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21 念願の

初手でタケノコを爆散させた父親は、コツを掴んだ後は余裕でクワを使いこなしていた。

魔力消費など何の問題もないようだ。


ピロン

『あの男は銃魔器の扱いに長けているのだな。一打一打に瞬発的な魔力を込めている。何故猟師なんかやっているのか。ライガ!聞いてみろ!と監視者が強い興味を抱いています』


俺は小さく首を振る。

他人のプライベートに首を突っ込む趣味もなければ、そんなコミュ力もない。


『持っていた猟銃も相当質が良い。ただの猟師が持つ物ではない。元はハンターだったのだろう。と監視者が分析しています』


ハンターと猟師は何か違うのか。また翻訳のバグなのか。尋ね返せないのだから、あんまり喋らないで欲しい。

俺は座り込み、投げられる掘り立てのタケノコを受け取っては土を叩いていた。


「えーと……お父さん。もう十分です、ありがとうございます」


俺の隣にはタケノコが小山を作っていた。

父親は険しい顔で振り返った。


「お前のお父さんじゃねぇ」


「当たり前だろ」


どこに引っ掛かってんだ。

ふん、と鼻を鳴らすと父親はクワを肩に担いで戻って来た。


「ジャウルだ。ジャウル・タビー」


「はい?何?」


「名前だ」


「あ。ジャウルさん……ライガ・カムイです。よろしく」


「ん」


父親改め、ジャウルがクワを地面に置いた。

俺と一緒にタケノコの土払いをしていたパッドがジャウルに駆け寄る。


「おれもやるー」


クワに手を伸ばすパッドから、ジャウルがクワをバッと遠ざける。


「お前はダメだ。危ねぇだろ」


「やる!やりたい!ライガ!」


足早に戻って来たパッドが俺の服を縋るように引っ張る。


「え、うーん、クワは流石に危ないかな。重いし」


親がダメと言うなら他人が許可を出す訳にはいかないだろ。


「やだー!やる!」


「パッド!!」


「うう……うあーん!!」


叱咤の声が威嚇のように響く。パッドは泣き出してしまった。

俺を挟んで親子喧嘩するのやめてくれないかな。

泣き出したパッドを前に、ジャウルは苦虫を嚙み潰したような顔をして、唸っている。

どうしたら良いのか分からないと言った顔だ。


「あー……一回だけ、やらせてみても良いんじゃないですか。ただやるなって言われても、まあ、納得いかないって気持ちは分かるし」


「……お前だってさっき危ねぇって言ったじゃねぇか」


「パッド1人だと危ないけど、後ろからクワを支えてあげれば何とかなるでしょ。実際、自分で握ってみれば何が危ないのかも分かるかもしれないし」


「………そうかよ。んじゃ、はい」


「え?」


「ア?」


ジャウルがクワを差し出して来た。俺達はクワを挟んで見詰め合う。肩の服を掴んだまま、俺の背中でグズと鼻を鳴らすパッド。

固まっているとジャウルが更に眉を寄せた。


「お前がやるんだろ」


「……あ、ハイ」


まあ、休んだおかげで少しは体力も魔力も戻っている。一回くらいなら振れるだろう。

クワを握り、立ち上がった。

俺に託しておきながら、ジャウルの眼光が強まった気がする。なんでだよ。


パッドは嬉しそうに鼻を啜り、俺の足元をついて来た。

数歩後ろからジャウルも付いて来る。


「パッド、足元の笹の葉を退かしてみて。タケノコの頭が少し出てる筈だから」


「うん!」


しゃがみ込んで枯れ笹を手で払うと、「あった!」と見上げてくる。

一緒にしゃがみ込み、2人で土を掘った。因みにジャウルは最初掘らずに勘だけでクワを振り下ろしていたので、粉砕されたタケノコも多かった。白い身の残骸があちらこちらに散らばっているし、瑞々しい匂いが土の匂いに混ざっていた。

後半は勘が冴えたのか、土ごとタケノコを掘り起こしていた。一発でだ。意味不明である。


楽しそうに土を掘るパッドの横顔を見て、強く思った。

パッドにはもう少し丁寧な生き方をして欲しい、と。


「タケノコ出たね!」


しっかりと茎が見える位置まで掘り起こした。


「よし、じゃあ本番だ」


パッドの後ろに回ってしゃがみ込み、小さな手の上に自分の手を重ねて、2人でクワを持つ。

ジャウルの気配(警戒心か?)が強くなった気がしたが、何も言って来ないので無視した。

クワを握ったパッドは嬉しそうだ。わざと力を緩めるとクワがグラつく。「おもーい!」とパッドは笑っていた。


背後からの視線が突き刺さっている俺は、半笑いのような表情を見せる事しか出来なかった。

ジャウルは何かを試しているんだろうか。疑いや怒りではない、何かを推し量ろうとしている目だ。


俺は息を吸いこむ。


「タケノコの向こう側から、根っこを狙って振るんだ。せーので振るぞ」


「うん!」


小さな体を精一杯伸ばしてクワを振り上げたパッド。


「せーの、」


鍬平の重みにブレる軌道。根元から少しズレた位置に突っ込み、土が飛んできた。

胸の前で「あはは!」と笑う軽快なパッドの声。顔面に飛んできた土の飛距離に、俺は少し震えた。


威力こそ全然違うが、ジャウルと同じような土の爆破が起こったから。

この子も魔力を瞬間的に込めるのが上手いのかもしれない。


「ライガー、タケノコとれた?」


振り向いて来るパッドにも泥が跳ねていた。俺は笑うしかない。


「見に行ってみよう」


さりげなくパッドからクワを離す。

顔の土を払ってから立ち上がると、パッドから手を繋いできた。目前のタケノコまで距離などないのに、「こっち」と手を引いてくれる。

大人しく案内されるままに歩き、2人でタケノコの前にしゃがみ込む。


触ってみると、根元が半分以上切れていた。


「これなら手で千切れるかな」


「手?」


「うん」


タケノコを掴み、捩じるように引き上げてみる。しかし中々に頑丈だ。15秒ほど奮闘したが、俺の力はすぐに失速した。

「おれもてつだう」とパッドの手が俺の手の上に重なる。2人で捻ってみたが、微かに曲がるだけでやはり切れない。繊維質の固まりめ。


「はあ……ナイフかハサミがいるな、やっぱ」


持ってきたカタログから買うか、もう一度クワで叩くか。悩んでいると、視界にぬらりと冷たい銀色の光が入り込んだ。

左目のすぐ横に、サバイバルナイフのようなごつい刃がある。

そっとナイフから、ナイフを握る手、そして顔までを伝って見上げた。


ジャウルがナイフを差し出していた。


「……怖すぎる。なんか言ってくれ」


「………ん」


それ言った事にならねぇからな。と心の中で突っ込み、そっとナイフを受け取った。


「おれがする」


パッドが手を伸ばしてきた瞬間、ジャウルの気配がまた強くなった。怒る気だと察し、ナイフをパッドから遠ざけた。

小さな指が空を掻き、ジャウルの気配も弱まった。


「わかった。パッドがして良い。でもナイフを勝手に触ろうとするのはダメだ。そういうのを危ないって言ってるんだ」


俺の声に2人は静かになった。

パッドは手を引いて「ごめんなさい」と謝り、ジャウルは少し肩を下げたようだった。


「うん、じゃあ今からナイフを貸すからちゃんと握ってな」


刃先を持ち、柄を差し出す。────ジャウル、見てるか。刃物を誰かに渡すときは柄を向けるんだぞ。と心の中で念じた。

ジャウルは見ているようだが、念が伝わっているかは分からない。


「うん」とパッドは小さな両手で柄をしっかりと握った。


「タケノコを支えてるから、根っこの所を切ってくれ。絶対怪我するなよ」


「うん!」


俺は少し移動し、根元が良く見えるようにタケノコを片手で持ち上げた。気付けばジャウルがパッドの真横に立っていた。

何かあればすぐに対応するつもりなのだろう。


パッドは千切れかけの根本にそっと刃先を当てた。

細い手首に力が入ったかと思うと、刃先が微かに光った。光を反射したんじゃない、内部から発光したのだ。

ナイフも魔力を消費するのだとそれで分かった。何の魔法が掛けられているのだろうか。


子供の小さな手でも、大した衝撃も苦労もなくサックリと頑丈だった根本が切れた。

まるで豆腐に刃を入れるような手軽さ。


「とれたー!」


パッドは嬉しそうに笑い掛けてくる。手元で光るナイフが怪しげに見えるのは、俺が小心者だからだろうか。

俺の手に乗っていたタケノコの重みが増えた気がする。


「……うん、上手に採れたな。これはパッドのタケノコだ」


「おれの?いいの!?」


「もちろん」


タケノコを差し出す。ジャウルがパッドの手からナイフを引き抜いた。無意識に安堵してしまう。

両手で大きなタケノコを持ち上げるパッドの目が、とても嬉しそうにキラキラと光った。

自分の胴ほどあるタケノコを抱き締め、眩しい笑顔を向けて来る。


「ありがとライガ!」


「こちらこそ。お手伝いありがとう」


俺が頭を下げるとパッドも頭を下げて返してくれた。可愛い奴だ。


「十分タケノコ採れたし、そろそろ帰ろうかな。………ちょっと多過ぎるし、良かったらジャウルさんも貰って下さい」


小山になっているタケノコを振り返る。ジャウルは片眉を上げ、首を緩く振った。


「木の根なんて食わねぇよ」


「根っこじゃないよ、メだよ!」


パッドが自分のタケノコを掲げて教えている。


「お前、それ食ってみろよ。全然美味くねぇぞ」


「どうやって食べるの?」


「剥けば食える」


ジャウルの言葉にハッとした。

まさかこの男、タケノコを生でしか食った事ないのかと。


「……掘りたてだから生でも食えない事はないけど、食い慣れてないと美味いとは言いにくいかな。調理したら美味くなりますよ」


「焼いてもまずかったぞ」


「アク取りしました?」


「あく?なに?」


首を傾げたジャウルの顔は険しいは険しいが、パッドと同じ無垢さを少し感じてしまう。

しかし可愛げよりも不信感を抱いてしまった。


魔界って文明あるんだよな。

こいつはなんで原始人みたいな事を言ってるんだ、と。



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