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四坪ハウスのお殿様  作者: 東のマ王


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第1話:魔王の引っ越しと、3歳児の聖域。

永禄四年(1561年)、尾張国・清洲城。


大広間を支配するのは、凍りつくような沈黙と、息を吸うことすら許されぬほどの圧迫感だった。


その上座に腰を下ろすのは、前年桶狭間で今川義元を討ち取り、尾張の覇者となった織田信長。

その鋭い視線の先には、縄を打たれた男が床に押し付けられていた。


斯波義銀(しばよしかね)――織田家が本来仕えるべき主君であり、尾張守護の名門当主だ。


「義銀。良かぬ奴らと結び、この信長の首を狙ったそうだな」

「くっ……」


信長の声は氷のように冷たい。守護としての威光を取り戻そうとした乾坤一擲(けんこんいってき)の策は完全に露見していた。


「ただの神輿(みこし)が色気づいて余計な真似をしおって……。もはや、この尾張に貴様の座すべき場所はない。命までは取らぬ、今すぐこの尾張から立ち去るが良い」


名門・斯波家の失脚と追放の宣言だった。


そこへ重臣の一人がそっと進み出て、信長に耳打ちする。


「殿。義銀には生まれたばかりの乳飲み子がおりますが、いかがしますか?」


大広間に不穏な空気が流れる。だが信長はフッと不敵な笑みを浮かべた。


「揺籠の中の赤子まで恐れたとあっては末代までの恥。その赤子は尾張の片隅で泥水でもすすらせておけばよかろう」


魔王の気まぐれにより、その赤子――鶴千代(つるちよ)の命だけは繋ぎ止められた。


 ◇◇


それから二年の月日が流れた。


永禄六年(1563年)。美濃攻略のため、織田家の本拠地が清洲から小牧山城へ移ることが決定する。

それに伴い、清洲の片隅のボロ屋で暮らしていた斯波家の御曹司――鶴千代のもとにも「監視のため小牧山の麓へ移住せよ」との非情な命令が届いた。


「嫌だぁーーーっ! お引っ越ししないぃーーー!!」


小さな庭で激しくギャン泣きしている幼児がいた。

数えで三歳、まだよちよちとした歩き方が少しおぼつかない幼子・鶴千代である。


「鶴千代様、泣かないでください! 小牧山もきっと楽しいところですよ!」


十歳ほどの幼い侍女・おちよがオロオロしながら必死になだめるが、鶴千代のギャン泣きは止まらない。


「やだぁーー、お外こわいぃー! ずっとここにいるぅぅぅ!!」


イヤイヤと激しく首を振り、地団駄を踏む。

しかし、あまりにも興奮して暴れたせいで、おぼつかない足がもつれて派手に地面の上へとすっ転んでしまった。


「あうっ!?」


どてん、と尻もちをつき、勢い余って頭を軽く地面に打ちつける。

そのあまりの痛さに鶴千代の頭の中に激しい衝撃が走る。

――その瞬間、パチリと前世である「現代の大学生」としての記憶と知識が流れ込んできた。


(……あれ? ぼく、前世で『ぷりん』っていう、あまくて美味しいものを食べていた気がする……。それに『えあこん』っていう自動でお部屋が涼しくなるすごい物も知っているぞ!)


精神年齢は三歳児のまま、前世の記憶が「なんだか知っている不思議な知識」として流れ込んでくる。

それと同時に、体の奥から温かい謎の力が溢れ出した。


(引っ越しなんて絶対にイヤ! ここでお小遣いを貯めてプリンを食べて暮らすんだ!)


幼い物欲が爆発した瞬間、鶴千代の手に不思議な感覚が走った。


「……そういうことでちゅか」


鶴千代がその小さな拳をぎゅっと握りしめた瞬間――。


「きゃああ! な、なんですかこれは!?」


庭の地面が眩しく輝き、おちよが驚いて悲鳴をあげた。


その光の中からガガガッと突き出て来たのは、十坪ほどの敷地をピカピカの「金属製のフェンス(柵)」で四角く囲み、その中央には、木と白い壁でデザインされた、スタイリッシュで美しい『キューブ型の小さな家(四坪ハウス)』が、ドカンと鎮座していた。


「な、なんですかこれ……妖怪ですか……!?」


涙目でガタガタ震えるおちよの手を、三歳の鶴千代はにっこり笑顔を浮かべて引っ張った。


「ねーね、こっち! 入る時は草鞋(わらじ)を脱いでね!」


カチャリ、と自動でスマートロックが解除され扉を開けると――。

そこには、隙間風ひとつない密閉空間。

天井には太陽のように明るいLEDの照明が輝き、エアコンから吹き出す涼しい風がおちよの頬を撫でた。


「な……なんですか、ここ……」


玄関に立ちつくし呆然と呟くおちよ。


「ここはね。ぼくのひみつきち、なの!」


鶴千代はふんすと小さな胸を張り、得意気に笑ってみせた。

こうして清洲の片隅に、二人だけの秘密の城が誕生したのだった。

「ボロ屋敷」を「ボロ屋」に修正しました。

鶴千代たちが暮らしている家は清洲の片隅の小さなボロい家なので「屋敷」ではなく「あばらや」とか「小屋」そんなイメージです。

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