死んだとき死装束でなかった事を、不思議だと思わなかったか? 」


そう言えば、始めてここに来たとき俺は死装束じゃなかった。


てっきり葬式とかの手続きもなく埋められたのかと思っていたが。そうか、死んでなかったのか。


「そして、貴様が犬の方の世界では、右目と融合した魔道具の石が作動し、回復しておる。まぁ、魂が返るかどうかは運次第だがな。」


「右目と融合した魔道具の石? 」


「転送魔法で石が右目と融合していただろう? あの石は、魔王の妹の桜が作ったものだ。透明化の魔法、入れ替わりの魔法、更に持ち主が命の危険に晒されると自動的に回復魔法をかける。」


「え、えええ!? なんでミーテの父親は、そんな貴重な魔道具の石を俺に投げたんだよ!?」


「転送魔法で、移動すると、体の一部が混合するというのは知っているだろう? その魔道具を発動させるには体内に取り込ませる必要がある。転送魔法の混合を利用して石を体に取り込ませる予定だったのだろう。だが、ミーテの方に投げるつもりが、間違えて貴様に当たったのだ。」


なんか、ごめんね。ミーテのお父さん。


「さて、選択肢は三つ。」


三つ?


「一つ目、貴様が人間だった世界に帰る。」


仮死状態から生き返るって事か。


「二つ目、貴様が犬だった世界に帰る。」


再びトイプードルとして生きるって事か。


「三つ目、今までの記憶全て消して新たに生まれ変わる。」


今度は記憶無しで普通に転生するって事か。


「10秒で選べ! 」


「え!? またカウントダウン形式!? 」


「十。」


「あ! 最後に閻魔様に言いたい事があるんだよ!! 」


「九。」


閻魔大王は無視してカウントダウンを続けている。

だが、言うなら今だ。


「魔王を殺したのは閻魔様だと俺は、思った。」


「八。」


「閻魔様が直接手を下したわけじゃないけどな。」


「七。」


「俺の前にもインコとして転生した奴がいただろう。」


「六。」


「そうやって過去に戻ろうとする魔王を追い込んで殺させた。」


「五。」


「だとしたら、閻魔様。」


「四。」


「あんたにも罪状がある。」


「三。」


「それは、殺害幇助だ。」


「二。」


「俺は。」


「一。」


「トイプードルに帰る。」


(ゼロ)。」


俺は、光に包まれた。





トマトが消えた地獄の法廷。


閻魔大王は次の裁判の亡者を呼んだ。


(よすが) 飛魔(とま)、入れ! 」


シーーン。


誰も入って来ない。


「おや? 」


閻魔大王の横にいた鬼が首をかしげた。


「見て参れ。」


「承知。」


鬼が素早く走り、暫くして戻ってきた。


「閻魔大王様、縁 飛魔がおりません。」


「もしや!? 」


ハッとして閻魔大王は素早くある巻物を開いた。


「あやつまで送ってしまうとは。あちゃー、間違えた。 」


「閻魔大王様、先程の言葉に動揺されましたね? 」


鬼の言葉に、閻魔大王は苦虫を噛み潰した表情になった。





「 」


どこからか声が聞こえる。


「ちょっと、あんた。」


あんた?


あんたって失礼な。俺にはトマトというれっきとした名前が。


「起きなさいよ、バカ犬。」


失礼な奴だな。誰が起きてやるものか。


すると、俺の瞼に誰かの冷たい手が置かれた。


「ぐぬぬ。」


なんか、こいつ、無理やり俺の目こじ開けようとしてくんだけど!?


「ワン!!! 」(何すんだ、てめぇ! )


目を開けると服があちこち破けた魔王が座っていた。


周りを見渡すと、どうやら俺たちは瓦礫の山の上にいる様だ。


多分この瓦礫は飛行船のだろう。


「ワン? 」(魔王、何で生きてるんだ? )


魔王はじっと俺の目を見つめた。


「皮肉なものね。最後はあの子に助けられるなんて。」


あの子?


「研究なんてあの子には不向きだったし、全然あたしの講義聞いてなかったと思ってたけど、まさか、こんな魔道具を開発していたなんてね。」


もしかして、俺の右目の事か?


「不思議そうな顔してるわね。犬っころ。」


魔王はぽふぽふと俺の頭を叩いた。


「その右目の自動回復機能。持ち主やその周囲の味方も回復させるのよ。あんた、なんであたしの事を敵と認定してなかったの? 」


「ワン。」(いや、バッチリ敵と思ってましたよ? )


「やっぱり、水晶が無いと何て言ってるか分っかんないわねぇー。そうだ。」


魔王は俺の頭をガシッと持って持ち上げた。


あイタタタタタタタ。


魔王は飛行船の紫の破片を持って何かぼそぼそ呟いたあと、俺の額にそれをグッと押し付けてきた。


痛い痛いってイタタタタタタタイ!


魔王がパッと手を離した。


俺は素早く駆け出そうとして、またガシッと掴まれた。


「周りを見なさいよ、全く。破片が危ないでしょう。」


地面をよく見ると、確かに鋭い欠片が散らばっている。


「確かに、こりゃ危な、、、!? 」


え? 今声が!?


「案外上手く行くものね。拒絶反応もないし。」


「魔王!? こ、声が、俺声が出るんだけど!? 」


「心の声の一部を犬の声帯を通して外に出せるようにしたのよ。別に心が筒抜けって訳じゃないわ。でもまさか、上手く行くとはねぇ。」


「これ、上手く行かなかったらどうなっていたんだ? 」


「さぁ。」


「さぁって。」


「だって、初めてやったのだもの。」


うわぁー、魔王最低~。


「トマトーーー。」


遠くでミーテの声が聞こえた。


魔王が俺の頭から手を離した。


「さっさとお行きなさい。」


「魔王はこれからどうするんだ? 」


「あー、どうしようかしらねぇー。」


魔王は空を見上げた。


「多分あたしの予備の作戦で、ダラハットとヒガリの土地が帰ってくるし、不可侵の結界も張れてる頃だとは思うのよ。」


「え? なにそれ? 」


「あたしはシロリア王国でこっそり人工魔法兵を開発させてたのよねぇ。ま、実際は単に魔法で怪物に変化させていただけよ。前線に出させて、丁度ヒガリとダラハットの所で解除させて。後は、結界張って終わり。彼処の土地は水もあるし、それに、彼等は吸魔鬼化させているからいくらでも魔法が使えるわ。スチュワートや石蛭達が今頃、魔法使い方を教えているでしょうよ。」


「お前、実は良いオカマだったりする? 」


「さぁ。どっちかしらねぇ。」


魔王は不適に笑った。


「トマトーーーー。」


あ、ジョナサンも俺を探してくれているのか。


「早く行きなさいよ。」


「魔王、その事なんだけどさ。俺はミーテの所に、戻るつもりは無いんだ。」


魔王は目を見開いた。


「なぜ? じゃあ、どうするのよ。」


「ミーテに最早俺は必要ないよ。これからミーテの側にはジョナサンが居てくれる。多分俺なんかより、あいつはずっと便りになるさ。」


トマトーーー、と遠くで呼ばれる。


「なぁ、魔王。俺と一緒に旅に出ないか? 」


「あ、あたしと!? 」


「俺はあんたを見張りたい。またミーテに危害を加えないかどうか、見続けたい。」


「あぁ、そういう事ね。まぁ、もう過去に戻ろうとは思わないわ。エンマーがいる限り、それが叶うことは無いって分かったから。」


「だけど、俺はまだ、ちょっと疑ってるんだ。」


「はぁ、別に良いわよ。因みにあたしは今はあの場合に帰るつもりは無いけどね。」


「なんで? もう、帰れるんだろ? 」


「あたしにとって、故郷は過去のヒガリ王国ただ一国。新しく建つ場所は、最早新しい国。過去のヒガリとはどう足掻いても、違うわ。その新しい国では石蛭に舵をとってもらうつもりよ。古いあたしはまだ、いない方が良いわ。だって、あの子。あたしがいると独り立ち出来ないもの。」


「へー、じゃあ、どこへ行く? 」


「そうねぇ、南の方に行こうかしら。」


「よし、それじゃ行こうぜ、魔王。」


「はいはい。」


魔王は立ち上がり歩き出した。


俺もその後ろに続く。


ミーテの俺を呼ぶ声が遠ざかっていった。






一年後。


リーン、ゴーン、リーン、ゴーン。


イスス共和国のとある小さなチャペルでは、細やかな結婚式が行われていた。


イスス共和国特有の、水色のウェディングドレスに身を包んだミーテ、白いタキシードを着たジョナサン。


二人は手を繋ぎ、式場の外に出た。


「ミーテ、ジョナサンおめでとう! 」


「幸せになれよ! 」


二人の両親、親族やご近所さん達が桃色の花びらを二人の頭に振りかけていく。


花弁に混じって一枚の小さな手紙がミーテの上に舞い降りた。


ジョナサンがキャッチし差出人を見つめる。


「トマト? 」


ミーテは手紙を開けた。



ミーテへ

トマトです。

結婚おめでとう。


手紙には汚く大きな字で、それだけが書かれていた。


「トマト。」


ミーテの瞳からホロリッと涙が溢れた。






「なぁ、魔王。俺の手紙ミーテに届いたかなぁ。」


魔王の足元から、トマトは聞いた。


「届いてるわよ。あたしの自動輸送風魔法が成功していればね。」


南国の市場で魔王はカラフルなスカーフをじっくり吟味していた。


「なぁ、そんなにスカーフの色が大事か? あ? もう、その緑で良いじゃん。」


「駄目よ、そんな選び方だと後で後悔するわ。」


「へいへーい。」


トマトは大きく欠伸をした。

ここまで、この小説を読んでくださった方々、今までありがとうございました!

大変稚拙で至らない部分など多々あったと思いますが、ここまで、小説を書けたのは読者様が見てくださったお陰です。本当に、ありがとうございました。

もし感想や質問などが御座いましたら書いてくださると嬉しいです。

今まで本当に、本当に、ありがとうございました!!

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